第14話俺の特訓内容を確認する女子高校生

「いやあ、おみごとおみごと。スライム倒せたじゃないですか、おじさん。あたしが見ていないあいだも、ちゃんと練習していたみたいですねえ」


 失敗せずにスライムを倒せてホッとしている俺に向かってパチパチ拍手しながら、そんなことを言ってくる女子高校生である。まるで家のお手伝いをきちんとした小さな子供をほめちぎるお母さんである。このまま俺の頭をなでてきそうな勢いだ。


「まあ、このくらいは軽いものだよ」


 で、俺は大したことではないというふうな返事をする。だが、実のところはまんざらでもなく、内心でこおどりしながら『やったぜ』とか『大成功』とか心の中で思いながらニヤニヤしていた。


 すると、俺の左肩に女子高校生が右手を置いてきた。『なんだいきなり』と俺が思っていると、女子高校生が俺の耳元でささやいてきた。


「それで、何パーセントぐらいの確率でスライムを倒せるようになったんですか、おじさん。正直に白状しなさい」


 まるで、『お姉さんはすべてお見通しなんですからね』とでも言っているような女子高校生の俺へのささやきである。俺は心の中で大喜びしていたことを女子高校生に見透かされたと思てしまった。ドキドキしながら冷や汗を垂らしている俺の耳元に、女子高校生がささやき続けてくる。


「おじさんさあ、スライムを倒した時にホッとした表情していましたよねえ。それって、スライムを倒せるかどうかが確実じゃなかったからそんな表情をしたんじゃあないですか。『軽いもの』だなんておじさんは言っていましたけど、本当のところはあたしが見ている前でスライムを倒せるかどうか内心ヒヤヒヤしてたんじゃあないですか。それで、うまくスライムを倒せたものだから、心の中では大喜びしている。すまし顔のおじさんの本心はそんなところじゃないかとあたしはにらんでいるんですけどねえ」


 なんだか名探偵に自分の犯行をすべて明らかにされる犯人の気分だ。


「そ、それはその、半分半分ってところかな。スライムを倒せるか倒せないかはフィフティフィフティだったけど……」


 観念した俺は、正直に白状した。つもりだった。だが、そんな俺の答えを聞くと、女子高校生は俺がにぎっていたスペシャルファミコンのコントローラーを奪い取ってくる。そして、俺の隣に腰かけると、持ってきた荷物を何かごそごそしだした。そういえば、何か大きな荷物を持っていたような……


「これはマイ座布団です。まったく、昨日はあたしがいきなりこの部屋に来たからともかく、今日は来るって言ってあったんですから座布団くらい用意しておいてくださいよ、おじさん。ああ、これは部屋に置いておきますからね。あたしの座布団ですからおじさんが使っちゃあだめですよ」

「えっ、そちらさんの座布団を俺の部屋に置いておくの。しかも俺が使っちゃいけないの」

「文句を言わないの、おじさん」


 そう俺にぴしゃりと言うと、女子高校生は何やらコントローラーを操作しだすのだった。そういえば昨日もこんなことがあったような……テレビの画面には、いつのまにか『リトライ?』と表示されているのだが。


「ま、おじさんに聞かなくても真実は明らかになるんですけどね」

「どういう意味だよ」


 女子高校生の言っていることがどういうことかわからずに俺は聞き返す。しかし、女子高校生はそれには答えずにコントローラーを操作し続けている。どうもBボタンを押してタイトル画面に戻したようだ。そしたら何かコマンドを入力しだした。


「上X下BLYRAっと。こういうことですよ、おじさん」


 どこか懐かしいコマンドを入力した女子高校生はそう言ってテレビの画面を指差す。間違いない。昨日もこんなことがあった。となると、テレビの画面にはなにかが新しく表示されているはずだ。そう思って俺はテレビの画面を見ると、タイトルロゴの下に新しく選択肢が増えている。


 ニューゲーム

 プラクティス

 リザルト


 新しくリザルトの選択肢が出てきた。リザルト、つまり結果ということだが、このタイミングで女子高校生がこのリザルトの選択肢を出現させたということは……


「その様子だと察したみたいですね、おじさん。それじゃあリザルト画面に行きますよ」


 俺の何か感づいたような表情を見ると、女子高校生は俺が感づいたことに感づいたようである。すると、女子高校生はリザルトの選択肢にカーソルを合わせてAボタンを押すのだった。そしたら、画面が切り替わって何やら文字列が表示された。こんな感じだ。


 ステージ1

 トライ 91

 クリア 30

 ミス   0


 そのリザルト画面を見ながら女子高校生はなにやらうなずいている。かと思ったら、意地悪そうに俺に話しかけてくる。


「91回やって30回成功ですか、おじさん。だいたい三分の一ってとことですね。何が半分半分ですか、見栄はっちゃって。ま、人間と言うものは成功体験はよく覚えていて、失敗体験は忘れようとする生き物ですからね。実際は三分の一と言う割合でも、『半分くらいは成功したんじゃね』と思い込んでしまうことは仕方がないですよ、おじさん。おじさんにあたしをだますつもりはなかったと言うことにしておいてあげます」


 そうか。俺は三回に一回くらいしかスライムを倒せていなかったのか。女子高校生の言う通り、俺は『二回に一回はスライムを倒せるようになったな』と思い込んでいた。それを女子高校生に指摘されるとは。三十過ぎたおっさんの立場がない。


「で、ミスがゼロ回ですか。ふうん。ゼロ回ねえ……」


 そんなことを意味ありげに言ってくる女子高校生である。あれ? ミスがゼロ回?

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