第8話「制服越しの巨乳という悪魔」

「おい起きろ」


 はっ!


 教師の田中の声が聞こえた。


「HRが始まった瞬間に眠る馬鹿がいるか、アメリカからの転校生にいきなり恥ずかしいところを見せるんじゃない」


 そ、そっか。そういや眠らされて夢見たんだった。


「す、すいません。昨日徹夜で勉強してたので」

 とっさに下手ないいわけをついてしまった。


「うそつけ、まあいい。後ろの子の面倒をちゃんと見てやれよ」

 後ろを振り返ると、シルアがニタニタしながらこっちを見ていた。くっそ、大体どうやってこの女は転校してきやがったんだ。ほんと、何でもありだな。



 HRが終わり、一時間目の数学が終わると、シルアの周りにはたくさんの生徒が集まってきていた。俺は邪魔そうに追いやられ、椅子と机の間でぎゅうぎゅうと押しつぶされそうだ。


「ねぇねぇシルアちゃんほんときれいだよね」

「アメリカのどこにいたの?」

「彼氏とかいる?」

 次々とシルアの元に、女子生徒の質問が飛んでいく。残念ながら、男子生徒にこの輪に加わっていくような剛のものはいなかった。

 

「ええと、ね、そのロンドン、ロンドンってとこね」

 って馬鹿!

 おいシルア、嘘がばれるぞ。


「えっ、ロンドンって、イギリスよね。さっき先生がアメリカっていってたような」


 みなが、きょとんとして、シルアを見ている。

 シルアはなぜかこちらを見ている。「あれ、私何か間違った?」とでも言いたいのか、首をかしげている。

 仕方ないヘルプを出すか。


「アメリカにもロンドンという都市がある。小さな都市だけどな、そうなんですよね咲羽さん」

 アメリカにそんな都市があるかどうかなんて、知らないけど多分あるだろう。同名の都市なんて世界では結構あるものだ。


「おぅそうね、ワタシはそのロンドンにいましたよ。イイトコロデース」

 なぜかシルアはたどたどしい日本語を使っている。どういう設定なのかはわからないが、設定に忠実だなおい。でも漫画以外でそんな留学生いないと思う。


「へぇそうなんだぁ、知らなかったぁ」


「って、ちょっと聖夜のくせに口出さないでよ。転校生の前でいいところ見せようとしてるわ? 美人をみつけるとすぐ調子に乗るんだから」

 と口をとがらせて俺につっかかって来たのは、小学校からずっと同じ学校に通っている栗須くりすイブだ。変わった名前だが、完全に親の遊び心でつけられたんだろうな。ちなみに父親の名前は三太らしい。


「おまえに関係ないだろ」

「なによっおまえって、聖夜におまえ呼ばわりされるおぼえないし」

 おやおや、また夫婦げんかか?という声が周囲から聞こえる。

 やめてくれ、夫婦なんかじゃねぇ。


 気が合うんだかわからないが、こいつとはよく話すし、遊んだりもするので、セットでクリスマスコンビなどと言われ続けている。

 付き合ってるのと聞かれたことは何度もあるが、そういう雰囲気になったことは一度もない。そりゃあ、俺は多少気になったりしたこともあったが、イブはどうなんだろうな、中学時代はほかに彼氏もいたようなんだが、今は特に聞いていない。

 

 ふと、きになって、シルアの方をみると案の定ニヤニヤしてこっちを見てきた。

 こりゃあ、あとでイブと俺との関係をしつこく聞かれるんだろうな。


「あ、授業始まっちゃう。またねシルアちゃん」

「お昼一緒にたべようねぇ」

 そうして、女どもは一斉に机に戻っていった。

 毎休み時間ごとに、このシルア様参りは続くのか、初日にして早くも憂鬱だな。



 昼休み、俺はなんだかんだで、数少ない友人の一人である健文と一緒に飯を食うことにした。

「なあ、聖夜。あのシルアって子に何を言われたんだ?」


「あっ?」

 俺はミートボールに向かっていた箸を止めた。


「なんか椅子に座った瞬間、耳元に話しかけてただろ。なんて言われてたんだよ」

 こいつめ、変なとこだけめざといな。


「いや、別に、普通によろしくねとかって言われただけだよ」


「・・・・・・なんでわざわざ、前の席のおまえにそんなこと言うんだよ」


「そんなこと言われたって知らねぇよ」


「うらやましいな、あんな美人に声かけられてるとか」

 そんなことでうらやましがるなよ、情けねぇな。

「まあ、やっぱ美人だよな、健文もそう思うか」


「ぶっちぎりで、俺の校内ランク1位になったぜ。おまえの嫁のイブちゃんも悪くねぇけどな。やっぱアメリカにいたからなんかな、同じ年には思えねぇよ」

 

「勝手にイブを俺の嫁にするな、また怒られる」

 それにシルアが何歳かなんてわからん。


「それに、あのやっぱ巨乳だよな。俺多分、授業中何回も彼女の方見ちゃうぜ。制服にあの巨乳は反則だよ。いやあ挟まれてぇ」


「それは、やめろ。そして声がでかい」


「なあ、なんでおまえは、イブちゃんってものまでありながら、あの転校生にまで声かけられてんだよ、おかしいだろ」


「だから、何でもないって」


「なんでもあるだろ、なんでおまえが声かけられてんだよ。なんでイブちゃんだっておまえにばっか話しかけて俺には簡単な挨拶しかしねぇんだよ」


「どうした、急にそんな大声出して」


「くやしぃっ、聖夜ばかり、聖夜ばかり!」

 そう言いながら、机をバンバンたたき出した。

 一体どうしたって言うんだ。

 しかし、異常は健文にだけ起きたわけではないらしい。


「くやしい、あんたばっか!」

「転校生、なにわざわざ日本にその大きい胸を自慢しに来たわけ?」

「くっそ、あのときだって本当は俺が試合に!」

 教室上から、大きな声でお互いを罵倒し合う言葉が聞こえてくる。


「こ、これは・・・・・・」


「現れたわね、ひずみから再び悪魔が」

 いつの間にか、俺の後ろにシルアが立っていた。



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