第19話ゲームの特訓といってもピンキリである
「ですけどねえ、おじさん。『マジカルアタッカー」のゲームシステムが、ヒットポイントをゼロにしたキャラクターを復活させられないものだったら、いくらこんな話したって意味ないですよ
それもそうだ。なら、どうすればいいと言うんだ。俺がそう考えると、女子高校生が俺の心の中の質問に答えるようにぼやきだした。
「おじさんの操作する魔法使いのヒットポイントが、ゼロにならないようにするのが一番じゃあないんですか。だいたいですね、おじさん。スライムとの戦闘って言ったって、最初の戦闘なんですよ。その戦闘で生きるか死ぬかなんて言ってどうするんですか。多分ですけど、このスライムとの戦闘はチュートリアル的な簡単に勝てるレベルのものだと思うんですけど」
「そ、そうだな。そのためには練習しないとな。さいわいというか何というか時間はたっぷりあるし。ほら、コントローラー返しなさい。練習するんだから。ああ、だけどちょうどいいや。いろいろアドバイスしてよ」
そう言って、リザルト画面を表示した時のまま、スペシャルファミコンのコントローラーを握っている女子高校生からコントローラーを奪い取ろうとする俺である。が、そんな節操なくがっついている俺を、女子高校生がたしなめるのだった。
「練習はいいですけどねえ、おじさん。コントローラーをかちゃかちゃするだけがゲームの練習じゃありませんよ。大きなゲーム大会で優勝するようなゲームプレイヤーが、どういう日常送っているか知らないんですか」
「そういうゲームプレイヤーって、スポンサーがついたりしているプロフェッショナルなんだろう。そんなアスリートみたいなことを俺に求められてもなあ……」
「おじさんの魔法使いを、ヒットポイントがゼロのまま放置しておいてもいいんですか」
「お手柔らかにお願いします」
ゲームはただの趣味として楽しくプレイしていたかった俺なのに、なんで三十過ぎた今になって勝負事として真剣に取り組まなくてはならないんだ。しかも生きるか死ぬかの勝負を。強制して無理やりさせられるゲームと言うのはあまり楽しくなさそうだ。
「じゃあ、とりあえず部屋の掃除からですね。ストレッチしたりしますから、部屋がごちゃごちゃしていてはいけません。ピカピカとまでは言いませんが、それなりに身動きができる程度にはきれいにしますよ」
そう言いながら俺の部屋を見回す女子高校生である。すると、女子高校生が何かに気づいたようだ。
「おや、昨日あたしが置いておいた一万円札じゃないですか。おもしなんか乗せちゃって。どれどれ」
俺がおもしを置いておいた数枚の一万円札に気づいた女子高校生は、その何枚かの一万円札を手にとって枚数を数えだした。
「ふむ、昨日と枚数は同じですね。おじさん、使わなかったんですか」
「そんな、お金をもらったからってすぐにぱあっと使っちゃうような人間ではないの、俺は。で、どうするの、その一万円札。持って帰るの」
「だから、あたしから回収するようなまねはしませんって。いらないなら、おじさんが自分の手であたしに返してください」
そう女子高校生に言われても、その一万円札を自分では女子高校生に返せない俺である。だが、自分の財布にその一万円札をしまうわけでもないのだ。そんな俺をあきれたように見ながら、女子高校生が掃除を始めだした。
「まあ、おじさんの好きなようにすればいいですけどね。それはそうと、掃除始めますよ。あたしに見られたくないものどこかにないですか。それとも、そういったたぐいのものは、全部デジタルデータですか、おじさんは」
「少なくとも、そのあたりを軽く掃除したくらいで見つかるような場所には見られて困るものはないよ」
「ほほう。あるともないとも明言しないわけですか、おじさんは。むだに年齢を重ねているわけではなさそうですね。あるとかないとか明言した時点で、おじさんの趣味嗜好の一部をあたしに知られてしまうわけですからね。なかなか悪くない判断ですよ、おじさん」
「それはどうも」
「それと、なにか動かして欲しくないものはありませんか、おじさん。あたしにはごちゃごちゃしているようにしか見えませんが、おじさんにはおじさんなりに計算された配置なのかもしれませんしね。あれはあそこで、それはそこ、みたいに。例えばティッシュボックスが手に取りやすい位置にあるとか」
「ありません。俺がただの面倒くさがりで部屋を片付けていないだけです。好きに片付けちゃっていいですよ」
そんな会話を女子高校生としながら、俺は部屋に散らばっているいくつかのゲームソフトをひとまとめにしてしまうことにする。ダンボール箱にでも入れておいて押入れにしまっておこう。どうせ、これからしばらくは『マジカルアタッカー』だけしかしないだろうし。
そうこうしているうちに、こぎたなかった俺の部屋がまあまあきれいにはなった。少なくとも部屋の中でラジオ体操をしても体に何かぶつからない程度には。この女子高校生、なかなか手際がいい。
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