第53話二戦目
「だから、『マジカルアタッカー』の世界では魔法使いは女剣士になんて自己紹介したのかってこと。俺が魔法使いの名前を“ナカ”にしたのは正しい選択だったのかどうかってこと」
「ああ、そんなことですか。『マジカルアタッカー』の世界では女剣士のあたしに、魔法使いは“ナカ”って自己紹介しましたよ。決まってるじゃないですか。ゲームの『マジカルアタッカー』は、あたしが召喚された『マジカルアタッカー』でもあるんですから、魔法使いの名前は同じ“ナカ”になりますよ。なんですか、『正しい選択』って。答え合わせじゃないんですよ」
なるほど。『決まってる』のか。俺があれこれ考えても、すでに女子高校生のソトが『マジカルアタッカー』の世界で体験したことだから、結果は一つしかないのか。『女剣士の名前は“ソト”なんだから、おじさんは魔法使いの名前を“ナカ”にするわよね。もしおじさんが違う名前を入力したらどうつじつまを合わせよう』なんて考えながら、俺をだますために『マジカルアタッカー』のプログラミングをしていたりはしないのか。
「ほら、おじさん……じゃなかった。ナカおじさん。早くストーリーの続き見せてくださいよ」
俺が内心ぼやいているのをよそに、女子高校生のソトは『マジカルアタッカー』の続きを見せるようせっついてくる。すでに『マジカルアタッカー』の世界で体験したことなのに、今さらゲーム画面で見ることもないじゃないか。そう思いながら、スペシャルファミコンのコントローラーを操作すると、王様がメッセージウインドウで魔法使いと女剣士に話しかけてくる。
『自己紹介は済んだようじゃな。それではお前たち二人の使命を話して聞かせよう』
『その必要はない』
そんな誰が言ったともわからないメッセージが表示されると、ゲーム画面に突然ゴーストっぽいモンスターがあらわれる。
『うわあ』
『モンスターだ』
『待て、わしを置いていくんじゃない』
すると、画面のはじにいた兵士たちがわれさきに逃げ始め、王様がそれに続いてゲーム画面の外へと去っていく。ゲーム画面にはゴーストと女剣士、そして魔法使いが残された。どこかで見たような構図だな。そう思っていると女剣士が魔法使いにこうメッセージウインドウを表示させた。
『たいへん。こんなところにまでモンスターが。ナカさん。これはまたいっしょに戦うしかありませんね』
そして、ゴーストとの戦闘になったのだった。
とはいうものの、まさかこんなにも早く次のモンスターとの戦闘になるとは思っていなかった。不意をつかれた俺は、隣に座っている女子高校生のソトの表情をうかがうが、何を考えているのかちっともわからない。
「たいへん。こんなに早く次のモンスターが。ナカおじさん。これはまたいっしょに戦うしかないですね」
あまつさえ、そんなゲームの中の女剣士と同じようなセリフを言ってくる。なにがたいへんだ。とっくの昔に『マジカルアタッカー』の世界で体験した戦闘のくせに。いやまて。魔法使いの名前の入力ならともかく、今から俺がどう魔法使いをどう操作するかまで、すでに決まっているなんてさすがに無理がありすぎじゃないか。このゴーストとの戦闘まで俺が女子高校生のソトの思う通りの行動をするなんて……
なんてことを考えていたら、すぐ俺の操作する魔法使いのヒットポイントがゼロになってしまった。ゴーストとの戦闘は初めてだし、攻撃のパターンはあるかどうかすらわからない。その攻撃もスライムの攻撃より激しかった。こんなもの、俺に初見でどうこうできっこない。回復魔法を使うひまもなかった。
そして、一人残された女剣士のソトもすぐに魔法使いの後を追ってヒットポイントをゼロにしてしまった。画面には『ゲームオーバー』と表示されている。一週間前に初めて俺が『マジカルアタッカー』をやってスライムにやられた時と同じだ。俺がぽかんとしていると、女子高校生のソトがさも驚いたようにびっくりした声をだすのだった。
「おや、次のモンスターはゴーストみたいですね。それもなかなか手ごわそうですし。これはナカおじさんも気合を入れてまた一週間練習しないといけませんね」
「なにが『おや』だよ。しらじらしい。どうせすでに『マジカルアタッカー』の世界で女剣士のソトさんはゴーストと戦っているんだろう。それで、俺がゲームでは魔法使いに何もさせられなかったけど、『マジカルアタッカー』の世界の魔法使いはもう少し活躍しちゃったりしたのかな。一回くらいは回復魔法を使ったりはしたのかな」
「それはあたしにはわかりませんねえ、ナカおじさん。だって、あたし、『マジカルアタッカー』の世界ではゴーストと戦っていませんもん」
俺の質問に、女子高校生のソトはそんな身もふたもない答えをするのだった。
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