第62話「欲情の喪失」
死力を尽くし、そしてヒバリを失った増長天の戦いの直後から、シルアは俺の前から姿を消していた。
「神殺し!」などという不吉なワードを残したまま、それ以来一向にコンタクトをとれていないのである。シルアが俺の前から姿を消すということは考えづらい、というのもエネルギーの確保のために俺から、精を吸収する必要があるからである。
「ということは、ほかの男に被害が及んでるということか……」
自室のベッドで寝そべりながら考え事をしていた。
改めて説明するが、サキュバスの手にかかれば普通の男は一日で衰弱死してしまう。俺のような規格外のタフネスさと勢力がなければ、シルアをはじめとしてサキュバスの相手は務まらないのだ。
「……だからぁ、前も言ったけど、私たちは全然コントロールできるんだってば」
隣にはピアニッシモがいた。
寝そべる俺の肩にあごを載せながら、乳首をいじり続けるピアニッシモはそんなことを言う。乳首をいじるってことは続きを求めてるのだろうが、さすがにすでに5回発射してるので、少し休憩がほしい。
「いや、だが、シルアは俺が相手にしないならほかの男から精を吸い取るしかないって言ってたぞ」
その言葉は俺に呪いのようにまとわりついているのだ。
「……だからそれはぁ、シルアお姉さまの方便ってやつで、なるべく聖夜に相手にしてほしいから言ってたんだと思うよぉ。聖夜以外の男だと基本物足りないしねぇ」
それは、男みょうりに尽きる言葉だ。
シルアがどこかに消え、ヒバリを失った今、俺の夜の相手は(もちろん昼夜を問わずなのだが)ピアニッシモが独占している。おかげでピアニッシモとは、もはやしてないプレイはないんじゃないか、というくらいたくさんのことを試したのだが、結局お互いのお気に入りは軽い電気ショックプレイである。
……あ、誰も聞いてないかそんな話は。
「それにしてもシルアはどこかに消えて、あれ以来は悪魔も現れないし、天使も俺を殺しに来ない。さらにはピアニッシモの仲間も全然現れないし、平和だよな……」
「……そうだね、まあ私たちの仲間に関しては多分もう来ないとは思うんだけど、ほかの勢力に関してはどうなってるのか……私にも」
相変わらず、おれの乳首をこねくり回すピアニッシモだが、とうとう飽きたらしくその手を下半身の方へと向ける。
「おい、ピアニッシモ、さすがにちょっと疲れてるんだ。少しは休ませてくれ」
思わず、腰を少しのけぞらせてピアニッシモの手をよける。よけきれず指先が先っぽとバードキッスをしたのが少し気持ちよかった、逆にこういう軽めの刺激の方が最近気持ちいい、いやそんなことはどうでもいいんだが。
「なによ、ちょっと最近体力ないんじゃないの? それとも私に飽きたわけ、シルア姉さんがいないと不満?」
割と本気のトーンでピアニッシモは怒っているように見える。
「不満なんてことはないけど、ただほんとに少し疲れてるんだ」
初めのころだったらこういう嫉妬もかわいいものだったのだが、正直最近わずらわしさを感じて不満なのは確かだ。
昔はいい具合に俺は感情を分散していたから感じなかったが、ピアニッシモ一人となってしまった今では、はっきり言ってつ重い、そもそも恋愛から発生した関係でもないし、早くシルアに戻ってきてほしい思いは強い。
それ以上にヒバリが恋しい……。
「なあ、本当にシルアの行方知らないのか」
思わず聞いてしまう。
「……やっぱりシルア姉さまが恋しいんじゃない!知らないって言ってるでしょ」
そういいながら、俺のジュニアにおもいきりデコピンをかましてきやがった。
「ぐぎぎぎっ、痛いわ、並の人間なら吹っ飛んでるぞ」
「私の扱いが悪いのが悪い!」
そういいながら、俺のほほをもいきっりつねってきた。つねられたままではさすがにかなわないので、俺を引っ張る力の反動を利用してそのまま、顔をピアニッシモの方に近づけて、唇と唇を重ねた。
自然と二人の舌が絡まっていく。
なんだかんだで仲良しな俺とピアニッシモである。
「ねえっ……、ずるい」
ピアニッシモが甘ったるくささやく。
――とその瞬間。
俺の部屋のドアが、ガチャリとあく音がした。
「嘘っ……ほんとに、二人は……」
空いたドアの先には制服姿のイヴが呆然と立ちつくしていた。
サキュバス夢想H(アッシュ)~超絶な俺が世界を救う~ ハイロック @hirock47
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