第38話女子高校生と数字について話し合う俺
「そういうのはいいから、そこにあるノートとってよ。そちらさんが俺の部屋に持ってきたやつ。昨日そちらさんが帰ってから、今日そちらさんが来るまでの練習結果が書いてあるから」
「はいはい、おじさんの練習結果を拝見しましょうかね」
みょうなセクハラ発言を続けるでもなく、女子高校生は俺の頼みに応じてくる。まったく、なにがサウンドモードだ。わざわざキャラクターボイスをゲーム用に録音しておいて、なんでボツにする必要があるんだ。しかもそれを隠し要素で聞けるようにしておくなんて。そんな面倒なことをしてなんになるんだというんだ。
「おじさん、ノート取ってきましたよ。早くリザルト画面表示させてください」
なんやかんや考えていた俺だったが、女子高校生に急かされてリザルト画面を表示させる。で、表示されたリザルトの数字はこうである。
ステージ1
トライ 319
クリア 125
ミス 110
正直なところ、もうこの数字だけ見せられてもなにがなにやらよくわからない。この『マジカルアタッカー』の製作者は遊ぶプレイヤーのことをどう考えているんだ。いちいちノートに練習結果を書き留めておかないと毎日の反省がおぼつかないじゃないか。
そんな不満を心にいだいて、俺は女子高校生にノートを見せてもらうよう頼むのだった。
「やっぱり、このリザルト画面じゃあ結果がわかりにくくてしょうがないな。合計した数しか表示してくれないんだもん。そのノートに毎回、正の字で練習結果を残していった方がいいかもしれないな。ああ、そういえばクリア回数はともかくトライ回数は記録しておかないとな。そちらさんが部屋に来た時に中断しちゃったけど、トライしたことには変わりないから。ねえ、クリアの正の字のところに一本足しておいてよ」
「あたしがノートに書くんですか? 今までずっとおじさんがノートに正の字を書いてきたのに」
「そのくらいやっちゃってよ。そうなんでもかんでも全部俺にやらせないでよ」
そう俺は女子高校生にトライの欄の正の字が書かれている部分へ一本足しておくよう頼んだ。すると、女子高校生はなにやら面食らいながらも俺が言う通りにノートに一本線を引いた。そう言えば、俺が女子高校生に頼みごとをして、その俺が頼んだことを女子高校生が実行するのはこれが初めてかもしれないな。
女子高校生がこの部屋に来たのも、数枚の一万円札を置いていったのも、部屋の掃除をしたのも、メールをするようになったのも、全部女子高校生から言い出したことだ。俺のリクエスト通りにサンドイッチを作ってきてくれたことはあったが、あれだって料理を作ると言い出したのは女子高校生だった。あれは俺がメニューを決めただけだから、俺がサンドイッチを作るように女子高校生に頼んだというのは違うような気がする。
そんな俺の初めての頼みごとを、女子高校正はたいしていやがるそぶりも見せずにやってしまった。そして俺にそのノートを見せてくる
「はい、おじさん。あたしが、おじさんの頼み通りに、トライの欄に線を一本引いておきましたからね」
「ああ、ありがとう。それじゃあ今回の回数の合計はと……」
そう俺が頼んだことを強調してくる女子高校生からノートを受け取ると、俺はトライ、クリア、ミスの欄の正の字を数えてそのそれぞれの合計をノートに書き込んでいく
トライ 正正正正正 正正正正 45
クリア 正正正正下 23
ミス 正正正正一 21
「45、23、21、かあ。昨日の数字が91、25、66だからなあ。ねえ、今回の結果はどうかな」
俺は昨日の練習結果の数字が書かれている前のページを開いて、今日の練習結果と比較して女子高校生に意見を聞くのだった。
「おじさん、やっぱり筋肉痛がひどかったんですか。トライの回数が半分くらいになっちゃってるじゃあないですか。そんなに大変だったらあたしにメールしてくれたらよかったのに。就寝と起床との報告だけでもこの際かまいませんから、内容を『おやすみなさい』と『おはようございます』以外に何か一言付け加えるとかですね……」
「いや、心配してくれるのはうれしいけどね、トライの回数が減ったのは筋肉痛が原因じゃないんだ。筋肉痛の方は一晩寝たらだいぶよくなったから」
「筋肉痛が原因じゃないんですか、おじさん。まあ、筋肉痛が良くなったことはいいんですが、じゃあ、なんでトライの回数が減ってるんですか。サボりですか」
俺の筋肉痛が回復したことにはうれしそうな女子高校生だが、トライの回数が減った理由はきちんと尋ねてくる。そんな女子高校生に俺はあわてて弁解するのだった。
「いや、ほら説明したじゃん。輪郭女剣士のヒットポイントがゼロになったら、魔法使いを特攻させずにひたすら逃げまわらせてたって。それまでは輪郭女剣士のヒットポイントがゼロになったらすぐに魔法使いもスライムに突っ込ませてヒットポイントをゼロにしてたのを、魔法使い一人だけ逃げ回らせるようにしたんだからさ、一回あたりのプレイ時間が長くなるのは当たり前だろう。そのぶんトライ回数は少なくなると……」
「なるほど、話の筋は通っていますね、おじさん」
とりあえず女子高校生は納得してくれたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます