第36話よそ見をしながらでも俺よりゲームがうまい女子高校生

「そ、そういえば輪郭女剣士もまだ倒されていなかったな。で、でもそちらさんが俺の部屋に来るタイミングにあわせて、スライムを倒したり魔法使いと輪郭女剣士のヒットポイントをゼロにさせたりなんて都合よくはいかないよ。むしろ、そちらさんが俺の部屋にくる時には、魔法使いも輪郭女剣士もヒットポイントが残っててスライムと戦っていると言うほうが可能性としては高いんじゃあないかな。別に、輪郭女剣士一人がスライムと戦っているところをじっくり見ていたいから魔法使いをさっさと自爆させるなんてことは思っていないよ」

「おじさん。しゃべればしゃべるほどボロが出ちゃいますよ」


 女子高校生にあきれた表情をされる俺である。それで、黙ればいいものを俺はますますごちゃごちゃ言ってしまうのだ。


「だ、だけどさあ、この『マジカルアタッカー』の練習モードは、リセットするか魔法使いと輪郭女剣士のヒットポイントがともにゼロになるかしないと終わりにならないじゃないか。ああ、そう言えばスライムを倒してもいいんだったな。だけど、これじゃあ今回みたいに不意の事態には対応できないじゃないか。いやまあステータス画面で一時中断できるのはありがたいけどさ。それも一時的じゃない。リセット以外にも好きなタイミングで練習をやめられる機能ぐらいあってもいいんじゃないの」

「それもそうですね、おじさん。いったい『マジカルアタッカー』の製作者はなにを考えてこんなシステムにしたんでしょうねえ」


 俺がしどろもどろに言い訳すると、女子高校生はそれに対して返事をするがどうもいい加減だ。俺は不思議に思って女子高校生の様子を見ると、女子高校生はステータス画面からスライムとの戦闘画面に戻って魔法使いをスペシャルファミコンのコントラーラーで操作していた。


「なに、してるの?」


 俺がそう質問すると女子高校生はあっけらかんとして答えてくる。


「なにって、あたしが魔法使いを操作してるんじゃあないですか。たしかにおじさんが言う通り、この『マジカルアタッカー』のゲームシステムはいろいろ不親切ですね。練習モードの好きなタイミングでの終わらせ方が本体のリセットボタンを押すしかないとか、製作者はテストプレイをしたのかどうか疑わしいですよ」


 そう俺に返事をしながらも、女子高校生は『マジカルアタッカー』の魔法使いの操作を続けている。しかも俺がプレイするよりもずっとうまいときてる。


「おじさんが言っていた通り、プレイ中にリセットボタンを押す癖がついちゃうのはいけません。あたしが『マジカルアタッカー』の世界に召喚されてスライムと戦っているときに、おじさんがうっかりリセットボタンを押しちゃったら『マジカルアタッカー』の世界のあたしがどうなるかわかったものじゃあありませんからね」


 女子高校生は俺よりも上手に画面上でスライムの攻撃から魔法使いをよけさせながら、俺に説明してくる。なんで俺と話しながらでも俺よりうまく操作できるんだ。そう思っていたら女子高校生がいきなり俺のほうをむいて話してきた。画面を向いていなくても女子高校生はスペシャルファミコンのコントローラーで魔法使いを操作し続けていて、スライムの攻撃をよけ続けている。


「ですから、おじさんにリセットボタンを押させたくはありませんし。かと言って、あたしがこの部屋に来たからおじさんはスライムとの戦闘をステータス画面にして一時中断したんですからね、この戦闘くらいはあたしが面倒見てあげましょう。あたしだって、輪郭とは言え一応はあたしである女剣士が一人きりでスライムにされるがままにされるのは見たくありませんからね。おじさんが魔法使いをスライムに特攻させる選択肢も除外してあげましょう。おっと、輪郭女剣士がスライムを倒しましたね。これでクリアになりますけど、どうします? ノートの正の字のクリア回数に追加しますか」

「いや、いいよ。今回は俺がクリアしたわけじゃないからさ。それよりも、なんで画面も見ずにプレイできるんだよ。スライムの攻撃をよけられるんだよ」

「そんなの、スライムの攻撃のパターンを覚えているからに決まってるじゃないですか、おじさん」

「攻撃のパターンですか……」


 あっけにとられる俺をよそに、女子高校生は解説をし始めるのだった。


「このスライム、最初の戦闘だからかそもそもこのゲームがそう言うふうに作られているかどうかはわかりませんが、攻撃のパターンが決まっていますね。おじさんの部屋に来た最初の日にあたしが魔法使いを操作してみせたでしょう。あのときにもしやと思ったんですけどね、さっきのプレイで確信しました。少なくともこのスライムは、最初から最後まで同じ行動パターンを繰り返しているだけですね。それも、単純な短い周期のパターンです」

「あっ、やっぱり」


 俺がポツリともらした一言を女子高校生は聞き逃さなかった。

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