第48話「劇血の信徒」
「ぐあああああっ」
「いいよーーお兄さぁんっ、いい声上げるじゃん♡ わたしも我慢できないよぉお」
ヒバリが8本目のナイフを俺の腹に突き刺したとき、一番の悲鳴を俺はあげた。上げざるを得なかった、いっそ気を失ってしまいたかったが、死ぬまでは死ねないから、もうろうとしながらも自分の意識を保つ。
そしてヒバリは、宣言通り律儀なのかなんなのか俺に刺すのと同時に自分の手首にも赤い線を入れていった。ヒバリは手首から流れる血を俺に飲ませ、俺の顔はヒバリの血で真っ赤に染まった、ヒバリ自身も俺の返り血で真っ赤に染まっている。
さぞ気味の悪い光景がピアニッシモとシルアの目にも広がっているだろう。
もうわけわかんねぇな。
目の前には真っ赤に染まりながら、ナイフを振りかざし微笑みを浮かべる合法ロリがいる。そしてそれにまたがられる瀕死の俺。
「ねえ、お兄さん。あと二刺しで終わり……首の前にどこを刺すかわかるかなあ? きゃはははっは」
といままでで一番悪そうな表情でヒバリは高笑いを始めた。
「ぐっぅぅ」
俺は変な声を出すしかないが。
しかし、その悪そうな表情を見てすべて悟ったさ。
というかそこを刺したら首を刺す前に死ぬだろう……というか今のままほっておいても出血多量で死ぬだろうけど。
ここにきて、逆に俺は達観したかのように落ち着いていた。
「もちろん正解はー、お兄さんの中で一番悪くて素敵なとっこでーす!」
そういいながら、ヒバリはくるっと身体を反転させて、俺の顔の前にはヒバリのかわいいお尻がうつった。ヒバリはもちろん俺のエクスカリバーにナイフを向けている。表情はうかがえないが、さぞかしにやついてるんだろう。
そしてナイフでツンツンと、俺の隆起したそれをつついている。
「っていうか、なんでこんな状況なのにこんなギンギンなのよぉ? 本当にしかし信じられないくらい立派ねこれ。どうしよっかなあ、切り取って固めてコレクションにしようかなあ、それとももっと実用的なものにしようかなあ、きゃはははっ」
そしてナイフの横面で、ヒバリは俺のモノをぶっ叩く。
「ビヴァ子ふざけんなぁ、それきり取ったら絶対私がお前を殺すかんな!」
ピアニシッモのヤンキー女のような怒声が聞こえてくる、隣でシルアも何かつぶやいてるが聞こえない。表情もうかがうこともできない。
「そんなことヒバリの知ったことじゃねえよ、そこのビッチは黙ってみてろって言ってんだろ!」
そういわれて激昂するピアニッシモがナイフをかかげながら、ヒバリに向かっていくが、何かにはばかれてヒバリに触れることができない。
「くっ、やはり無理なの……?」
「むだむだむだむだぁあああっ、処女の結界は最強だっていってんだろぉーー」
……絶対処女ちゃうやん、お前。
という突っ込みは今いらないんだろうが、不思議なくらい頭がすっきりしてるんだ。
「ああうあああえぉお」
やるなれやれよと言ったつもりだったが、声にはなってないだろう。
「ふふふ、じゃあバッサリと去勢しちゃいましょー、ちょっと惜しいけどねーー」
そういって、ヒバリはナイフを横に振りかぶった。てっきり、上に振り上げて突き刺すのかと思ったが、どうやらスパッと切断することを選ぶらしい。
せめてもの情けか……
「せいやぁあっぁーーーーーーーーーっ」
シルアの悲痛な叫びが聞こえる。
「きゃははははぁぁぁっぁぁ」
そして、ヒバリの振り下ろすナイフが俺のラグナロクに触れようとした瞬間、いや触れた瞬間!!
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっつ!」
悲鳴を上げたのは、ヒバリだった。
そのままナイフを手から離し、またがったまま、ヒバリは前のめりに俺の体へと倒れこむ。
ナイフは俺の如意棒に少し刺さったまま宙に浮いてる。予想以上の固さを誇る俺のソレはナイフが切断するのを許さず、刃先が少し刺さったところで刃の侵入を止めたのであった。
それでも、勿論とんでもない痛みだ……というかもはや痛いのかどうかもよくわからない。あまりにも刺され過ぎて痛覚はとっくににマヒしてるのだろう。死ぬのがわかり切ってるとき人は痛みを感じるのを忘れるらしい。
俺はここ数ヶ月で何度もそれを味わったので、ほぼその技術をコントロールしつつあった。
「聖夜っ、今助けるからね」
ヒバリが倒れるのを見て、シルアが駆け寄ってくる。
どうやらヒバリが失神したことで、なんちゃらフィールドとやらが解けたのだろう。隣に来て膝をついたシルアは、そっと俺に手を触れる。
その瞬間すっと、痛みが楽になっていった。
『夢の世界に来たから、声に出さなくても話せるわ。もうっ! こんな状態になっちゃって……現実世界でのケガだから直すの相当時間かかるわよ』
『そうか、どおりで今までのどの戦いよりひでぇ痛みだと思ったら現実だったのか……忘れてたよ』
『絶対絶命だと思ったわよほんと、まさかビヴァーチェがフィールド使ってくるとは思わなかったから。……それにしてもどうやって、ビヴァーチェを倒したの? エネルギーを放出できるはずが……』
ビヴァーチェっていうのはヒバリのことなんだろうな。どうやってヒバリを倒したのかそれは簡単なことだった。そして賭けでもあった。
『外にエネルギーを発せないなら内側で出すだけだ。ありったけの電気をあらかじめあそこにためておいたんだよ』
そう俺にはあの戦い以来電気を操る力があった。
そしてとりわけ、股間にその電気をためる練習ばかりをしていたのだった。すべてはピアニッシモを満足させるためだったが、まさかこんな形で役に立つとは。
『それで、あんな状態なのにそそり立つほど元気だったのね。てっきり刺されて喜ぶドMなのかと……』
……そうではない、多分。いやまあ、たぶん普通の人間よりは相当M耐性はあるが別に求めてるわけじゃない。
『身動きを取れなくなって、刺され始めてからずっと充電してたんだ。俺とかピアニッシモみたいな電気好きの変態ならともかく、並みなら耐えられないだろうなあ。……まあ、もっともおれの武器がナイフより硬かったからできる技で、あのままぶった切られてた可能性も相当高かったけど……』
思い出すだけで恐ろしい戦いだった。
『あのナイフ確かダイヤモンドより硬いはずなんだけど……恐ろしいわね相変わらずあなたのソレは』
全くだ……。
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