第43話女子高校生がすき焼きを作るのを断る俺

「それで、おじさん。先に輪郭女剣士がやられたら魔法使いにスライムの攻撃をよけさせ続けていたんですか。昨日あれだけあたしがとなりでちょっかいかけていても、けっこう長い間よけていられたんだから、邪魔するあたしがいないとなったら、それこそいつまでも終わらないはめになっちゃったんじゃあないですか」

「うん、それね。昨日そちらさんが帰った後に練習モードをして魔法使い一人だけになったらね、本当にずっとよけていられたんだ。スライムの攻撃にパターンがあるとわかったし、なれればどうってことなかったよ。だから、スライムに特攻させて自分から魔法使いのヒットポイントをゼロにさせたよ」


 俺の答えに女子高校生は納得したようだ。


「まあ、そうするくらいしかないでしょうね、おじさん」

「言っとくけど、明日の本番でもし俺の魔法使い一人だけになってもそうするからね。リセットボタンを押すとそちらさんがどうなるかわからないし、本番だからってえんえんとよけ続けていたって何かがどうなるとも思えないし」

「それでいいですよ、おじさん。そうなったらたぶんあたしがこの世界の戻されるでしょうから。そしたらまた一週間のスライムとの練習モードですね」

「それで、今夜からあしたの夕方にかけて、すこし集中して練習しておきたいんだ。できれば明日の本番でスライム倒しちゃいたいから。だから、今夜の食事はすき焼きみたいに手間がかかるものじゃなくて、軽くすませたいんだ。部屋にカロリーバーがあったから、それにしちゃおうかと……」


 そう俺が申し訳なさそうにボソボソと頼むと、女子高校生は冷ややかに俺に質問してくる。


「おじさん、それ、いつそう決めたんですか」

「昨日そちらさんが帰ったすぐ後にノートの練習結果を見直してたら、本番までに気合を入れて練習しなければいけないなと思って。それで、今日の夕飯は簡単に済ませられるものがいいかなって……」

「だったら、昨日のうちにメールくらいよこしてくれたっていいんじゃないですかねえ、おじさん。『明日の夕飯は簡単にすませられるものがいいです』みたいに。あたしが苦労して持って来たすき焼きの材料、どうしろって言うんですか」

「ごめんなさい」


 女子高校生に返す言葉もない俺である。そんな謝罪する俺に女子高校生はしょうがないなあといったふうに言葉をかけてくる。


「まあ、練習モードの成功率もいい感じですし、すき焼きはあしたの祝勝会ということにしておきましょうか。それより、今夜からあしたの夕方にかけてなんて言っていましたけど、おじさん、徹夜でもする気だったんですか。やめておいてくださいね。あたしが『マジカルアタッカー』の世界に召喚されているときに、寝落ちなんてされたらたまったものじゃあありませんよ」


 女子高校生が俺にちくりと釘をさしてくる。


「現実世界のおじさんに、『マジカルアタッカー』の世界のスライムが状態異常魔法なんてかけられるわけないんですからね。『マジカルアタッカー』の世界に召喚されたあたしがスライムと戦っているのに、おじさんがテレビの前で高いびきなんて許せません。そのうえもしも女剣士であるあたしのヒットポイントがゼロになってスライムにされるがままになったら……」


 女子高校生がおぞましいと言った表情で想像力をたくましくしている。


「サポートするはずの魔法使いのおじさんは眠らされて、相棒の女剣士はおじさんの知らないところでスライムに好き放題される。ずいぶんハイレベルな寝とられですこと」

「わかったよ。今夜もしっかり睡眠をとって休ませてもらうから。今夜の十時におやすみメールをして就寝。あしたの六時に起床しておはようメール。ラジオ体操で軽く体を動かす。これでいいんだろう」

「それでいいでしょう、おじさん」


 俺のスケジュールをしっかり管理してくる女子高校生である。


「あしたの朝六時からあたしが『マジカルアタッカー』の世界に召喚される夕方六時までは時間がありますけど、直前の追い込みだからって根をつめすぎないでくださいね、おじさん。なんなら、あしたの昼頃に一回きましょうか」

「もし、あしたの夕方六字にそちらさんがこの部屋にいたらどうなるなかな」

「それは……やってみないと確かなことは言えませんが。たぶんあたしは『マジカルアタッカー』の世界に召喚されずに、この部屋にいるままなんだと思いますよ、おじさん」

「そうなったら、どうにも寝覚めが悪くなるなあ。そういうのは困るから、そちらさんもあしたはしっかり『マジカルアタッカー』の世界に召喚される準備をしておいてよ」


 女子高校生の推測に、俺は不満をもらす。

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