第55話「巨大すぎる悪夢」
とまあ、なんだかピアニッシモからうれしい話を聞けて落ち着いた俺は、起こしていた上半身を倒して再びベッドを背にした。
「なによ、人が来てるのに横になるなんて失礼じゃない?」
「いやいや、けが人だからな俺」
ずっと、起きてるの辛いんだよ、それに、ピアニッシモ相手に失礼もくそもあるかい。
そうおもった瞬間、ズーーーーンっという音とともに、激しい振動が部屋を襲った。
「地震か!」
全くの余震なしでくるってことは、こりゃあでかいぞ。
しかし、激しい振動が一回来ただけで、その後の揺れは続かなかった。
「なんだ?」
そしてふと窓の方を見た。
なにか大きなものがある……あれ、あんなとこに大きな木とか生えていただろうか。窓の外には、街の風景を遮るようにして、大きな太い円柱状のモノが映っている。
木なわけはないんだ、あの周辺は道路のはずだ。突然道路に木がはえることがあってたまるか!
「ピアニッシモ、外を見ろ」
俺も急いでベッドを飛び出て、窓の方に近づく。
「なんだ!?」
窓から地面を覗き込むと、道路には道路をふさぐほどの大きさの巨大な足が道をふさいでいた。車は、その障害物のせいですすむことができない。
柱のように見えていたものは生き物、いや、人の脚部である、
おそるおそる、脚から上の方を見上げていく、腰には甲冑の草摺を身に着けており、上半身にも戦国の兵士のような帷子をまとっている、そして俺が顔を見上げ切った時に、そこには人の顔があった。
人の顔、いや、これはいわゆる鬼だ。頭には側頭部に二本の角を生やして、顔は真っ赤に染まり、目を見開いている。
文字通り鬼の形相だった。
「おい、なんだよ、これ……」
4階の俺の部屋から、窓から上を覗き込むようにしないと、その全身が把握できないほど大きい。少なくともこの病院の3倍くらいの大きさはあろうかという大巨人だ。
「ピアニッシモ……これって悪魔だよな? もちろん」
俺は、脚を震わせながら、ピアニッシモの方を向いて尋ねる。
「い、いえ、これは天使よ……増長天……とうとう四天王が駆り出されたか」
「あ、あれが天使だと……」
どう見たって、鬼にしか見えないんだが……それよりこの大きさ、一体どう対処しろっていうんだよ!?
しかし、その天使はしばらくじっとしたまま動かなかった。
俺たちは、その様子を病院の中からじっとうかがうことしかできない。
しかし、とうとう増長天は動きを見せる。増長天はゆっくりと右足を地面から離して。そして勢いよく地面を踏みつけた。
その瞬間、先ほどよりも大きな振動が病院を揺らして、増長天の脚の周辺にあった衝突した自動車とか。街路樹とかそういったものをすべて吹き飛ばした。吹き飛ばされた自動車が。周辺の建物に向かって飛び出して、更なる被害を招く。
「なんてことだ……」
増長天はさらに歩みを進め今度は左足をあげて、地面を踏みつける。先ほどと同じような衝撃が病院を襲った。
周りの人間は直下型地震だと思うだろうが、真実を知る俺からしたらたまったもんじゃない。
「このままだと、歩かれてるだけで、周辺がズタボロだな」
「そして、狙いはもちろん私たちよね……」
「どうする、ほおっておくわけにもいかないし、何とか倒すしかないんだが。ピアニッシモ……何とかあいつに近づいて、夢の世界に連れていくことはできるか?」
「……そら、雷の時と違って、近づくのはできると思うけど、聖夜、そんな身体で何とかできると思うの?」
たしかに俺の体は全くと言っていいほど動きが取れない、いや腰を振るくらいの力はあるんだが。
「……どっちみち、このままでは、病院ごとつぶされるだけだ」
ズシーン、ずしーんと振動が続いている、ゆっくりと一歩ずつ増長天はこっちに向かってきている。あまり時間はないといえる。
「分かった、とりあえずまずは聖夜を眠らせるわ。そのあとは何とか、あのでか物に触ってきてみせるから、まっててね」
「オーケーだ」
ピアニッシモたちサキュバスは対象に触ることによって、対象を夢の世界へと引きずり込むことができる。今回の場合、俺を先に眠らせることで、俺の夢の中に増長天を連れていける。
そうそれば、少なくとも、現実の街の被害は最小限におさめることができる。
このままじゃ、俺のせいで関係ない病院周辺の人たちが巻き込まれることになるし、それは気分が悪い。
そして夢の中に送り込まれた俺は、増長天とかいう天使、天使というにはあまりにも可愛くない巨漢を待つ。さすがにこっちの世界に来れば、体が少しは動くようだ、病院じゃほとんど身動き取れずにトイレに行くことも億劫だったけれど(それでも、し尿便で用を足すよりましなので、頑張ってトイレに行っていたが、いやいっそ、ヒバリをトイレ代わりに……いやいや何を言ってる俺は、そんなことをしたらそれこそ、変態だから。いや手遅れか?)、こっちの世界では立つことも歩くできそうだ。
もちろん戦えるかと言ったら疑問なんだ。
そうこう考えてるうちに、何もなかった空間に突如、50mはあろうかという、巨大な物体が現れた。
これは思ったより……とんでもなくでけえわ。
「さあてどうしたもんかな……」
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