第5話女子高校生はゲームの世界に召喚されて戦っていた

「それで、そちらさんがスライムと戦うことになった理由はわかったからさ、俺、と言うより魔法使いがなんでそちらさんの女剣士と一緒に戦っているのかを説明してよ。俺の場合だと、いきなりスライムと戦っていたから、そこのところがよくわからないんだ」


 ひとしきりビキニアーマーを着ることになった必然性を言い立てていた女子高校生が、しゃべることをやめるのを見計らって俺は彼女に聞いてみる。だが、彼女の返事は要領を得なかった。


「そんなの、あたしだってよくわからないわよ。いきなり王様に、『こやつがそちの相棒となる。回復やら何やらのサポートを得意としているから、頼りにするといい』なんて言われて紹介されたのがおじさんの魔法使いだったんだから。あとあと、回想みたいな形で明らかになったりするんじゃない」


 と、こういった具合である。


「ま、すぐにゲームオーバーになっちゃったから、その辺りがよくわからないのもしかたがないか」


 そう俺が感想を言うと、とつぜん何かを思い出したかのように女子高校生が叫び出すのだった。


「それよ、おじさん。なんでスライムの攻撃に自分から当たりに行くのよ。スライムが自分の体の一部をこっちにぶつけようとしてくるけど、おじさんの魔法使いはそれに自分から当たりにいって、あっという間に死んじゃったじゃない。なにが『サポートが得意』よ。ダメダメもいいところじゃない」

「しょうがないだろ。チュートリアルもなしにいきなりの戦闘だったんだ。操作方法だってよくわかっていなかったんだから」


 俺はできる限りの抗議をするが、女子高校生はちっとも納得してくれない。ますます俺を責めたててくるのだった。


「しょうがなくないわよ。あのあとあたしがどんなしうちにあったと思ってるの」

「どんなしうちにあったの?」


 女子高校生は質問してくるが、具体的なことは俺にはわからない。なにせ、実際にゲームの世界で戦闘を体験した彼女とは違って、俺はその様子をゲームの画面で見ていただけなのだから。


 そう言うわけで女子高校生に聞き返した俺だった。しかし、女子高校生はうろたえながらあやふやに答えるのだった。


「どんなしうちって。おじさんもゲームやってたんだからわかるでしょう」

「そう言われても、ゲーム画面で俺が見たのは女剣士とスライムが接触して、やられモーションになった女剣士が点滅しているところだけだからなあ。それでヒットポイントが減っていってゲームオーバーになっちゃったんだけど。具体的には女剣士はどんなめにあったの」


 スペシャルファミコン時代におけるアクションもののダメージ表現としては、さして珍しいものではない。プレイヤーの操作する味方キャラクターと敵が接触したりすると、ダメージを受けたことをプレーヤーに知らせる効果音が鳴る。そして味方キャラクターがダメージを受けているグラフィックとなってチカチカ点滅し、ヒットポイントが減ると言うよくあるタイプのやつだ。


 さて、俺がゲーム画面で見ていた女剣士がスライムにやられる様子はそんな感じだった。しかし、実際にゲームの世界に召喚されたこの女子高校生は、いったいどんな体験をしたんだと言うのだろう。俺がゲーム画面で見ていたのと同じように、この女子高校生もチカチカ光ったりしていたんだろうか。


 いや、そんなことはないだろう。俺がこの部屋でテレビ画面に向かってプレイしていた『マジカルアタッカー』と、女子高校生が召喚されて現実に体験した『マジカルアタッカー』とは、その内容に違いがあるようだった。やはりこの女子高校生の方が実際に召喚されている分、その体験もいろいろ具体的なようである。


 となると、ゲームの世界では女剣士をやっているこの女子高校生は、スライムにやられた時も具体的な体験を実際にその体で味わったはずである。さて、スライムが女剣士をなぶり殺しにしたとなると、どんなことがおこなわれたと言うのだろう。


「ねえ、教えてよ。そちらさんは実際にゲームの世界に召喚されてスライムと戦ったんだから、具体的にスライムに何かされちゃったんでしょう。だから、俺に対してあんなに怒っていたんじゃないの」


 俺はそう女子高校生にたたみかける。そしたら、女子高校生はあたふたしながら返事をするのだった。


「そ、そんなことはどうでもいいんです。今の時点で大事なことは、おじさんがもっとこの『マジカルアタッカー』のプレイが上手くなることなんです。そうなってもらわないと、あたしが次に召喚されたときに、また同じ結果になっちゃうじゃないですか」


 女子高校生はそう言ってくる。だが、俺には少し気になる点があった。


「次? 次に召喚されるって、なんでわかるの? そもそも、スライムにやられたそちらさんが、なんで俺の部屋の前にいたの? と言うより、男の魔法使いをプレイしているのが俺だってなんでわかったの」


 そうやって俺は女子高生に質問をあびせかけた。すると、女子高校生は、ちっちっちっと右手の人差し指を振って、俺に『くだらない質問をしますねえ、おじさん』とでも言いたげな様子で俺の質問に答えるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る