第56話「衝突の悪夢」
「ほうっ、きさまが我らが同胞を屠ったというやつか」
50mを超える巨神は俺の方をにらみつけ、そう言った。体がでかいに声を発しただけで周囲の空気が震えて、傷だらけの腹に響いた。
くそ、もう少し隠れて様子をみるつもりだったが、もう見つかったか。
夢に送られてきたとき、病院周辺を傷つけたくないという思いが先行しすぎて、病院の外に俺の体はあった。
「まずいね、これ」
いつの間にか隣にいたピアニッシモが耳元で言う。
確かにまずい。体格差があるうえに、俺の体はほとんど動かない。夢の中に来たとはいえ、はっきり言って勝ち筋はない。
「なんかよい手はないか、ピアニッシモ? いくら俺のドーンが強力でも、果たしてあの体に効くかどうか」
「うーん、ワンチャン、聖夜も巨大化してものすごい強力なドーンかますとかしかないんじゃない?」
巨大化……だと?
「巨大化する方法とかあるのか?」
さっさと教えておいてほしいものである。
「えっ、しらないわよそんなの」
「なんだよ、あるから言ったんじゃないのか?」
「うーん、あれを巨大にする方法なら知ってるんだけどなあ」
といって、おもむろに手をジュニアに充てるピアニッシモだったが、今はそんな余裕はねぇ。
『何をイチャイチャしてやがるんだぁっ!』
巨神をよそに、遊んでる俺らを見て、敵はこちらに向かって大声を張り上げた。その声から発せられる風だけで、俺らの体は吹き飛びそうになる。
そしてその瞬間、増長天ののどの奥に何か光るものが見えたような気がした。瞬間的にそれはやべぇものだと察す。
「よけろピアニッシモ!」
俺はピアニッシモを突き飛ばし、その反動で俺の体も今いる位置からより遠くまで離れることができるように横に飛ぶ。
そしてその瞬間、視界をまばゆい閃光が襲った。
と同時に、俺の左腕の感覚がなくなり、大量の鮮血が宙を舞った。
「せいやっ! う、腕が」
増長天が口から放った光線によって、きれいに俺の左腕は消滅させられる。あまりにも瞬間的なことで痛みすら感じなかった、もしよけるのがあと少し遅れていたら……。
「ピアニッシモ、動きつづけないとまずい! 走れ、一カ所にいるな!」
そう指示を出し、俺はジグザグに走り回りながら、遮蔽物がある方へむかう。とどまっていたら、あの光線の格好の的だ。
くそ巨体に加えて、飛び道具持ってるとか、反則過ぎんだろうがよぉ。
失ってる左腕を嘆いている暇はない、どうせ体の欠損なんて、シルアに直してもらえばいいんだ。
今は逃げながら活路を探る。
しかし、俺は逃げながら更なる絶望を悟る。
あいつが、はなった光線は、その導線上にあるものをすべて消し去っていた。しっかりと地面がえぐれ、そして、直線状にあった建物はまるでケーキにナイフを刺したようにざっくりと線を残していた。
建物に隠れてもか……
だが、どうやら連発はできないらしい。
俺が増長天の視界からいなくなるまでの間に、もう一発撃ってくることはなかった。
ということはチャンスは敵があの光線を撃ったあとの時間か。あいつのでけえ口の中に俺のドーンをぶち込むしかないわけだ。
男に口内発射とはぞっとしない話だが、それしかないか。
テレパシーでその作戦をピアニッシモに伝える。
「……うーんと、言いたいことはわかるけど、問題点がふたつーー。一つは、一体あの光線のクールタイムが何秒なのかわからない点。あとは、ここから増長天の位置までは結構離れてるっていう点、ついでにどうやって、50mの高さにまで飛ぶのかって点。あ、問題点は三つだったね」
うーん、確かに。
そうこう念話をしてる間に、光線の第二破が全然関係ない建物を真っ二つにした。
良かったどうやら、こちらの場所は悟られていない。
「クールタイムは10秒ってとこかしら」
「この調子じゃすぐ、隠れる場所なくなるな」
『おいおい、かくれんぼする気かぁぁっつ、本気を出せば周囲の建物全部蒸発させることだってできるんだぜぇ』
増長天はそんな恐ろしいことまで言い出してきた。そして大声がやはり周辺の空気を大きく震えさせた。
「どうする、持久戦なんてできないぞ」
「大丈夫よ、ただの脅しかもしれない、そんなことできるなら最初からそうすればいいんだから」
たしかにそりゃそうだが。どっちみち、ほとんど時間はない。このままならすぐ詰む話だ。
「とりあえず、あいつの足に向かって一発ぶちかましてみるか。それでバランスを崩せば勝機が見える」
「……そのためには聖夜も一度姿をあいつの前にさらさなきゃいけないんじゃ」
「しかし、待っていても死ぬだけだ。最悪、俺のドーンとあいつの光線のどちらが強いかのぶつかり合いよ」
そしてその瞬間。俺のすぐ隣で熱を感じた、ほんの数センチ離れた場所の建物と土地がえぐれていた。いい勘してやがるな、増長天さんよ!
だが、いまなら次の光線は撃てないはず!
「今がチャンス」
俺はその光線によってできた建物の隙間に立って、奴に照準を合わせた。
「食らえ、『
が、打とうとした瞬間、奴の口から光が放たれようとしているのが見えた。
瞬時にきりかえて、足元ではなく、奴の口元に向かって、精を放つ!
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