第4話女子高校生はゲームの世界に召喚されていた

「じゃあ、おじさんに説明してあげますね。それにしても、来客用の座布団くらいないんですか、おじさんの部屋には。かよわい女子高校生を直接たたみに座らせるのはどうかと思いますよ」

「そんなものないよ。どうせ客なんて来ないんだ。座布団なんて用意するだけ無駄だ」


 そう女子高校生に返事をする俺である。この部屋に客が来たことはないし、俺も座布団なんてつかわない。食事や寝る以外にはたたみに直接あぐらをかいてゲームをするくらいしか、この部屋で俺のすることはないのだ


「まったくもう、それにしても小汚い部屋ですねえ。まあいいです、おじさんも座ってください」


 そんなことを偉そうに言いつつ俺の缶ジュースを飲みながら俺を座らせると、自分も俺の隣に腰かける女子高校生である。いいからさっさと説明してくれ。


「ええとですね、あたしがさっきも言った通りに、夕方の六時くらいに『マジカルアタッカー』をやり始めたんです」

「へえ、そちらさんも。若いのに渋い趣味してるねえ。スペシャルファミコンの実機で? それとも、ダウンロード版とか?」


 あんな、俺が子供の頃にはやっていたようなスタイルのゲームをやるとは。今時の女子高校生にしては、レトロな趣味をしている。それとも、実況プレイやら何やらで、最近の若い子もレトロゲームをやったりするのだろうか。若い子供との接点がまるでない俺には見当もつかない話だ。


「ああ、それは実機です。今おじさんの部屋にあるこのゲーム機と同じやつでやり始めました。両親が子供のころに遊んでいたやつが、家に置きっぱなしになっていて、ちょくちょくそれで遊んでいたんです」

「ほほう、それはそれは。物持ちのいい親御さんだねえ」


 実機でプレイしていたとは。なんだかこの女子高校生に親近感がわいてきた。昔のゲームをダウンロードしたりして最新ハードでプレイすることも、当たり前のこの時代である、だが、最新ハードでのプレイと実機でのプレイとは、やはり同じようで全然違うのである。そして、この女子高校生の親御さんに思いをめぐらす俺であった。


 親が子供の時に遊んでいたものを、自分たちの子供にも遊ばせると言うのはなかなかほほえましい話である。だが、スペシャルファミコンで遊んでいたと言うことは、たぶん俺と同じ年齢だろう。そんな俺と同世代の人間に、女子高校生の娘がいると言うことを実感させられて、俺は落ち込んでしまうのだった。そんな気持ち、この女子高校生にはわかりはしないだろう


「どうしたんですか? おじさん、続けますよ」

「うん、続けてくれる」


 俺の沈んだ気持ちに気づくでもなく、女子高校生は説明を続けてくる。


「それで、ニューゲームを選択したとたんにですね、あたしは別の世界に召喚されていたんです」

「それで、いきなりスライムと戦うはめになったてこと?」


 俺がプレイした『マジカルアタッカー』と、女子高校生がプレイした『マジカルアタッカー』が同じならば、そうなってもおかしくないはずである。しかし、女子高校生はブンブンと首を横に振るのだった。


「いえ、気がついたらですね、なんだか王様っぽい人がいて、『お前をこの世界に召喚させてもらった。とりあえず力を確かめさせてもらう。余が定めるモンスターと戦うのじゃ』なんて言われちゃいました」

「ふうん。俺はニューゲームを選択したら、すぐにスライムとの戦闘になったけどなあ」


 どうもこの女子高校生の『マジカルアタッカー』と俺の『マジカルアタッカー』とは、微妙に違っているようだ。テレビに映ったゲーム画面を見ながらコントローラーで操作する俺と、実際にゲーム世界に召喚されて動き回る女子高校生との違いなのかもしれない。


 画面に映っていたゲームのドット絵の画面を俺は見ていたが、そのゲーム世界に召喚された女子高校生は、そのドット絵の風景をリアルに感じていたかと思うと、俺はなんとも言えない気持ちになるのだった。


 そこまで考えて、俺はふとしたことに気がつくのだった。


「そういや、ゲームの中だとけっこう過激なビキニアーマーだったよね。ドット絵でもそうとわかる露出度だったねえ。今は制服みたいだけど、そのあたりはどうなの? 召喚されたとたんにあのきわどいビキニアーマーを着ていたの?」


 俺がそう質問すると、ついさっきまではなんだか偉そうだった女子高校生が、あっという間に顔を赤らめる。おや、これはひょっとすると……


「そ、それは、召喚された時は制服のままだったけど……」


 そう言って口ごもる女子高校生である。やはり俺の予想どうりなのか。


「召喚された時は制服のままだったってことは、ゲームの世界であのセクシーなビキニアーマーに着替えたってことなの? ひょっとして自分で選んだの、あのビキニアーマーを? ううん、となると、カセットやタイトル画面にあの女剣士のイメージイラストがないのは惜しいなあ。ドット絵でもいやらしいってことがわかるんだから、イラストとなるとどんなことになっちゃうんだろう」


 そんなことを女子高校生に言いながら、俺は本体にささったゲームカセットに目をやる。そこには『マジカルアタッカー』のロゴが書いてあるだけだ。主人公のイラストが描かれているパターンもあるだけに惜しい。


 今、俺の目の前にいる女子高校生があれだけ過激なビキニアーマーを着ているイラストが見られないものか。説明書も箱も見当たらないのが実に惜しい。設定資料集が売っていないものか。


 そう物思いにふけっている俺に、女子高校生がわめき散らしてくる。


「だってしょうがなかったんだもん。制服のままだとなんだかんだ言って動きづらいし、スカートだし、見えちゃうし、なんか、あの鎧には魔法の加護的な何かがあるって言うし……」


 そうやって、俺に特殊効果だとかファンタジーの力だとかを力説してくる女子高校生なのであった。

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