第21話「エクスタシーの天使」
「はぁ、はぁ、はぁ、やっぱ最高じゃん……」
腕の中のピアニッシモはそんなことをささやくようにしていった。俺はピアニッシモを抱きかかえながら走り、シルアの元に届けた。すぐさまシルアはピアニッシモを包むようにして、彼女を抱きかかえる。
「まったく、無茶するんだからあなたは」
時を戻そう、ピアニッシモのタッチは間に合っていたのだ。
彼女はタッチと同時に、ヤーハダに帯電していた強い電圧の雷を受けて、そして絶叫……いや絶頂してしまったらしい。
あの時、ヤーハダが右手を振り上げると同時に、俺はあの巨躯に向かって、右手に握っていた長い鉄製の槍をぶん投げた。
ピアニッシモには紙製の
俺は中学時代に陸上でやり投げの経験があったので、500g以下の槍ならば70m位飛ばせる自信はあった。そしてシルアにあってから、夢の世界に限らず、現実でも妙に力が充実している実感があった。
もしかすると、ヤーハダのところまで飛ばせるかもしれない。もっともそうなったら、やり投げの世界記録になってしまうのだが、そういう思いで投げたやりは、ピアニッシモの上空を飛空し、ヤーハダの放った雷は見事にそこへと向かった。
こうして被雷を避けたピアニッシモは、その間にヤーハダ・マールカの元にたどり着き、体に触れ夢の世界へと送ることに成功した。
しかし帯電してる巨体に触れることで吹き飛ばされて、地面にたたきつけられた。そして感電して、いまその苦しみでピアニッシモは悶えている。いや、苦しみなのか、快楽なのかはわからない、彼女にとって両者に違いはたいしてないのかもしれない。
「夢の中に我を送ったか、女を犠牲にして。やはり
目の前のヤーハダが低い声で言う。
俺はいま、倒れこむピアニッシモとそれを抱えるシルアをかばうようにして、ヤーハダの前に立っていた。本当は夢の中に送り込んだ瞬間、勢いのまま突進して、ヤーハダマールカにドーンを決めるべきだった。
しかし、目の前で倒れこむピアニッシモを見た瞬間、彼女を抱えて距離を取ることが最優先となってしまい本来の予定とは崩れたのだ。ともあれ、丸焦げになってなくて本当によかった。
「無作為に人の建物に雷を打ちまくる方がよほど質が悪いぜぇ」
俺は、目の前の巨躯の見開いた両目がかける圧力に負けないように答える。正直言って自分の身長の2倍以上ある身体を目にして、ビビってはいた。
「人間の作ったものに価値なぞないわ、うん、震えてるのか小僧。なぜ目の前に出てきた? 夢の中でたたかったところでお前に勝ち目などないというのに」
ヤーハダマールカは顔をにやりとさせてそういう。隙だらけだ、この大男は俺が何もできないと思って何も警戒する様子がない。
ならばよし。
油断してる間に全力のドーンをお見舞いしてやるぜ!
……問題は帯電してるあいつの体に触れて大丈夫なのかということだが、ピアニッシモが耐えられたものが俺に耐えられないはずはない。
「くらえ! 俺の力を」
俺は一気にヤーハダマールカとの距離を詰める!
そしてやつの体が俺のドーンの射程に入るっ、いまだっ!
全身全霊、ぜんりょくのぉーーーーーーーーーっ
『ドーーーーーーーーーーーーーーーーーッ、ぐっ、ああぁぁぁぁ
しかし、ドーンを打とうとした瞬間に全身にしびれが走った。
やつの周囲に貼ってある電気の壁が容赦なく俺を襲う。
ぐっ、あああああああ、ああああああ。
動けるレベルじゃ……声もでねえ……
「バカなのかお前は! 俺の体に触れたら、こうなるくらいはわかるだろう? さっき小娘が触れた時は通常状態だったがな、お前が近づいてきたのを見て迎撃状態のフルボルテージしといてやったぞ。ふふふっ、これですぐに死なないとは、人間としてはよくやっているな、正直驚いているぞ」
クッソ長いおしゃべりをっぼーっと聞くしかないくらい俺の体はゆうことは聞かないし、痛い! 油断すれば気を失いそうだが、それだけはまずい。
「くっ、ぐっぅぅぅ」
俺はなんとか、この状態からでもドーンを放とうとするが、残念ながらしびれのせいで俺のモッコリもしぼみつつあった。
「まだ生きてるのか……丸焦げになりそうなもんだがな、どれっ、とどめを刺してやろう」
すると身動きの取れない俺に対して、目の前の巨体は両腕を大きく広げて、俺の体に覆いはじめる。
「ぐあああっ」
声は出ないのに、悲鳴だけはもれる。
そしてとても強く、目の前の巨躯はおれの背骨が折れるんじゃないかというほど抱きしめはじめた。世界で一倍いやなハグだぜ、畜生。
「くらえ、エレクトリカル・デス・ベアハッグーーーー!」
「——ぐわぁっぁぁぁあああああああああああああああああっ」
全身に衝撃が走る。
痛みが、かつてないほどの痛みが俺を襲う。むしろ痛覚がある方が不思議なくらいだ、電撃の衝撃に加えこの大男が出すナチュラルなパワーによって全身の骨が砕けそうだ。
や、やべっぇ。死ぬ……。
もうさすがに……、まだ、意識があるのが不思議なくらいだ……
うあ。
ぁぁぁぁ。
……。
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