第17話女子高校生にはげまされる俺
「そうだったんだ」
「そうだったんですよ、おじさん。早まっちゃったようですね」
あっけにとられる俺である。その俺に対して女子高校生がなだめてくる。そんな女子高校生を見ていると、俺はふとした疑問に思い当たる。
「あれ? でも、昨日そちらさんが玄関に怒鳴り込んできたときは、『魔法使いがあっという間にやられちゃってスライムになすすべもなくされるがままだった』なんて言ってなかったっけ? 魔法使いが先に倒されたら、女剣士は攻撃できなくなるんじゃないの?」
俺がそう質問すると、女子高校生はほっぺたを膨らまして答えるのだった。
「あれは、おじさんの操作する魔法使いが自分からスライムの攻撃に当たりにいってすぐやられちゃったからです。いきなり王様に『相棒だ』って言われた魔法使いが自殺みたいなまねしたんだから、驚いちゃってスライムに攻撃するどころじゃあなかったんです」
「そうだったんだ。かえすがえすもごめんなさいね」
女子高校生が昨日のことを思い出して怒り出したようなので、俺はとりあえず謝っておく。
「まあ、おじさんもそれにこりたんでしょう。別に『マジカルアタッカー』の世界に召喚されたあたしってわけじゃないのに、輪郭女剣士がスライムにやられるところを見ていられなくてリセットボタンを押しちゃったんでしょう。ということにしておいて勘弁してあげます」
「はあ、それはどうも」
よくわからないが許してくれるというのならば、それにこしたことはないだろう。
「ですけどねえ、おじさん。何かあったらすぐにリセットボタンを押すというのはどうかと思いますよ。『失敗してもリセットボタンを押してやり直せばだいじょうぶ』だなんて、
いかにも子供の頃にゲームばっかりやってきた今時の若い者にありそうなことです。人生にリセットボタンはないんですよ」
大きなお世話である。ケータイしかいじってこなかったような今時の女子高校生に言われたくはない。いや、待てよ……
「うん。たしかに軽々しくリセットボタンなんて押すもんじゃないな。練習モードだったから良かったものの……ねえ、もし、本番、つまりそちらさんが実際に『マジカルアタッカー』の世界に召喚されているとき、女剣士が輪郭だけじゃなくてきちんとグラフィックで表示されているときに俺がリセットボタンを押しちゃったらどうなるの。電源ボタンをオフにしたり、停電だってあるかもしれないんだよ」
「そんなのわかりませんよ。あたしだって神様じゃないんですから」
それもそうか。さっきまではあんなに理路整然と説明していたが、女子高校生にだってわからないことくらいあるだろう。女子高校生の言う通り神様じゃないんだから。ん、神様……
「じゃあ、聞いといてよ。『マジカルアタッカー』の世界の神様に。スライムに倒されたあと、『マジカルアタッカー』の世界の神様に俺のこととか聞いたって言ってたよね。だったら、またその神様に会ったら聞いてくれないかな。そちらさんが『マジカルアタッカー』の世界に召喚されているときにリセットボタンを押したりなんかしたらどうなるかを」
「お、落ち着いてくださいってば、おじさん」
あせって女子高校生にせまってしまう俺である。そんな俺にたじろぐ女子高校生だった。
「そりゃあ、そちらさんが『マジカルアタッカー』の世界に召喚されているときは、リセットボタンも電源ボタンも押さないようにするけどさ、停電する場合だってあるじゃない。そんな場合はどうなるかさ、『マジカルアタッカー』の世界の神様に聞いといてよ」
「わ、わかりましたよ、おじさん。今度神様に会ったら聞いておきますから」
そんな動転している俺の頼みを女子高校生は了解した。それにしても、ゲームの世界に召喚されているこの世界の人間な女子高校生の女剣士と、この世界で俺がスペシャルファミコンのコントローラーで操作している魔法使いが、目の前のテレビ画面で一緒に戦っていると言うことはたいへんなことなんだなあ、と実感する俺であった。あれ、そう言えば……
「ねえ、昨日は俺が操作している魔法使いが先にスライムに倒されて、そちらさんの女剣士もスライムに倒されて、そちらさんが神様にあったあとこの世界に戻ってきたんだよね」
「はあ、そう言いましたけど。それがどうかしましたか、おじさん」
「となると、そちらさんが『マジカルアタッカー』の世界に召喚されたときに、俺の操作する魔法使いとそちらさんの女剣士が二人ともスライムに倒されたら、その場合はやり直せると考えていいのかな」
「そうなるんじゃないですか、おじさん。事実あたしはこうしておじさんの目の前にいるんですし。『マジカルアタッカー』の世界であたしの女剣士のヒットポイントがゼロになったからって、この世界であたしがどうにかなるわけではないみたいですね。この世界でスペシャルファミコンのコントローラーを操作していたおじさんも、特に変わったことはなかったんでしょう」
俺の部屋に女子高校生が進入してくるというイベントは起こったけども、俺が話したいことはそういうことではないのだ。
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