第16話女子高校生にダメ出しされる俺

「まあ、輪郭女剣士のヒットポイントが先にゼロになる場合あってあるんですけどね、おじさん」


 さんざん俺をいやらしい表情でねちっこくからかってきた女子高校生だったが、ふいに真顔に戻って『こんなケースもありますよ、おじさん』といった感じでその別パターンの展開を言ってくる。


「その場合は、おじさんの操作する魔法使いは回復魔法しか使えませんからね。スライムにされるがままになるはずです。直接攻撃もできないようになっていますしね。そうなるとスライムを倒せっこありませんから、ただボサッとテレビ画面を見ているしかありませんね。で、そんな場合にはおじさんはリセットボタンを押したと推理できますけどね。ミスがゼロ回なんですから」


 そう言えばそうだった。女子高校生が言う通り、輪郭女剣士が先にスライムに倒されるパターンもあったんだ。くそ、なんでこんなことに気がつかなかったんだ。実際にそのパターンも俺は経験したというのに。


「おじさんには、『いやあ、ついつい俺が操作する魔法使いの回復を優先させちゃってね。失敗した時は、いつも輪郭女剣士のヒットポイントを先にゼロにしてしまっていたんだ。そちらさんがゲームの世界に召喚されて女剣士として戦っていたわけじゃあないけど、なんだかごめんね。輪郭とは言え女剣士ばっかり先に倒されちゃって』なんて言い逃れる選択肢もあったんですよ」


 そんなダメ出しを得意げに俺に言ってくる女子高校生である。


「トライ91回、クリア30回、で、ミスがゼロと言う数字だけでは『クリアした以外は毎回毎回、輪郭女剣士が先に倒されたんだ』とおじさんに言われてもあたしは否定できませんからね。残念でしたねえ、おじさん」


 この女子高校生は俺をからかうのが楽しくて楽しくてたまらないと言う感じだ。輪郭女剣士が先に倒されたパターンに気がつかなかったことが、今さらながら悔やまれる。


「輪郭女剣士と、おじさんの操作する魔法使いがほとんど同時にスライムに倒されることもありえますね。その場合はリセットボタンを押す暇もないでしょうから、ミスとしてカウントされたでしょうね。もしそんなことが一回でもあればミスがゼロ回とはならなかったでしょう。そしたら、魔法使いだけが先に倒されるパターンと、輪郭女剣士と魔法使いが二人とも倒されるパターンの二種類あることはすぐ気付くはずです。となると、輪郭女剣士だけだ先に倒されてしまうパターンにもおじさんは気づけたかもしれませんね。でも、ミスはゼロ回だった」


 女子高校生がとめどもなく話し続けている。


「へたにミスがゼロ回だったことがおじさんにとって不幸でしたねえ。クリア以外のパターンが、おじさんの操作する魔法使いが先に死んだパターンだけだと思い込んでしまった。まあ、おじさんがそう思い込むようにあたしが誘導したって言うのもありますけど……ミスがゼロ回じゃなかったらおじさんを誘導することは難しかったかもしれませんね」


 俺にできることといえば、ただ黙って肩をふるわせることくらいだ。


「91回もトライしていながら、魔法使いと輪郭女剣士がいっぺんに倒されることがなかった。これはおじさんが内心あたしにダメ出しされたがっていたとも邪推してしまっちゃいますねえ」


 別に俺は自分の年齢の半分も生きていないような女子高校生にダメ出しされたくはない。が、今なにか女子高校生に口答えしてもやぶ蛇にしかならないだろう。俺は静かにしているしかない。


「でも、91回トライして30回クリアしたと言うのはなかなかがんばったじゃあないですか、おじさん。ほめてあげましょう。正直言って、あたし、『トライの回数が一桁とかだったらどうしよう。おしおきしちゃおうかしら』なんて思ってたりしたんですよ。おじさん、けっこう努力家ですねえ」


 女子高校生はそんな怖いことを言ってくる。『サボったりなんかしなくてよかった』俺はそう思った。『トライが91回というのは自分でもわりかし多いなあ』なんて感じていたが、それだけの回数やっていた理由は主に『マジカルアタッカー』がゲームとしてなかなか面白かったからだ。


 『マジカルアタッカー』がクソゲーじゃなくて本当に良かった。俺はしみじみ思うのだった。


「ちなみに、おじさんの操作する魔法使いが先にスライムに倒されても、そのあと輪郭女剣士ががんばればスライムを倒すこともありますよ。リセットボタンを押さずに、しばらく輪郭女剣士にまかせていたらクリア回数ももう少し増えていたかもしれませんね。それこそ、成功率がおじさんのいう通り半分半分になるくらいには」

「そうだったの!」


 女子高校生が言った言葉に俺は驚きの声を上げる。そんな俺を面白そうに見つめながら、女子高校生は説明し始めた。


「そりゃあそうですよ、おじさん。先に輪郭女剣士が倒されたら魔法使いに攻撃手段はありませんから、リセットボタンを押すのも仕方がないでしょう。ですけど、魔法使いが先に倒されても輪郭女剣士には攻撃手段はありますからね。その攻撃でスライムのヒットポイントをゼロにすれば、魔法使いが倒されていてもスライムを倒したことになりますからクリアしたことになりますよ」

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