第46話二回目の本番
テレビにはスライムとの戦闘画面が映し出される。画面の上の方で大きなスライムがうごめいている。そして、画面の下の方で俺が操作する魔法使いが一人と。きちんとしたグラフィックで表示されている女剣士がいる。俺が初めて『マジカルアタッカー』をプレイした時と同じグラフィックの女剣士だ。
と言うことは、女子高校生が『マジカルアタッカー』の世界に召喚されてスライムとの直接対決におよんでいるのだろうか。それとも、女子高校生が何か細工をして、今回は女剣士が輪郭で表示されずにちゃんとしたグラフィックで表示されるようにしたのだろうか。
そういえば、いまステータス画面を表示させれば、もっときれいにドット絵で描写された女剣士のグラフィックが表示されるかもしれない。しかし、仮に女子高校生が本当に『マジカルアタッカー』の世界に召喚されてスライムと戦っているとしたら、俺がステータス画面を表示させている間、『マジカルアタッカー』の世界の時間の流れはどうなるのだろうか。
女子高校生が『マジカルアタッカー』の世界でスライムと戦っているのに、この世界の俺は魔法使いを操作するでもなくステータス画面の女剣士のグラフィックをながめている……とりあえず今はステータス画面を開くのはやめておこう。どうせ、いまさらステータス画面を開いても女剣士のグラフィックを確認する以外にすることはなさそうだし。
どちらにしろ、俺がやることは、練習通りにスライムの攻撃をよけ続けながら女剣士と魔法使いの減ったヒットポイントを回復させることだけだ。
そう決心して俺がスライムの攻撃をよけていると、女剣士がスライムに向かっていく。練習モードではオートプレイということだったが、今回は女子高校生が『マジカルアタッカー』の世界でスライムと実際に戦っている。少なくとも女子高校生はそう主張していた。『そうじゃないかもしれませんよ、おじさん』とほのめかしていた気もするが……
とにかく、女剣士のグラフィックからして今回は練習モードとは違うようだから、気合を入れなければならない。ここでまたみっともない魔法使いの操作をしてしまったら、女子高校生にまた性癖がどうのこうの言われてしまう。
そういや、女剣士は女子高校生が戦っているとして、スライムの方はどうなんだろう。練習モードでは決まったパターンの動きしかしてこなかったが、あれも練習モードだからこそかもしれない。ひょっとしたら『マジカルアタッカー』の世界のスライムは、パターンにとらわれない動きをしてくるかも……
そう不安になる俺だったが、そんな困った事態にはならなかった。今回のスライムの動きも練習モードの時と同じようにパターン化された動きしかしてこない。ひとまず安心だ。『マジカルアタッカー』の世界のスライムが単純なのか、それともあんがい女子高校生があっていたと言う王様あたりがトレーニング用に飼いならしてあるスライムなのかもしれない。それこそ練習モードとしての形稽古してくれるスライムみたいな感じで。
だとすると、女剣士の持っている剣も竹刀程度のものかもしれない。『マジカルアタッカー』の世界に召喚されたのは本当だとしても、女子高校生が言っていたような殺伐とした世界ではなく、意外とのほほんとした世界なのかもしれない。女子高校生はスライムにひどいことをされたなんて言っていたが、本当のところは稽古が終わると親切なスライムかもしれないじゃないか。
そんな物思いにふけっていられるのも、スライムの攻撃がさんざん練習モードで俺が慣れしたしんだパターンのものでしかないからだ。女剣士も練習モードよりはヒットポイントの減りが遅い。女子高校生は『オートプレイよりは頼れる女剣士だと思いますよ』なんて言っていたが、その通りである。
俺の操作する魔法使いは練習通り、いや練習以上にうまくスライムの攻撃をよけている。
女子高校生の女剣士も軽快にスライムにダメージを与えているようだ。こうまで調子がいいと、『マジカルアタッカー』のゲーム画面以外には何も目に入らない気がしてくる。
スポーツ選手が体験するような、極限の集中状態でプレイに関係ない周りの風景や音が全部遮断されるゾーンなのかもしれない。あるいは、俺は俺で女子高校生とは別の、スペシャルファミコンで『マジカルアタッカー』をプレイするだけの異世界に召喚されているのかもしれない。
そんなふうに俺が『マジカルアタッカー』に没頭していると、スライムの動きが止まってやられるグラフィックになった。女子高校生の女剣士がスライムを倒したらしい。結局俺の操作する魔法使いが回復魔法を使うことはなかった。これなら、俺の魔法使いがいなくても、女子高校生の女剣士一人だけでスライムを倒せたな。
スライムとの勝負を終えた俺は、そのまま床に寝転がり目を閉じるのだった。
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