第3話ゲームのヒロインは近所の女子高校生

「そう言われてもねえ。そうだ、台本とかあるの? なんなら見せてよ、ちょっとくらいなら一緒にやってあげるから。


 俺の反応は女子高校生のお気に召さなかったようだ。この女子高校生にはこの女子高校生のシナリオがあるのかもしれない。となると、その通りにしないとこの女子高校生は帰ってはくれないかもしれない。なんでこんな目に。


 だが、女子高校生はそれでもご不満のようだ。なおも俺にいろいろ口走ってくる。


「そうじゃなくてですね……そうだ! おじさん、このゲーム、この『マジカルアタッカー』何時ごろやり始めました? 夕方の六時ぐらいでしょ。そうでしょう。あたしもそうだったもん」

「ええと、そのくらいだったかな。今がだいたい六時半か。じゃあそんなものかな」


 どうしてかはわからないが、俺がゲームをやり始めた時刻を言い当てる女子高校生である。ゲームオーバーになったタイミングドンピシャで玄関の呼び鈴を鳴らしたことといい、やっぱり、俺は盗聴されていたのだろうか。


「そのねえ、盗み聞きくらいならともかく、隠しマイクとまでいくと警察沙汰になっちゃうかもよ。軽い気持ちで動画を投稿したら、それが犯罪証拠となることだってあるんだし」


 注意をすることで、この女子高校生を怒らせたら、強制わいせつの犯人にでっち上げられかねないが、うまくこの女子高校生を追い返す方法も思いつかない。どうしたものかと俺が考えていると、女子高校生が突然叫び出すのであった。


「それなら、ネットで『マジカルアタッカー』って調べてください。そうすれば、あたしの言っていることを信じようって気になるはずです」


 そう女子高校生に言われて、俺はスマートフォンで『マジカルアタッカー』と検索する。どうせマイナーなゲームソフトが引っかかるだろうと思っていたのだが……


 カードゲームについての何やらとか、そんな感じのものは出てきたが、昔のゲームのタイトルは見当たらない。いまのご時世にあふれている同人ゲームとかならそんなこともあるかもしれない。しかし、ダウンロードするだけでいいネット上のプログラムと違って、この『マジカルアタッカー』は、ゲームカセットという形をとっている。


 スペシャルファミコンは、カセットの形が全て統一されていたはずだ。周辺機器を本体に差し込むなんていうのもあったが、ゲームカセットの形は全部同じだった。この『マジカルアタッカー』も、俺が見慣れたゲームカセットと同じ形をしている。これだけのものを作るにはそれなりの手間がかかるはずだし、ということはそれなりの数が世の中に出回ったと考えられる。ならば、少なくともタイトルを検索したらなにがしかの情報がヒットするはずなのだが……


「おやあ、それらしい情報はヒットしませんねえ。どういうことでしょうねえ」


 そんなふうに考え込んでうつむいている俺の顔を、下からのぞき込みながらニヤニヤ笑っているこの女子高校生である。


「ちなみに、おじさんがプレイしたゲームの内容を説明しますね。いきなり巨大なスライムと戦うはめになる。男の魔法使いが自分からスライムの攻撃に当たりにいって死ぬ。回復手段がなくなった女剣士が、スライムをなんとか倒そうとするも健闘むなしく倒れる。といった具合だったと思うんでしょうが、どうでしょうか、おじさん」


 俺がゲームをしていたところを見ていたかのように話す女子高校生である。もちろん、実際に隠しカメラか何かで俺を観察していた可能性もある。しかし、この『マジカルアタッカー』というゲームをカセットにして、実機のスペシャルファミコンでプレイできるようにしたと言うのは、女子高校生のいたずらにしては手が混みすぎている。


 なにより、いたずらにしても、これだけのものを作り上げられる女子高校生には興味がわく。ならば、話を聞いてみても損はないだろう。


「じゃあ、とりあえず説明してよ。そちらさんに何があったのかを」

「いいでしょう。おじさんに説明してあげましょう」


 こちらが少し頼み込んだら、とたんに上から目線になるときた。最近の女子高校生というのはよくわからない。


「その前に、お茶でも出してくれませんかねえ、おじさん。人にものを頼むなら、それくらいのことはしてくれたってバチは当たらないと思うんですが。まったく、歳は取ってるくせになんなんですか」


 あまつさえ飲み物のサービスまで要求してきた。断るのも面倒で、俺が部屋の冷蔵庫に向かってドアを開けてのぞき込むと、その女子高校生も俺の後ろから冷蔵庫の中をのぞき込んできた。


「ろくなものがありませんねえ。料理とかしないんですか、おじさん」


 飲み物ぐらいしか入っていない冷蔵庫を見て文句を言ってくる女子高校生だが、三十代のおっさんの一人暮らしの部屋の冷蔵庫にたいしたものを求めないでもらいたい。


 そんなことを考えていると、女子高校生が俺の背中越しにヒョイと缶ジュースを取り出して部屋に戻っていく。


「しょうがないから、今回はこれで勘弁してあげますよ、おじさん」


 今回ということは、次回もあるのだろうか。そう思うと、俺はげんなりしてくるのだった。

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