第18話ゲームの設定について考え込む俺

「でも、それは俺の操作する魔法使いとそちらさんの女剣士が二人とも倒されて、ゲームオーバーになったからだろう。ゲームオーバーになってニューゲームをする前の状態に戻されたと」

「ゲームオーバーと言うことは、リセットボタンを押した場合と同じと考えられるんじゃないですか、おじさん」


 おそらく女子高校生が言う通りだろう。ゲームオーバーになっても何度でもやり直せる。それこそ『今時の若いもんは』とか言われそうな『マジカルアタッカー』の設定だ。しかし、ゲームオーバーにならなかったら……


「俺の操作する魔法使いがスライムに殺されてもそちらさんの女剣士がスライムを倒しちゃう場合もあるって言ったよね。練習モードならそれでいいとして、本番のそちらさんが『マジカルアタッカー』の世界に召喚されて、実際に女剣士として戦っているときはどうなるんだ。俺の操作する魔法使いが倒されている状態で、そちらさんの女剣士がスライムを倒してしまったら、そのままストーリーが進行してしまうんじゃあないのか」

「おやおや。気づいてしまいましたか、おじさん」


 そんなことを悪びれもせずに言う女子高校生である。冗談じゃない。


「『気づいてしまいましたか』じゃないよ。『マジカルアタッカー』の世界でヒットポイントがゼロになるって言うのはどういうことになるんだ。戦闘不能ってだけで、それ以外の行動は問題なくできるって言うパターンならいいよ。ヒットポイントはゼロでもイベントシーンとかでは元気に動き回っているって言うパターンなら。でも、ヒットポイントゼロが、イコール死亡ってパターンもあるじゃない。『マジカルアタッカー』がそのパターンだったら俺はどうなるんだよ」

「たしかに、ヒットポイントがゼロになったキャラクターがゲーム画面から消え去って、イベントシーンにもそのキャラクターが出てこなくなるって言うパターンもありますね。アールピージーゲームには少ないですけど、シミュレーションゲームにはけっこうあるパターンですもんね」


 どうもこの女子高校生は、最初から俺が操作する魔法使いが死んだまま自分の女剣士がスライムを倒してストーリーが進行するパターンに気づいていた、と言うより知っていたふしがある。それどころか、いつ俺がこのパターンもありうることに気がつくか楽しみにしていたんじゃないのか。どういうつもりなんだ。


「そ、それで、ヒットポイントがゼロになったキャラクターを復活させる手段は『マジカルアタッカー』の世界にあるのか。あるんだよな、ゲームだもん。なかったらつまんないもんな。あると言ってくれ、教会とか、蘇生呪文とかアイテムとか、戦闘後にはヒットポイントが全部回復しているパターンでもいいから」

「落ち着いてください、おじさん。そんなのわかりませんってば。あたしだって『マジカルアタッカー』初心者なんですよ。おじさんとの違いは、『マジカルアタッカー』の世界に召喚されて実際に戦っているか、この部屋でスペシャルファミコンのコントローラーでテレビ画面を見ながら操作しているかだけなんですから」


 この女子高校生が言うことももっともだ。しかしこれはまずい。俺の操作する魔法使いがヒットポイントゼロになっている状態で、女子高校生が召喚された『マジカルアタッカー』の世界でスライムを倒してしまったらどうなるんだ。


 女子高校生の女剣士が棺おけにはいった俺の魔法使いを引きずるのか。それとも頭の上に天使の輪っかをつけて幽霊状態になった魔法使いが、女子高校生の女剣士の後をついていっているのか。


 それならまだいいが、ヒットポイントがゼロになったとたんに死亡して二度と生き返らないパターンだったらどうしよう。女子高校生が言う通り、シミュレーションゲームにはけっこうあるパターンだった。それに、スペシャルファミコン時代のゲームならともかく、その少し前のファミコン時代の家庭用ゲームにはそんな理不尽なゲームがけっこうあった気がする。もしそうなったら、現実世界の俺にどんな影響があると言うんだ。


「お願いします。魔法使いが死んだままだったら、生き返らせてください。教会に行くとかなんとかして。死んでしまった俺の装備品だけ売り払って、酒場で他の仲間を探したりなんかしないでください」

「だからですねえ、おじさん。『マジカルアタッカー』の世界でヒットポイントがゼロって言うのがどういう状態かあたしにもわからないんですってば。ヒットポイントがゼロのキャラクターが戦闘に勝利したあとどうなるかもわかりません。ま、『マジカルアタッカー』のゲームシステムがヒットポイントゼロのキャラクターを復活させられるシステムだったとしましょう。そして、スライムを倒した後におじさんの魔法使いがヒットポイントゼロのままだったら復活させてあげますから」

「本当だな。見捨てないでくれよ」

「わかりましたってば、おじさん。それなりに情も湧いてきましたしね」

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