第47話異世界から戻ってきた女子高校生

「おじさん、おじさんってば」


 俺が目を閉じて横になっていると、耳元で俺を呼ぶ声がする。目を開けると女子高校生が俺の顔をのぞきこんでいた。俺は寝転んだまま返事をする。


「ああ、おかえり。でいいのかな。『マジカルアタッカー』の世界から戻ってきたんだね」

「ええ、おじさん。おかげさまでスライムを倒せました。おじさんが操作する魔法使い、なかなかいい動きしていましたよ。スライムの攻撃を軽やかによけていました。実際に『マジカルアタッカー』の世界にいながらこの目で見たあたしが言うんだから間違いありません。ゲーム画面ではどうだったかわかりませんが」

「いや、そちらさんの女剣士こそゲーム画面ではいい動きしてたよ。そちらさんが召喚された『マジカルアタッカー』の世界ではどうだったか知らないけど」


 そうやってお互いがお互いをほめあっていると、女子高校生が部屋を見渡ながら何か言いだした。


「それにしても真っ暗じゃないですか、おじさん」

「ああそうか。部屋のあかりをつけずに本番にのぞむって昨日決めたからね。うまくスライムも倒せたし、あかりをつけるとしようかな」

「いやそうじゃなくてですね、おじさん」


 女子高校生は何か言いたげである。気になることは気になるが、先に部屋の明かりをつけてしまおうと思ってあかりのスイッチをオンにするが部屋の明かりがつく気配はない。何度もスイッチのオンオフを繰り返すが、部屋は真っ暗なままだ。どういうことなんだろう。


「おじさん、窓の外見てくださいよ」


 そう女子高校生にうながされて窓から外を見る俺である。


「真っ暗だね」

「ええ、真っ暗ですね、おじさん。おかしいと思いませんか。街灯もついてない。近くのマンションやアパートにだってあかりがついた部屋は見当たりませんよ。このあたりが全部停電してるんじゃあありませんか。あたしがおじさんの部屋に来る時も、あかりは見当たりませんでしたもん」


 停電か。『マジカルアタッカー』をプレイしてたから気づかなかった。俺が『マジカルアタッカー』のゲーム画面しか目に入らず、それ以外は真っ暗だと思っていたのはゾーンでも異世界召喚でも何でもなくただの停電だったのか。真っ暗になるはずだ。


「で、おそらくこのあたり一帯が停電してるわけですが、なんでテレビの画面がついたままになってるんですか、おじさん。スペシャルファミコンも作動したままだし」

「これを見ればわかるよ」


 女子高校生はそんな質問を俺にしてくる。それに答えるべく、俺はテレビやスペシャルファミコンの配線部分を女子高校生に見せるのだった。停電中だから部屋は暗いが、テレビの画面がついているのでそのあかりでそれなりには見ることができる。そうやって配線部分を見ながら、女子高校生が感想を話し出す。


「どれどれ。ふうん、たしかにテレビとスペシャルファミコンがただコンセントにつながれているだけではなさそうですね。部屋のコンセントになにか、たこ足配線機のお化けみたいなのがつながってて、それとテレビとスペシャルファミコンがつながっています。なんですか、これ。昨日まではこんなものなかったと思いますが」

「屋外用電気バッテリー」

「なんですか、それ」


 女子高校生は俺が『バッテリー』と答えてもピンとこないようだった。具体的な説明が必要みたいだな。


「簡単に言うと、コンセントがない場所でもコンセントが必要な電気製品を使うためのものだね。スマホの充電電池みたいなものと思ってくれたらいい。これにあらかじめ充電しておいたら、電線のない場所でもコンセント使えることになる。キャンプに持って行く人が多いみたいだね」

「キャンプですか。おじさんに似つかわしくない言葉ですねえ」

「キャンプ以外にも使い道はあるんだ。コンセントがあっても、そこに電気が来ないような状況があるだろう」

「なるほど、今みたいに停電している時ですか、おじさん」


 ようやく女子高校生は、なんでこのあたり一帯が停電しているのにテレビがついていてスペシャルファミコンも作動している理由がわかったようだ。


「ずいぶん備えがいいですねえ、おじさん。あたしが『マジカルアタッカー』の世界に召喚されているときに、おじさんがリセットボタンを押したらどうなるかとは話していた気もしますけど、停電に備えてこんなものまで用意しておいたなんてねえ。しかもそのおかげであたしはこの世界に戻ってこられたみたいだし。もし、おじさんがこのバッテリーを用意して置かずに、停電でスペシャルファミコンの電源が切れていたらと思うと……おお、こわいこわい」

「そんなこと言って、隠しカメラか何かで、俺が非常用にバッテリーを用意しているのに気づいていたんじゃあないのか。もし、俺が停電に備えていなかったら、それとなく俺に気付かせるようにしむけるつもりだったりしないのか」

「隠しカメラですか、おじさん。そんなのぞきみたいなまね、あたしがすると思っているんですか。おじさんが今日の夕方六時をどんな様子でむかえていたのか、そのあとどんなふうに『マジカルアタッカー』をプレイしていたのか、ということをゲームの世界に召喚されているはずのあたしが見物していたって言うんですか」


 だから、召喚されている“はず”とか自分で言っちゃったらダメじゃないか。

 

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