第49話「惰血の信徒」
「ぐぐっ、いてぇって、まじかこの状態で家に戻るんか」
シルアの治療のおかげで、体の表面の傷だけは治すことができた。表面というか、皮膚だけである。中身の筋肉とかその辺は切断されたままなのでもちろん痛い。痛いのはもとより、歩くのも困難だ。
「だって、とりあえず見た目だけは直さないと、こんな刺し傷だらけの状態でなんて病院とか警察に説明するのよ」
「そりゃあ、素直にあの女に刺されたっていうしかないだろ」
そういって俺は親指で、ピアニッシモによってロープでぐるぐる巻きにされてるヒバリを指さす。ヒバリが気を失ってる間に、ピアニッシモが具現化した特殊なロープで身動きを取れないようにしたらしい。
「それにしても、なぜ亀甲縛りにする必要が……」
「…‥そうしないと、魔力を封じる効果が出ないのよ!」
ピアニッシモがそう答えた。
何だってそんさめんどくさい仕様にしたんだろう。
「でもまあ、信用しないわよ。見た目は小学生の女の子なんだし、しかもこんな廃デパートの地下で襲われたとか、どう考えても怪しいのは聖夜じゃない」
そうなんだよなあ。
ケガの理由を説明しようがないんだ。これが刺し傷とかじゃないければ、交通事故にあったとか、階段から落ちたとかいろいろ言えるけどさ。
「しばらくは、風邪のふりして寝込んでるしかないのかあ」
とてもじゃないけど自由に動けるもんじゃねぇわ。
「そうね、夜の方もマグロになってもらうしかないわね。なんか最近そればっか」
「や、やるのか!? この状態だぞ、俺!」
いや、正直、体が触れるだけで激痛だし、セックスしてる場合じゃないだろ。要安静だこんなもん。それに俺のマグナムにはしっかりとナイフが刺さったんだからな。
「でも、ほらなぜかそこだけはちょっと治療しただけで完全に元通りになったし。やっぱり聖夜のモノはモノが違うわね」
「さすがにしばらくは口だけとかにしてくれんか……」
「えぇぇっ……私なんも得しないじゃない。うーん、下半身先に治療するしかないかあ」
「あのおお姉さまあ、悪い子にお仕置きしないといけないわ」
するとピアニッシモも会話に加わった。悪い子とはヒバリのことであろう。そうだね、確かにその子にはたっぷりお仕置きしないといけないなあ。年齢も問題ないということだし……思わず愚息がピクリとする。
「……でもあれね、この場合、聖夜がヒバリの相手をするのってお仕置きでも何でもなくてただのご褒美よね。このまま縛って放置しておくのが一番じゃないかしら」
ホ、放置プレー!?ですか、いやいやちゃんとお仕置きしたほうがいいと思うよ。まあ、俺はいま満足に動けないけどさ。
「まって、でもお姉様。とりあえず一回はやらせないと起きた時にまたVHフィールドが発生してめんどくさいことになるわよ」
「……うーん、そうねえ、いっそ今殺しておきましょうか。めんどくさい子だしね、いろいろと」
表情を一切変えることなく、シルアは殺すと宣言した。前から少し思ってはいることだが、シルアは怖い。目的のためなら手段をえらばないところがある。
まあそれでも、そういうところがまたそそるんだけど、しかし……。
「いいのか、仲間なんだろ?」
シルアにとって殺すという行為自体に抵抗などないだろう。今までにたくさんの男の命を奪ってきた悪魔なのだから。しかし、おなじサキュバスの命を奪っていいのか。
「仲間っていうか、もう私がサキュバスの仲間ではないのよ。ピアニッシモもそうだけど、私たちはすでに掟を破ってしまったから」
「だから聖夜が相手すれば、ヒバ子の立場は私たちと同じになるのだけれど。ダメなのお姉さま?」
ピアニシモはちらっとヒバリの方を見ながら言った。ピアニッシモとしてはヒバリを殺したくないのだろう。
「どっちみっち私が決めることじゃないわ、聖夜が考えることよ。……聖夜、あなたがビヴァーチェに一発いいのをぶち込めば、彼女もサキュバスの仲間から狙われる立場になるし、それにVHフィールドが破られるから脅威ではなくなるわ」
「……あのさ、さっきから出てくるそのVHフィールドっていういかにも新世紀な単語は何だい?」
効果の方もどうやら、そんな感じだけど。
「Virgin Hymen フィールド、処女絶対領域ともいうわ。性欲旺盛なサキュバスが我慢して我慢してようやく手に入れられる最強の結界よ。そこに触れられるのは純粋な乙女か、童貞だけ。サキュバスにとってセックスしないのはご飯を食べないのと同じだから、相当つらかったんじゃないかしら」
「少なくとも1ヶ月は我慢したんでしょうね。ヒバ子は一日に10人とはやらないと満足して寝れないというタイプだから、1ヶ月の我慢は並大抵のことじゃないわ。その我慢が、あれほどの強力な結界を生んだのね。ちなみに日本における若い男の失踪事件の原因の半分以上はヒバ子のせいと言われてるの」
なんだと!? とてもそんなたくさんの男のモノを咥えこむタイプには見えないが、ものすごい害悪じゃないか……一体何人の日本人男性がヒバリに殺されたんだ。
これは、殺しておいた方が世界のためなんじゃなかろうか。
「で、どうすんの聖夜。あなたがいいなら、私はこのままこの子の心臓を貫くわ」
そういいながらヒバリに近づいたシルアは、落ちているダイヤモンド並みの硬さを誇るヒバリのナイフを拾った。
マジでやる気だな、シルア。
「ちょっと、シルアねぇさま。さすがに可哀そうよ。なにも殺さなくても、聖夜が抱けば無力化できるといってるじゃない?」
ピアニッシモが慌てて、縛られてるヒバリとシルアの間に割って入った。
「この子は危険よ……わかってるでしょ」
シルアはいつもとは違う鬼気迫る声であった。危機が迫ってるのはヒバリだが。そしてその時、気を失っているヒバリは、ぼそっと聞こえるか聞こえないかの音量で声を漏らした。おそらく聴力がチートな俺でなければ聞き逃していただろう。
「……た、たす……けて、おに……さん……」
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