第26話「日常に潜む悪魔」
「よう、聖夜。久しぶりだな」
「おおっ、健文。お前はとうとう顔を出してくれなかったな」
久々の学校、教室で最初に出くわしたのは健文だった。数少ない友達のはずだったが、こいつは休み中ろくにラインすらも送ってこなかった。
「そりゃあなあ、男の部屋になんでお見舞いに行く必要があるんだよ。それにイブちゃんが来てたんだろ? 邪魔するほど野暮じゃねぇよ」
まあそういわれりゃそうなんだけど、それは言い訳に過ぎず、おれはこいつがただめんどくさかっただけなんだということを知っている。
「まあ、いいや。——ところで、俺がいない間、なんかあったか学校で」
新しい悪魔とか、下手すりゃ再びサキュバスの転校生が来てるかもしれないからな。
「そうだなあ、マスコミは多かったな。結構インタビューも受けたし、主に雷の話とか、焼け焦げた校舎を見に来るマスコミばっかだったけどな」
それは俺もニュースとか、ニュースアプリで結構見ていた。改めて見ると、特に特別教室がある方の校舎は結構半壊に近い状態になっていた。3階部分の天井などは完全にない。
「ひでぇ状態だよなほんと」
天使とは思えない所業だよほんと。
「それから、まあオカルトみたいになってるけど、ツイッターとかでは例の大男も話題になってるぜ。生徒はみんな見たといってるのに、警察は何も言わない。これは国家の陰謀だってね」
「……国家の陰謀は意味わからんなあ」
「だから雷を扱う軍事兵器を自衛隊が作り出して、それが暴走したとかそういう話だよ」
「それがあの大男だって? それはさすがに妄想が過ぎるな」
「でも実際、俺も見たし、お前なんてそいつに追われたんだろ? イブちゃんから聞いたぜ。ほんと、なんでお前校庭に出たんだよ、あの大男はお前だって節まであるくらいだぞ」
……そりゃ荒唐無稽だな。しかし、こういうのを真に受けるやつもいるから、ますます俺の教室の地位は下がりそうだ。
「あの大男をみたとき、教室に俺もいただろ。言いがかりはやめてくれよ」
「知ってるよ、だから冗談だ。ほんと、なんだったんだろうなあれ。異世界とか来た何かとかだったら面白いんだけどなあ。転生されたりしねぇかな俺」
「ばか、ラノベの読み過ぎだよ」
おしい、限りなく正解に近いぞ健文、そして転生せずともすでに地球は異世界の状態に近い。どうやら俺が因果を崩壊させたらしいからな。
「読書はいいことだろ? ……あぁそれから、あの転校性二人も1週間休んでたぜ、転校したばっかりだっていうのにな、雷がショック過ぎてアメリカに一時帰国したらしいよ。全くよくわかんねぇ連中だよな」
そうやって健文は手を天に向かって広げながらやれやれと首を振る。
「ずいぶん冷たい言い方をするな、休む前はシルア様ぁとか言ってたのに」
「今思えば、外人になんて興味ないし、俺には俺にもっとふさわしい女がいることが分かったからな。あんなアメリカ女もうどうでもいいのよ」
「そりゃあどういう意味だ」
「あとで教えてやるよ、ちょっとまだ恥ずかしいからな。そのうちそのうちだよ。きっとお前は驚くぜぇ」
なんだろうか、すげぇ腹立つ目をして俺を見てくる。
どうせろくなことじゃないんだろうが、今のおれはちょっとやそっとのことでは驚かん。
「ようわからんが、そのアメリカ女たちは今日から帰ってくるとイブに聞いたぜ」
まあ本当は本人から聞いてるんだけどな。
「なんだそれ、なんでそんなにタイミングがお前と同じなんだよ。なんか少しむかつく……いやいやムカつかんわ、俺には他に天使がいるからな、あんなデカいだけのアメリカ女はお前にやるよ」
少しカチッと来た。
お前みたいな小太りのオタクが俺の女を否定すんじゃねぇよ。と、思わず張り倒しそうになったのだが、俺は我慢した。
所詮は童貞のひがみである。
「…………なんだよその新しい天使っていうのは?」
「うん、気になるかあ? 内緒よ内緒、そのうち教えるからな」
げへへと言わんばかりの下衆な笑顔を健文は浮かべている、そこまで顔のパーツが悪いわけじゃないのにこういう表情したり、きもい発言をするからこいつは女友達とかできないんだよなあ。
「まあ、いいや楽しみにまっとくわ」
ところであの二人、シルアとピアニッシモが学校に来ていなかったのは、勿論、かったりぃからという理由以外がちゃんとある。
それは俺の夢の範囲が影響してるらしい。
基本的に俺によってサキュバスという属性をはく奪されてしまった二人はそもそもが俺の近くでしか存在できない。その近くというのが、俺が想像できる範囲内ということらしい。
だから例えば俺がものすごい学校好きっこだったり、学校というものに執着している男なら、俺がたとえ家にいても二人は学校に行くことができたのだが、残念ながら夢でさえも学校を思い浮かべることがない。
ゆえに、彼女たちは学校へは行かずひたすら、俺の部屋と夢の中で淫靡な生活をたゆたゆと過ごすしかなかったのだ。
というのがシルアの説明だったが、本当のところはただ学校に行きたくなかっただけなのかもしれない。まあそもそも好き好んで入ってきたのはあいつらなんだけどな。
そういえばどうやって、そういう学校入学へのルートを手に入れたんだかはひたすらに教えてくれない。
そんなわけで、前以上に女子生徒からの目線が厳しくなったなという点をのぞいては、特に復帰初日の学校は何一つ変わりなく過ぎて、放課後を迎えた。
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