第6話俺は女子高校生の相棒だった
「それであたしをやりこめたつもりですか、おじさん? 『台本の作り込みが甘いぞ。まあ、高校生の仕掛けたドッキリにしてはよくできたとほめてあげよう。だから、これくらいで帰ってちょうだいね』と言う感じに。だったら考えが甘いですよ」
たしかに、俺は女子高校生の話の不自然さを指摘したつもりだった。だが、この女子高校生は少しもうろたえることなく、『そういうツッコミがくることは予想してました』と言った感じで説明を再開するのだった。
「いいですか、おじさん。あたしはスライムにやられてすぐにおじさんの部屋にきたわけではないのです」
「でも、女剣士がやられてゲームオーバーになった直後にそちらさんが俺の部屋にきたんだけど」
「それはおじさんが実機のスペシャルファミコンでやっていた『マジカルアタッカー』での話です。あたしは実際に『マジカルアタッカー』の世界に召喚されていたから、おじさんがテレビの画面で見ていたシナリオとは違う体験をしていたんです」
そういえばそうだった。俺がこの部屋でプレイした『マジカルアタッカー』はスライムとの戦闘だけだった。しかし、女子高校生には王様との顔合わせやらビキニアーマーの試着やらのイベントがあったんだっけ。となると、この女子高校生だけスライムにやられたそのあとに何か体験していてもおかしくはないのだが……」
「じゃあ、スライムにそちらさんが倒されたあとにどんなことがあったか、教えてくれませんかねえ」
「それはですね、おじさん。あたしがスライムにやられたと思ったら、なんだかよくわからない空間にいたんです。そこには、『マジカルアタッカー』の世界の神様がいたんです」
「王様の次は神様ですか。いろんな世界に召喚されますねえ、今時の女子高校生は」
「まぜっかえさないでください、おじさん」
説明を続ける女子高校生にツッコミを入れた俺である。そんな俺をしかりつけて、女子高校生は話を続けていく。
「いいですか、おじさん、続けますよ。その神様が水晶球におじさんがゲームをしている様子を映し出したんです。このむさ苦しい部屋で一人寂しく『マジカルアタッカー』の魔法使いを操作しているおじさんを」
「あまり余計な形容詞はつけないでもらいたいんだけど」
俺の要望に『はい』とも『いいえ』とも言わずに、女子高校生は説明し続ける。
「で、神様が言うんです。この男があたしの『マジカルアタッカー』での相棒だって。見ての通りたいした腕前じゃないけど、しっかりあたしがしこめばそれなりにはなるはずだって。そしたら、あたしはこの部屋の玄関の前に立っていたんです」
「それで、呼び鈴を鳴らして俺を呼び出し、『下手くそ』だの『だめだめ』だの、ののしってくれたってわけか」
「だって、おじさんがもう少しゲームが上手かったらあたしだってスライムにあんなことされずにすんだんだもん」
「まあ、そちらさんの話はわかったけれど……」
女子高校生の話を聞き終えた俺は感想を言おうとした。だが、俺が感想を言い終わらないうちに、女子高校生が俺に詰め寄ってくる。
「わかってくれましたか、おじさん。それじゃあ、早く『マジカルアタッカー』の操作が上手く出来るようになってください。そうじゃないと、次に召喚された時にあたしが困っちゃいます」
「だから、なんでまた召喚されるって言い切れるのさ」
「神様が言ってたんです。『いったんは元の世界に戻してやる。そして一週間後の六時にまた『マジカルアタッカー』の世界に召喚するから、それまでにこの男のゲームの腕を鍛えておきなさい』って」
ご都合主義もいいところだ。なんでゲームの世界の神様が。『一週間』だの『六時』だのこの世界の時間の単位に合わせてくるんだ。だいたいなんで女子高校生をゲーム世界に召喚したりこの世界に送り返したりするんだ。そんな文句を俺は女子高校生に言ってやることにする。
「一週間後の六時とか、また『マジカルアタッカー』の世界に召喚するとか、ずいぶん都合がいい話だねえ。それに俺のゲームの腕を鍛えるって、俺はどうすればいいの。そちらさんがゲームの世界に召喚されないと、俺だって「マジカルアタッカー』をプレイできないんじゃない」
「ああ、それは大丈夫です。おじさん、ニューゲームを選択してください」
「えっ、でも……」
「いいから。早くやっちゃってください」
女子高校生の有無を言わせぬ迫力に押されて、俺はさっきからテレビに映りっぱなしになっているタイトル画面のニューゲームを選択する。
何も起こらない。女子高校生がこの部屋からどこかの異世界に召喚されていなくなることもなければ、テレビにスライムとの戦闘画面が映し出されることもない。俺はコントローラーのボタンをいろいろいじってみるが、テレビはタイトル画面のままうんともすんとも言わないし、女子高校生は……さっきまでの俺をせきたてる表情からクスクス笑っている表情に変わったが、これは俺がコントローラーをいじくり回している様子を面白がっているだけだろう。俺はあきらめて、女子高校生に問いかけるのだった。
「どうにもならないや。ねえ、どうなってるの」
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