第15話俺の特訓風景を見透かしている女子高校生

「いや、ゼロ回と言うのはおかしいよ」


 そう俺は主張する。


「だって、計算が合わないじゃないか。トライが91で、クリアが30だろう。だったら、ミスは91引く30で61になるんじゃないの。俺、練習モードでけっこう失敗したよ。正確な数は覚えてないけど。それなのに……」


 そうまくしたてる俺の口先に、女子高校生が自分の右手の人差し指を当ててくる。そんなことをされては俺は口を閉じざるをえない。そして、女子高校生が俺に言ってくるのだった。


「はいはい、わかってますよ。おじさんがどんな特訓を昨日の夜から今日のさっきまでしていたかは、このリザルト画面を見ればはっきりとわかります」

「そんなことを言うのなら、俺がいままでどんな特訓をしていたか言ってもらおうじゃないか」


 とは言うものの、この女子高校生がこの部屋に隠しカメラか何かを仕込んでいたら、俺が昨日の夜から今まで何をどうしていたかはお見通しだろうが……


「いいですか、おじさん。このミスという数字はですね、おじさんの操作する魔法使いと女剣士、ああ、練習モードですから輪郭だけの女剣士ですけどね、が二人ともヒットポイントがゼロになったらカウントされるんです」


 女子高校生がリザルト画面のミスの数字について説明し始める。俺が心の中で、この女子高校生が隠しカメラを俺の部屋に仕込んでいる姿を想像していることに気づいているかどうかはわからないが。


「ということはですね、おじさん。練習モードでどちらか一方のヒットポイントがゼロになったからって、スペシャルファミコン本体のリセットボタンを押しても、それはミスとしてカウントされないんですよ。練習モードのスライムとの戦闘画面に突入した時点でトライの数はカウントされますけどね」


 なるほど。そんなシステムになっているのか。待てよ、それでは、ミスの数字がゼロであるとリザルト画面に表示されていることは……


「で、ミスの数字がゼロであるということは、おじさんの特訓中におじさんの操作する魔法使いと女剣士、繰り返しますが練習モードですから輪郭のオート操作の女剣士ですけど、が二人ともヒットポイントをゼロにしたことはなかったと推測できるんです」


 さっき俺は自分が名探偵に詰め寄られる真犯人みたいだと思っていた。となると、この女子高校生が名探偵ということになる。だが、今の女子高校生の様子を見ればそれも納得だ。


「となると、トライ91回引くことのクリア30回である61回は、練習モードのスライム戦に突入してから、ミスとしてカウントされるまでに、おじさんがスペシャルファミコン本体のリセットボタンを押した回数と結論づけられるわけです。ここまでいいですか、おじさん」


 女子高校生の論理展開に俺はコクコクとうなずくことしかできない。そんな俺を見ながら女子高校生は話を続けていく。


「そこで問題になるのが、おじさんがリセットボタンを押したタイミングなんですよねえ。練習中に何か中断せざるをえない出来事が発生したとして、そこでおじさんがリセットボタンを押したということも考えられます。ですけど、そういう場合は普通メニュー画面を開くと思うんですよねえ。それに、そんな突発的事態が61回も起こるとは思えませんし。何回かはあるかもしれませんが」


 そこまで言うと、女子高校生はニヤリと意味ありげに笑うのだった。そして話を続けてくる。


「おじさん。自分の操作する魔法使いのヒットポイントを先にゼロにしてしまって、輪郭の女剣士が一人さびしくスライムと戦っている姿を見るのに耐えられなくてリセットボタンを押しちゃったんじゃあないですか。今、おじさんの目の前にいる女子高校生がスライムにひどい目にあわされているところを想像しちゃったんじゃあないですか」


 そう言いながら、女子高校生が俺に詰め寄ってくる。だが、女子高校生が話をやめることはない。


「ええ、あたしはおじさんに言いましたよ。練習モードの輪郭女剣士は、『マジカルアタッカー』の世界に召喚されたあたしではないと。ですけど、おじさんはそれにもかかわらずあたしがスライムにいろいろされている姿を想像してしまった。その結果、おじさんはリセットボタンに手を伸ばしてしまったんです。おじさん、あたしがスライムに襲われるの、いやだったんですか?」


 俺に詰め寄ってきた女子高校生がそんな質問をしてくる。これはまずい。なんとかしてこの女子高校生の論理の穴を見つけなければ。いや、ここは『きみがスライムに襲われるのなんて耐えられない。たとえそれが練習モードのオート操作されている輪郭女剣士だったとしても』なんて歯の浮くセリフを言うべきだろうか。


 そんなことを俺が考えていると、女子高校生がふっと笑って俺に詰め寄っていた姿勢から、もとの俺の隣に座っていた状態に戻っていった。

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