第59話 「霧散する悪夢」

「なんだ、ずいぶん小さいな増長天」

 増長天を見下ろしながら俺はそういい放つ。


 もちろん俺が大きくなりすぎただけだ。それは知っている。

 どのくらい大きくなったのか、ここ茨城という土地が田舎過ぎて俺の視線の先には同じくらいの大きさの物体が何もなく比較対象がない。

 ひょっとすると、牛久の大仏くらい大きさになったのかもしれない、そうか、大仏様あなたはいつもこんな気分で街を見下ろしているのですね。

ちなみに、牛久の大仏というのは茨城がほこる数少ない観光地のひとつで、百メートルを越える高さをほこる直立の大仏様だ。

もし、茨城に使徒が襲来したときは、起動して守ってくれるといわれている。


閑話休題。はなしをもどそう、場面は戦闘中で緊迫しているのだ。

 

 さて、目の前の増長天は、俺の腰の高さくらいの大きさでしかなく、はっきり言って子どもにすぎないといえる。さっきまではあんなに恐れていたが、今は何も怖くない。

 

『おのれひきょうものめーー』

 増長天は言いながら、俺の顔面目掛けて口から光線を吐いてきたが 、おれはあっさりとそれを手で払いのける。

 —―ぐっ。—―

 一瞬、熱さと痛みを感じたが、そうだな、冬場の静電気ショック程度の痛みだ、いろいろな激しいプレイをヒバリとしてきた俺にとっては、快楽のためのエッセンス程度の痛みということである。

 そういえば、ヒバリはどうしただろうか、姿が確認できない。あまりにも大きくなったので人程度の大きさを探すのは難しく、ましてや、地上は俺が巻き起こした粉塵でいっぱいである。

 大きくなった時に押しつぶしてなければいいのだが。


 とはいえ、ヒバリが言っていた秘策というのはこの巨大化のことであろうから、ならば当然こうなることは知っていたわけで、俺が巨大化したと同時に空を飛んで逃げることはできたはずだ。  

 ヒバリという女はここで押しつぶされて死ぬなんて情けない死に方をするほど間抜けじゃない。


 今は間の前の増長天この雑魚を調理することを考えよう。


 それにしても、これは気持ちいいな。圧倒的な戦力差をもって戦いに挑むとき、人はこんなにも愉悦に浸れるものなのか。さっきまでは貴様もこんな気分だったんだな、なあ、増長天さんよ。


『おい、元の大きさに戻れ、卑怯なり』

 と増長天はわけのわからんことを言いながら、再び口から光線を吐いてきた。

 俺はそれに向かって右手を広げながら押し出す、当然手のひらには光線による刺激が襲ってくるが、そんなもんはお構いなしだ。

 手を伸ばし光線を増長天の口に押し戻すようにして、そのままこいつの顔面を手のひらでつかんだ。

 いわゆるアイアンクローという技である。まさか往年のレスラー、フリッツフォンエリックの技をこんなとこで繰り出すことになるとは思わなかった。

 増長天の顔面を握りつぶすようにして指先に力を加えていく。


 そしてそのまま、力任せに増長天の体を持ちあげた。増長天は俺の指の力によって顔面を吊り下げられている状態になる。もちろん両手を俺の右手にかけて、なんとかそれを振り払おうとするも、力の差は明らかで全く俺の右手はびくともしなかった。


「哀れなり増長天、非力なことよ」

 俺はそんなことを言ってみた。


 増長天は口からおれの手のひらに向かって光線を出して抵抗するが、そんな痛みにはもうなんの意味もなさない。


「こんな痛みじゃ、なんも感じねーんだよ!」

 そういいながら俺はお仕置きとばかりに、頭を右手で持った体勢のままで、増長天の腹に思い切り左ストレートを入れる。

 おや、そういえばいつの間にか左腕が元に戻ってる。


『ぐぉぉはぁぁっ』


 腹の奥からうごめくように声を出す増長天。

 このまま、2,3発いたぶっていてもいいが、そこまで悪趣味じゃない、男をなぶってエレクトするような性癖はあいにく持ち合わせてないのだ。

 さっさとかたをつけよう。


 頭を持ったまま、俺は右腕に反動をつけて、おもい切り上方へと、増長天を放り投げた。物理法則を無視するようにして、増長天の体は高くあがる。雲を突き抜けそうな勢いであった。

 そして最高点まで達して、あとは地上に落下するのを待つのみとなっている増長天にむかって俺は股間の照準を合わせた。あまりに真上に増長天を投げてしまったために、照準を合わせるために俺はブリッジをせざるを得なくなった。

 多少奇抜な恰好ではあるが、決めさせてもらうぜ。


「ドーーーーンっっ天空烈軌エアリアル!」


おれの股間から生まれたまばゆいほどの光が増長天を襲う。

増長天は一瞬で影となり、そしてその影さえもまたすぐに霧散するのだった。


「きたねえ花火だ」


どこかで聞いたキメ台詞。つかうのはこんなときだろう、なあヒバリ?

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