第17話「天気と女心という悪魔」
「一日ごとに、美人のハーフが転校してくるなんてなんてラッキーなんだ」
健文は昼飯の時にそんなのん気なことを言っていた。
ピアニッシモとシルアは、幼馴染のイブらへんの女子集団に囲まれて食事をしている。クラスメイトの男たちは遠巻きにそれを見ていた。
それにしても、この間の一件で女子をないがしろにしたせいか、シルアは周りの女子と距離があるような感じで、ピアニッシモにばかり質問がとんでいた。
『ピアニッシモちゃんもアメリカ出身なんだー』
『へぇーシルアちゃんとは親戚なんだねぇ』
『顔小っちゃーい、アメリカでももてたの?』
女子たちの声が男二人で飯を食う俺たちにとってとても騒々しい。
「女子ってだけで、女の近くにいていいっていうのはずるいと思わんか聖夜」
健文は食べ物を口にほおばったまま、ふてくされながら言う。
「お前に度胸があるならば、話しかければいいだろ。だれもお前から話しかける権利など奪ってない」
「奪われてもいないが、与えられもない。与えれらえてない権利を行使するほど俺は傲慢な男じゃないんだ」
健文は相変わらずめんどくさい男である、自己弁護をこれほど巧みにできるやつもいないだろう。だから童貞なんだよお前は。
まあ思ってもそんなことは口に出さないが、それにしてもなぜおれは健文と友達なんだろうと考え、じっと手を見た。
「……なんだよ、急に押し黙りやがって、そもそも昨日だってシルアさんと帰るチャンスをつぶしたのはお前だろ、責任とって今日は何とかしろよ」
「何とかって……そんなに近づきたいならお前も少しは努力しろよ」
「できる努力はする、できない努力はしない。それが俺のポリシーだ」
くそ野郎だった……。
「何を言い争いしてるの?」
女の声がしたので顔を見上げると、そこにはシルアとピアニッシモがいた。
「はっ、は、これはシルアさんなぜここに」
息を乱しながら健文が答えた。
「べつに、言い争いなんかしてない。すこし下ネタトークで盛り上がってただけさ」
そんな健文をよそ眼に自虐気味に俺はそうやってシルアに返す。
「いやいやっ、俺らそんな変なトークしてないっすよ! 何を言うんだよ聖夜!」
健文は慌てて俺の言ったことを否定する、そして同時に俺を鋭い目でにらみつける。
「いいじゃん、そういうトーク。私も混ぜてよ」
ピアニッシモがギャルっぽく会話に混ざる。なるほど学校生活ではピアニッシモはギャルキャラで行くことを決めたらしいな。
それにしてもなぜ急にこちらに来たんだと、気になったのでさっきまで二人がいた女子集団の方に目をやると、案の定、こちらを見る目が鋭く睨みつけるかのようであった。何人かの女子がひそひそとたぶん悪口を言ってるのだろうということさえわかる。
露骨に俺を敵対視している、そんな風に思えた。
特にイブが俺を見る目は憎悪に染まっている。
どうしよう、この間の件もあるし、これ以上俺はイブともめるのはごめんだ。健文には悪いが、この二人にはさっさ女子集団の席に戻ってほしい。
しかし、そんな気持ちはおかまいなしに、弁当の並ぶ俺たちの学習机の上にシルアはケツを乗せた。
大変お行儀が悪かった。
さらにピアニッシモもそれに習って、シルアとは机の逆サイド側に同じように腰をかける。
俺の目の前の机の両サイドに制服のサキュバスが腰かけるという妙な展開になってしまった。それは机を向かい合わせにして座っていた健文も同じ条件なので、奴は大変うれしそうな顔を俺に向けた。
しかもちょうど二人のおっぱいのあたりが目線の先に来るのである。
健文にとっては眼福であろう。俺にとっては正直昨日散々もみまくったただの球体に過ぎないんだが。
「それにしても学校って結構ツマラナイネー、授業とか全部眠っちゃったヨー」
シルアはどうやら自分のエセ外人キャラを崩すつもりはないらしい。
「そ、そうですよねぇ、つまんないですよね。俺もすぐ眠っちゃいますよぉ、はははっ」
何も答えない俺に変わって、必死に健文がトークの受け答えをしようとする。残念ながらシルアもピアニッシモもお前の方を向いてるわけではないのだが。
それに健文は授業中に寝るようなキャラではない、必死にノートを取るタイプである。
「……とりあえず行儀が悪いから、座るのはやめろ」
そうやって冷たくあしらうとひどくふてくされた表情をシルアはこちらに向けた。
と同時に女子集団の視線が気になった。
『やめろですって……なによなんであんな偉そうなの』
『なんか、感じ悪い』
『そもそもなんで、あいつのところに転校生二人が向かったの、なんかあいつが脅したりしたんじゃないの』
ひそひそ声のはずであるが、遠くの女子集団からそういった罵詈雑言が聞こえてきた。いや聞こえてきた気がする。最近、耳がよくなったんだろうか、集中して聞こうとすればなぜかはっきりとその声が聞こえるのだ。
ただでさえ俺のクラスの評判なんてよくないのにサキュバスのせいでますます悪くなる。勘弁してほしいものだ。
「頼むから……学校ではあまり俺と親しくしないでくれ、嫉妬を買うのも怒りを買うのもご免なんだ」
机から降りたシルアにそっと俺は耳打ちする。
怒ってしまったのか、シルアはその言葉に俺からプイっと顔を背け再び女子集団の方を向いた。
その時である。
ズカァーーーーンッ!!
というう轟音が、窓の外、校庭の方から聞こえてきた。
と同時にあたりがうす暗くなる。
さっきまであんなに晴れていたのに、空には雨雲が満ちていた。
「なんだっ!?」
俺は思わずシルアと、そしてピアニッシモと顔を見合わせた。
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