第44話女子高校生を追い返す俺
「俺にとっては『マジカルアタッカー』はスペシャルファミコンのゲームだけど、そちらさんは『マジカルアタッカー』の世界に召喚されている。と言うことは、『マジカルアタッカー』の世界で生きている人がいるんでしょ。王様と話したって言ってたから、少なくとも王制が成立するだけの社会があるわけだし。そんな世界に一回召喚されて、スライムにやられました、それでは永遠にさようなら。なんてのはそちらさんとしてもおさまりがつかないんじゃない」
「そりゃあ、『マジカルアタッカー』の世界の人間たちがモンスターに苦しめられていると考えないわけでもありませんが」
「だったら、せめてスライムをこちら側が倒すくらいまではやっておきたいな。本当にそちらさんが『マジカルアタッカー』の世界に召喚されているんだったら」
俺はそう女子高校生の説明した設定に疑問をぶつけた。すると、女子高校生はこう言い返してくる。
「本当はあたしは『マジカルアタッカー』の世界に召喚されていないなんて言いたげですねえ、おじさん。じゃあ、実際はどんなことになっていると言うんですか」
「それはわからないけど、俺はこの世界からそちらさんがいなくなるところも見てないからなあ。俺は『マジカルアタッカー』の世界に召喚されてないわけだし。そちらさんの話を俺が信用するには、いまひとつ決め手がかけていると言うか……」
俺がそう文句をつけると、女子高校生はこう切り返してくる。
「わかりました。おじさん、あしたは何としてもスライムを倒しましょうね。そしたらストーリーが進むはずです。その進んだストーリーのリアリティをおじさんにたっぷり話してあげます。そうすれば、おじさんも『マジカルアタッカー』の世界にあたしが本当に召喚されているって納得してくれるはずです」
「へえ、俺に話してくれるってことは、スライムを倒したら『マジカルアタッカー』の世界からこの世界に戻ってくるってすでにわかってるみたいじゃないか。そうとは言い切れないんじゃないの。スライムを倒したら、『マジカルアタッカー』の世界に召喚されっぱなしかもしれないのに」
俺はうまく女子高校生の話の穴をついたつもりだった。しかし女子高校生はそつがない。
「別に直接おじさんと話すとは言ってません。『マジカルアタッカー』の世界にいる女剣士のあたしが話して、それをおじさんがこの世界の『マジカルアタッカー』のゲーム画面の女剣士の話すふきだしの文字で読むパターンだってあり得ます」
「じゃあ、そのあたりも確かめたいから、あしたはそちらさんも召喚された『マジカルアタッカー』の世界で頑張ってスライムと戦ってね。だいじょうぶ? 俺は何度も練習モードでスライムと戦ったけど、そちらさんは一回スライムと戦ってやられただけじゃない」
「平気です。おじさんこそちゃんと魔法使いを操作してくださいね。そういえば、おじさんって部屋の明かりがついているときと消えているときだったら、どちらが『マジカルアタッカー』プレイしやすいですか」
女子高校生の質問にふと悩む俺である。そういえば、ここ何日かは女子高校生が来るたびに俺の部屋のあかりをつけていたな。で、寝るときに俺が消していたのだが……女子高校生が『マジカルアタッカー」の世界に召喚される夕方六時と言うのは、部屋のあかりをつけるかどうかは微妙な時間帯だ。
「そうか、あしたの夕方六時はどうしようかな。それまであかりはつけないでいるだろうから……本番になってあかりをつけてプレイするとなると感覚がくるうかもしれない。あかりはつけないでやることにするよ」
「そうですか……おじさんは暗い部屋でのほうが調子がでるかもしれませんね。なんだかすいません。部屋に押しかけるたびに部屋のあかりをつけちゃったりして」
「いや、たいしたことじゃないよ。こちらこそ、いろいろ世話になったね」
俺がそうお礼を言うと、女子高校生は急にどぎまぎしだした。
「なにをいきなり。そういうことはあしたスライムを倒してからにしてください。それではまたあした。少なくとも『マジカルアタッカー』の世界でおじさんの操作する魔法使いとお会いするのを楽しみにしています」
女子高校生はそう言うと部屋から台所に向かっていき、置きっぱなしになっているショッピングバッグからすき焼きの材料を取り出して冷蔵庫に入れていく。
「これはあしたの祝勝会の準備ってことですからね、おじさん。つまみ食いしちゃだめですよ」
ショッピングバッグの中身を冷蔵庫に移し終わると、女子高校生は俺の部屋を出ていくのだった。
「それでは、おじさん。あしたいっしょにスライムと戦いましょうね」
そう言って玄関のドアを閉める女子高校生である。あした、か。俺はそう心の中でつぶやくと、カロリーバーを口に入れ『マジカルアタッカー』の練習モードを再開するのだった。もうすっかりあたりは暗くなっている。あしたスライムとの戦闘が終わるころにはこんな感じに日が暮れているだろうか。
あれだけ女子高校生の話に難癖をつけたんだ。これで俺が無様に魔法使いをスライムに倒されたら、それこそかっこうがつかない。そう思うと、練習にも気合が入るのだった。
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