第54話「女達の本当の天使」

 12月11日。


 病院にいる日々が暇すぎるので、つい日付を気にしてしまう。もうすぐクリスマスなんだよなあ。つまりは俺の誕生日であるのだが、病院で過ごすのだけは勘弁したいものだ。


「いつまで、病院にいるんだか全く」

 病室のドアを開けながら、(なぜか個室に俺は配置されてるのだが、これはシルアたちの悪だくみで会って、特に高い料金を払ってるわけでもない)制服姿のピアニッシモが入ってきた。


「お前らは交代制でここに来るルールでも作ったのか」

「……だってほらあ、たまには聖夜とやらないとさ、欲求不満になっちゃうし」

「はぁ、あのさあ、いつまで病院にっていうけど、お前らが毎日毎日やろうとするから直りが悪いんじゃないのか? 全然安静にできねえんだよ」

 結局、ここに入院してから必ずシルアとピアニッシモのどちらかの相手をしているのだ。そりゃあ、基本的にはあちら主導のプレイで、俺はたいして動かないとはいえ、体にいい影響があるわけがない。

「へぇ……ビバ子のことは自ら呼び出してるくせにねえ」


 うぐっ!


「お前までそれを言うんか……」

「だってねぇ、まあ私はいいけどさ、気持ちとかはどうでも、聖夜のちんぽほしいだけだし」

 おい、少しは文字を伏せろ、そして感情も伏せろ。エロ漫画じゃねぇんだぞ。

 それにしても、気が付けばピアニッシモの風貌が完全にギャル女子高生へと変貌してしまってる。髪の毛はもともと金髪なわけだが、焼けた肌に、ほとんどパンツ丸見えのスカート。

 少し前の黒ギャルのイメージだが、完全にセックスシンボルとなってしまっている感がある。こんなん、街中を歩いていたら、間違いなくトキシックだな。

「お前、それ学校おこられない?」

「これって? 服装? そりゃあ、だって、校長含め学校の先生なんてみんな私たちの言いなりだしさ」

「そりゃあ、気の毒だな」

とほほ……むしろ、先生にとっては幸運なのかもしれんけどね。

「そんなこといったって、全部、聖夜のためなんだよ。ここの病院の先生とかも私が丸め込んでるから、大事になってないんだからね。私だって、そんな誰とでもHしたいわけじゃないんだからさ、現役の時だって、相手は選んでたわけだし」


「そりゃあ、申し訳ないな、なんというか、ありがと……」

 ありがとうと言おうとして、ちょっとした違和感にぶち当たる。あれ、なんかおかしいな。

 ピアニッシモの話はなんかしっくりこない。


「何どうしたの? 急に真面目な顔しちゃって……ヤりたくなった?」

「……お前ら、どうやって病院を丸め込んだんだ?」

「えっ、どうやってって、Hしてお願いって感じだけど、それがどうしたの」

「おかしくないか?」

「なにが?」

「だって、サキュバスってHした相手の命を奪うんだろ? 誘惑された相手がいうことを聞くのはいいとして、その後も生きてるはずがない」

「はずがないって! 何で決め顔? ……えっ、別に生かすかどうかはこっちのさじ加減だし、そりゃあ、おなかが過ぎすぎて、とか興奮しすぎてとかで、死ぬまで搾り取っちゃうことはあるけどぉ。学校の先生とか、病院の先生とか利用できる相手はほどほどにだよ」


「調整できるってことか!?」


「そりゃそうでしょっ、なに驚いてんのよ」

 意外そうな表情を見せるピアニッシモ、確かにピアニッシモの言う通りの理屈なんだが、俺は初めてピアニッシモに会った時の会話を思い出す。

 そもそも、ピアニッシモってサキュバスの因果を破ってしまった罰としてシルアを倒しにやってきたんじゃなかったっけか?


「ピアニッシモって初めはシルアと俺を殺しに来たよな?」

「うん、そうだけど……もうやめてよ、そんな気はとっくにないわ」

「なぜだ?」

「なぜって、そんなの、言わせないでほしいな、分かるじゃん?」

「いやそっちじゃなくて、なんで殺しに来た」

「そりゃあ、シルア姉様が掟を破ったからで、言ったよね確か?」


——そうだ、掟破りは重罪。そういうことだったはずだ。

「そのサキュバスの掟っていうのは、やった相手を殺さなきゃいけないってやつか?」

「……えっ、あぁ、まあそういう側面もないわけじゃないけど、ある意味そうなるのかな? 恋愛禁止っていうのが正確な掟なんだけどね」

「恋愛禁止だと?」


 あんなに思い切りイチャイチャしておいて、恋愛禁止もくそもないだろうに。


「うん、特定の人に惚れちゃダメなの。いろんな人からまんべんなく精液を奪い取るのが仕事だから。だから、ほら好きになりそうだったら殺さなきゃいけないし、そもそもこの人は最高って人と出会っちゃったら、結局死ぬまでHやめないから、普通死んじゃうんだけどね」


 おおっ、そ、そんな理屈があったのか。『確かに、セックスをした相手を殺さなきゃいけない』という理屈とも取れなくはない。


「ちょっとかわいそうだと思わない。私だって今まで何人もの男を好きになったけどさ、みんな次の日には死んじゃうんだもん、別に殺したくてやったわけじゃないのにさ。だからさ、聖夜はほんと私たちにとって救いなんだよ」


「救いなのか……」


「うん。あなたに出会ったら最後、掟破りの汚名を受けるけど。それでも、好きになった人がずっと生きててくれるって、こんなにうれしいことは他にないんだよ」






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