第37話女子高校生に追求される俺
「おじさん、『あっ、やっぱり』ってなんですか。スライムの攻撃にパターンがあるって気づいていたんですか」
「そうだよ、ひょっとしたらって思ってたんだけど。そうか、やっぱりパターンがあったんだ」
俺の答えを聞くと、女子高校生は興味深そうに俺に尋ねてくる。
「おじさん、参考までに聞きますけど、なんでパターンがあるって思ったんですか」
「ああ、それは昨日『俺が操作する魔法使いを輪郭女剣士のヒットポイントがゼロになったからって、スライムに特攻させるのも問題あるかな』って話したじゃん。『リセットボタンを押すのは論外だからそうするのがしかたない』って結論になったけど」
「そうでしたね。『このゲームシステムなら魔法使いをスライムに特攻させてもいいんじゃないか』とあたしも納得しました」
うなずく女子高校生に、俺はスライムの攻撃にパターンがあるかもしれないと思った理由を説明し始める。
「それで、昨日そちらさんが帰ったあとに『マジカルアタッカー』の練習モードをしててね、輪郭女剣士のヒットポイントが魔法使いより先にゼロになったら、魔法使いをスライムに特攻させずにずっとスライムの攻撃をよけ続けていたんだ」
「へえ、スライムを倒せるわけでもないのにえんえんと攻撃をよけ続けていたんですか、おじさん」
そんなことに意味はないとでも言いたげな女子高校生だったが、実際のところそうでもなかったのだ。
「いや、これがなかなか悪くなくてね。輪郭女剣士のことを考えなくていいからスライムの攻撃をよけることに集中できてね、練習としてはいい感じになったんだ」
「なるほど、おじさんにとって輪郭女剣士の存在は練習の負担であったと」
「いやな言い方しないでよ。そちらさんと違って俺は『マジカルアタッカー』の操作が上手くないんだからさ。とりあえず魔法使いにスライムの攻撃をよけさすことだけに集中するくらいじゃないと上手くいかないんだ。そちらさんみたいにいきなりクリアなんてことはできないんだからさ」
「それにしても、輪郭女剣士のことを考えない方が効率的でしたとはねえ。『リセットボタンを押すことはいけない。だけど魔法使いを特攻させるのもそれはそれで……』なんて発想がこんなことになるとは思ってもいませんでした」
俺が見つけた練習方法に感心しきりの女子高校生である。ただ……
「だけど、パターンがあるって思っても目で画面を見ながら操作するので精一杯だけどね。とてもじゃないけど戦闘画面を見ずにプレイなんてことはできないよ。でも、魔法使いにスライムの攻撃をよけさせるのはともかく、輪郭女剣士のヒットポイントはどうやって把握してるのさ。輪郭女剣士の戦闘はオートだから、画面を見ないでいたらいつのまにか倒されてたってこともあるんじゃないの。輪郭女剣士を倒された魔法使いが、画面を見てないそちらさんに操作されてひたすらスライムの攻撃をよけ続けていると言うのも結局スライム倒せないじゃん」
「ああ、それは効果音でわかりますよ。スライムとの戦闘だとスライムにダメージを与えた時と味方がダメージを受けた時の二種類のダメージ音がありましたから。あたしの操作する魔法使いはあたしの操作がうまいからダメージを受けない。となると味方がダメージを受けた音がすると、輪郭女剣士がダメージを受けたなってわかります。あたしがおじさんのほうを向いた時の輪郭女剣士のヒットポイントはまだ余裕がありましたし、スライムが輪郭女剣士に与えるダメージ量もほとんど一定ですしね。味方のダメージ音の回数を数えていれば、輪郭女剣士はまだまだ倒されないなって判断できますよ、おじさん」
そうだったのか。効果音なんてあまり気にしていなかったからわからなかった。女子高校生は目だけでなく耳でもゲームの情報を取り入れていたのか。俺がそう感心していると、女子高校生が意味ありげに笑いながら一言付け加えてきた。
「もし『マジカルアタッカー』がキャラクターボイス付きで、輪郭女剣士のダメージ声がテレビから聞こえていてらおじさんも画面を見ずにプレイできるかもしれませんね」
「無理です。そんなことはできません。俺の操作の腕前はそちらさんと比べるまでもない下手さなので、練習が必要なんです」
そう言えば、スペシャルファミコンからゲームの効果音に声が突き出した。となると、『マジカルアタッカー』にもキャラクターボイスが付いている可能性があった。もしそうだったら女子高校生に色々言われていただろう。『おじさん、女剣士のダメージボイスだけ録音して変なことしちゃあダメですよ』とかなんとかかんとか。
「それじゃあ、リザルトモードにしようかな。タイトル画面に戻してと……」
女剣士のダメージボイスがどうしたこうしたと言われたらかなわないと思って俺は話題をそらしながらコントローラーのBボタンを押して、『リトライ?』と表示された画面からタイトル画面に戻す。そして、リザルト画面を見られるよう隠しコマンドを入力しようとする俺に女子高校生がささやくのだった。
「おじさん、ひょっとしたらサウンドモードが楽しめる隠しコマンドがあるかもしれませんよ。その中には、開発段階でボツになった女剣士のキャラクターボイスがあるかもしれませんね。その中にダメージ声があったら、いろんなことに使えそうじゃないですか」
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