第53話「愛憎入り混じる天使」

——ヒバリが憎い? 


 俺がヒバリに持ってる感情は憎悪である。

 愛などではない。

 そもそも好きだとおもったことはない。


 行為に及ぶときにははっきり性欲のはけ口として利用しているという自覚があ

る。



 あの時、ヒバリは俺の体を深く傷付けた、ほとんど死にかけるレベルで。

 しかし体の傷以上に俺の心の傷の方が深かった。

 『俺はヒバリを心から助けようと思ったんだ』

 しかし、すべては嘘であった、すべてはヒバリが俺の倒すために張った巧妙な罠であり、ヒバリは俺に対して何らの感情も持ち合わせてなかった。

 ヒバリが自らをサキュバスと明かしたとき、

 はて、俺はどういう心境だったか。


 覚えていない……。

 

 ただ、あの廃墟での最終決戦、俺は傷だらけの体でヒバリを抱きながら、体の痛み以上に心に痛みを感じていったように思う、そのせいか体の痛みなんてほとんど感じなかった。

 そして精液を放つと同時に、それ以上の憎悪をヒバリにぶつけた。

 その時の高揚は、シルアとピアニッシモと交わった時とは比べようもないほど高いものであったように思う。

 何発やっただろうか?

 夜が明けるころ、俺の憎悪を一心に受けたヒバリは抜け殻のようになり、そしてすっかり従順になっていた。

 そして、俺に対してした行為を土下座しながら謝り続けたが、俺はその光景を無感情にぼーっと見ていたという覚えだけがある。もうよく覚えてない。


 なにか可哀そうなものを見るような眼でヒバリを見ていた、そんな感じ。

 感情すら持ち合わせてなかったかもしれない。だから俺がヒバリに持っている感情はだから愛ではない、憎悪を越えたなにかである。


 そして、はてた後、シルアとピアニッシモは俺を病院に運んだらしい。


 その際、救急隊員や医師の記憶を操作したらしく、俺は外傷ではなくて心臓の疾患ということで入院することになったらしい。

 おかげで大騒ぎになることなく、いやもちろん俺の家族も周囲の人間も大騒ぎしたのだが、実際は刃傷沙汰だったわけで、そういう点での騒ぎにはならずに済んだ。

 それにしてもシルアの能力は恐ろしい。

 夢の中にさえ連れ込んでしまえば、記憶を操作できるのである。

 ひょっとすると……


 とにかく、俺はシルアに対して、ヒバリと同じような感情をもちえないのである。それゆえ、逆に俺は、最大の興奮をシルアに対して向けることはないのかもしれなかった。


「シルア……俺はシルアに感謝してるし、敬意を持っている」

「……何よ、急に」

 意を決して発する突然の言葉に、シルアはぐりぐりしていた爪先を、トっと止める。


「だから、俺にはシルアを憎むことはできないんだ」

 シルアはどちらかと言えばもはや母に近い、すべてを与えてくれた存在と言っていい。

 男女関係はもとより、日々感じていた虚無感を取り除き、おれに存在理由を与えてくれた。あの出会いから、灰色だった俺の人生に色が加わったのは間違いない。だからもうシルアは俺にとっては……決して憎悪のと対象にはならないはずである。


「え、うん、憎んでくれなくていいんだけどさ、なんなの一体?」


「……俺が最高にギンギンになるためには相手を憎む必要があるかもしれない」

 俺がそういうと、シルアはすっと頬から刺していた爪を引き抜く。そして反対の手をかざすと、ヒールをし始めた。

「ふーん、つまり、私よりビバーチェの方がいいってことね」

「違うんだ、そうじゃない。大切なのはシルアだよ、だからこそっ」

「はあ……若いなあ」

「どういう意味だよ」

「私を愛してるんじゃなくて……うーん、まあいいけど、じゃあさ私のことは憎めないっていうのがとにかく理由なわけね?」

「そうだ、俺が悪いんだけど、憎い相手とやるときの方が燃え上がるっていうか、気持ちが乗るっていうかさ」

「……言いたいことはいろいろあるんだけど、でもさ、それはおいておいても、本当に私って憎むべき相手じゃないのかしら?」


「はっ、どういう意味だよ?」


「だって、そもそもあなたが、今こういう状態になってるのって、私のせいじゃないの? 私にくわれなければあなたはそもそもこんな戦いとかアクシデントに巻き込まれることはなかったのよ」

「……そりゃそうだけどさ」

「そもそも、私サキュバスよ。はじめは聖夜を殺そうとしたんだけれども?」

「いや、そんなことは承知の上だよ。でもそもそも、さ」

「何?」


「シルアに会う前の俺なんて死んだようなもんだったし、現状のトラブルだらけもそんなに悪いもんだと思ってはないんだ」

「……困ったわねぇ、憎まれなければあなたが満足するようなHができないなんて。——私もね聖夜のこと好きなのよ、出会った時よりずっと」


「シルア……おれだって」

「でも、憎まれなければ愛されない?」

「いやそういうことじゃない」


「そうやってわけわからないこと言いながら、あなたは他の女のところへふらふら……」

「いや、だから、それはだって君がサキュバスだから」

「サキュバスだから?」

 それをシルアが聞くと、カッと目を見開いた。

「——サキュバスだから他の男もたくさんやってきたわけで、そんな俺にだけ言われても、それにシルアだって俺が他の女とやるのそんな気になるわけでもないだろ」


「……ふーん」

 そういうと、サキュバスは口を閉じて、そして見開いた目を閉じて、一瞬硬直したかのようになった。

「シ、シルア?」

 顔をのぞきこんで、シルアに声をかけるが、彼女は反応を見せない。やばい、さすがに言い過ぎただろうか。

 いや俺だって相手が普通の人間だったらこんなこと言わないけどさ。状況が特殊過ぎるわけだし。

「お、おいシルアごめん、ちょっとなんか変なこと言った。あの、シルアがもし、俺がピアニッシモとかヒバリと関係持つの嫌なら、本当もうしないから」

 そうさ、正直言うと、調子乗ってた。

 なんか、シルアもそうすることを望んでたような気がするからそうしただけで、本当は気分を害してるのだとしたら、それは本当に申し訳ない。


「……えっ、なになんか言った?」

 すると、パッと目を開けてこちらにきょとんとした表情を見せる。


「あ、いやだから、もうヒバリとはしないから」

「……え? なんで? ごめん今ちょっと考えごとしてて」

「ん、ああ、だからもう俺はシルアとだけそういうことするからさ」

「えっ、だからなんで、別に気にしなくていいよ。全然気にしてないし、たぶんそんなことしたら、聖夜のパワーどんどん衰えていってしまうから、一番エレクチオンできる女とガンガンやったほうがいいわ」


「えっ……ああ、いや、うん?」

「だって最優先は外敵を倒すことで、あなたのモッコリパワーを維持しなきゃいけないから、ビバーチェを凌辱して何とかなるなら、そうするべきよ」

「……いや、さっきまで『私以外とやるのやだ』みたいな感じだったろうが」


「は? 言ってない言ってない、私もビバーチェと同じような激しいHされたいって思ってただけで、あ、そうだ、いまからちょっと凌辱っぽくやってみる?」

「……えっ。あ、あぁ」

「うん、病室で凌辱プレイとか最高じゃない……やろうやろう。ほら脱いでーー」

 

 そんな明るい導入の凌辱があるか!?

 とりあえず。


 ——淫内感染Nosocomial Injection——





「うーん、やっぱイメージプレイじゃちょっと勃ちが甘いわね」

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