第39話「学校と両親という悪魔」
「おはよう」
シルアの声だ。
俺は目覚めた。頭にはシルアの太ももの感触があり、目の前にはシルアの大きな双房と、さらに奥にシルアのおれを覗き込む顔がある。
「おはよう」
「今度はちゃんと起きたかしら?」
「どういう意味だ」
「どうもこうも、なかなか起きないものだから・・・・・・」
「……助かったのか?」
すぐさま、腹部に手を当てると、そこには肉の感触があった。どうやらなくなったものはかえってきたらしい。
「……大体は大丈夫だと思うの、でもじん臓一個完全に吹き飛んじゃったから、そこはもう無理、直せなかった、あと小腸もだいぶ短く……なっちゃったかな」
——そうか。食生活に影響しそうな話だな……腎臓は一つなくなっても大丈夫だという話を聞いたことがあるからまあ大丈夫なんだろう。
死ぬよりはましということだ。
「……勝ったんだよな?」
「シラデレンは跡形もなくなったわ、もうっ、一歩間違えば死んでたのよ本当、もう少しやり方ってもんがあったんじゃない?」
「……確かに今思えば無茶だったかもなあ」
自分の腹部を自分の技で吹き飛ばす、まともな神経じゃできない。……でも、あの時は時間がなかった。すぐに対処する方法は他に思いつかなかったし、どうせ死ぬなら可能性のある方法を選んだ、それだけさ。
「まあ結果無事だったからいいけど……あのね、聖夜が死んだら私も死ぬからね、命を大事に!」
「……そんな後追い自殺するほど愛してくれていたのか?」
うお、マジで?
ドラクエの命令みたいな言い方は気になったが、感動した。てっきり、体だけの関係だと思ったのに。
「いやいやだって、誰から精液を吸収すればいいのよ!」
——がくっ! どうやら身体だけの関係だったようだった。
なんで男がそれで残念がってんだって話なんだが。
「じゃあどうしてたんだ、俺がケガをしてる間——んっ、そもそも俺は何日間倒れてたんだよ」
ぽっかり穴が開いたはずの腹が戻るって、普通のことじゃないよな。
「ここの時間の感覚で3か月ってところかしらね」
「3か月!?」
「大変だったんだからね本当に、失われた血液を補給して、ちょっとずつ細胞を増殖していって、私だってエネルギー補給しなければいけなかったし」
「まてまて、3か月ずっとここ、つまりは健史の夢の中にいたってわけか、病院に連れていくとかなかったのかよ」
「もし、夢から出たら即死よ。臓器吹っ飛んでるんだからね、分かってる? だから申し訳ないけど、健史君にもずっと眠っててもらったわ。起きられちゃうといろいろ面倒だから」
「そりゃあ気の毒なことしたな、3か月寝てたって……うん、おい確か健史ってアキバのベンチで眠らせてたんだよな」
3か月の野ざらしって行政が黙ってないだろ、そんなん。
「そこは、うまいこと私とピアニッシモで安く貸してくれる部屋に連れていったわよ、レンタルームっていうの? なんかすごい安くて簡単なベッドだけがある部屋が見つかったから。 店の人には変な顔で見られたけど」
レンタルーム? ふーん、そんなんあるのか、よかったな。
「でも3か月だろ、大丈夫なのか?」
「ほら、前も話したでしょ、夢の中の流れる時間は外とは全然違うから。時間がたったっていっても、せいぜい二日くらいよ」
あぁ、そういえばそんなこと言ってたな。
「たった二日か。もっと長いこと眠ってた気がする。なんかいろんな夢もたくさん見たし」
もう、何年も夢の中で過ごしたような気がするのだが、はてどんな夢を見ていたかも忘れてしまったな。夢は忘れるためにある、そんなことを聞いたことがある気がする。
「まあ、でもさすがにそろそろ起きて健史君を戻してあげないと、みんな心配してるだろうし」
「……それな、二日も家に帰ってなかったら、健史はもちろん俺の親だって心配するわ」
基本的には無関心、不干渉な我が両親ではあるが、二日はやばい。すぐにスマホをチェックと思ったが、さすがに夢の中ではスマホは使えない。忘れてはならないが俺は夢から覚めたものの、まだ健史の夢の中にいるのだ。
改めて考えるとよくわからない状態であることこの上ない。
「うん、あなたの体はすっかりいいようだから、現実に戻っても大丈夫でしょう」
「……そうだな、もどって健史を起こしてやろう。まったくとんだ、秋葉原旅行だったぜ」
死にかけるとは思わなかった、ほとんど自分でやったようなもんだけどな。
——その後、イバラキに戻った俺たちはたっぷりと、大層激しく学校と両親に怒られた。もう少しで警察に連絡するところだったらしい。(逆に二日間も放置していたのはピアニッシモが俺らのスマホでマメに連絡をしていたからで、健史と俺とで、どうしても家出がしたかったという設定だったそうだ。ナイスだぜピアニッシモ)
「それにしても、なんで俺はあんなとこにいたんだ?」
学校に目いっぱい怒られた帰り道、健史にそう聞かれた。
「……さあな、俺もわかんねえよ、気づいたら俺もあの部屋だったし」
「……お前と秋葉で会ったところまでは覚えてるんだけどなあ、俺の推しはどっかいなくなっちゃったし」
メイド喫茶の柚月ちゃんとやらは気が付けば、健史のLINEからいなくなったしお店も連絡がつかなくなったそうだ。まあ、そりゃ、俺が消したから当然だ。
「まあ、無事でよかったじゃんか。二日も記憶がないのに金も体も無事ならある意味ラッキーだよ」
とまあ、そうは言うが二日も記憶がない時点で十分やばいよな。
「よくそんな風に思えるな、それにしても、やっぱお前とシルアちゃんは付き合ってのか?」
「は、なんで?」
「いやあ、疲れてんのかなあ。なんか眠ってる間でやたらお前とシルアちゃんがHする夢を見た気がするんだよな。しかもすげぇリアルだったんだよ。VRの比じゃなかったんだよなあ」
「……くくっ、なんだよ夢の話かよ、たまってんな、健史」
「やっぱそうだよな、早く彼女ほしいぜ」
結局そこかい!
残念健史、それは夢の話ではあるが、まぎれもない事実なんだな。
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