六日目
第42話すき焼きを作ろうとする女子高校生
「はい、おじさん。来てあげましたよ」
そう言って女子高校生が俺の部屋に入ってくる。そんな女子高校生が俺の部屋に配達された段ボール箱を見つけたようで、俺に口やかましく言ってくる。
「ああ、おじさん。調理用具一式の宅配便受け取って置いてくれたんですね。それならそうとメールぐらいしてくれたらよかったのに。毎日毎日おやすみとおはようメールだけじゃあ味気ないですよ。で、今日の夕飯ですが、昨日話題になったすき焼きにしようと思いまして。関東風と関西風、両方の準備をしましたから食べ比べといきましょうじゃないですか……おじさん、どうしたんですか。テレビにかじりつきっぱなしになっちゃって。部屋の明かりもつけないで。おーい、今夜はすき焼きですよ」
「しばらくはあかりをつけないままにしておいてくれる。急に部屋が明るくなると、『マジカルアタッカー』がプレイしづらくなる」
そんな軽口を言う女子高校生に部屋を暗くしたままでおくよう頼むと、俺は『マジカルアタッカー』を練習モードをプレイし続けている。おっと、輪郭女剣士がスライムを倒した。俺は机の上に開いてあるノートのトライとクリアの正の字の欄に一本ずつ直線を加えていった。すると、女子高校生が座りながらスペシャルファミコンのコントローラーを握っている俺に近づいてきて、立ったまま俺に話しかけてくる。
「ああ、切りのいいところまでプレイしておこうってことだったんですか、おじさん。昨日あたしが部屋に来た時にステータス画面出して中断してたから、なんだかリザルトの数字がごちゃごちゃしちゃいましたもんね。でも、あたしが部屋に入ってきたからって、動揺せずにスライムを倒せるなんて腕をあげましたねえ。じゃあ、ひと段落したところで、すき焼き作り始めちゃいますね。おじさんは一休みしていてください。すき焼きをつつきながら今回の練習結果の評価としましょうか」
「え? すき焼き?」
「そうですよ、さっき言ったじゃないですか、おじさん。聞いてなかったんですか。ま、それだけ『マジカルアタッカー』に集中していたということにしてあげましょう。ほら、材料だって買ってきたんですから」
夕飯のメニューを聞き返す俺に女子高校生は台所の方を指差してみせる。そこには食べ物でいっぱいになったショッピングバックが置いてある。
「それでは調理開始と行きますね、おじさん」
「ちょっと確認したいことがあるんだけど」
「なんですか、おじさん。関東風か関西風かということでしたら両方作ってあげますけど」
「そういうことじゃなくてね。そちらさんが『マジカルアタッカー』の世界に召喚されるのは夕方六時だって言ってたよね。だったら、俺は夕方六時にスペシャルファミコンの電源スイッチをいれればいいの。それとも夕方六時にタイトル画面で『ニューゲーム』を選択すればいいの。それとも、他のことにタイミングを合わせるべきなの」
俺の質問に、女子高校生はとまどっているようだった。
「あ、ああ、それもそうですね。たしかにそこのところ微妙ですね。えっと、神様はなんて言ってたっけな」
「じゃあ、そちらさんはどのタイミングで『マジカルアタッカー』の世界に召喚されたの。初日に言っていたような気もするけど、正直適当に聞き流していたから覚えていないんだ。ねえ、どのタイミングで召喚されたの」
「そ、それは、あたしがタイトル画面で『ニューゲーム』を選択したタイミングだったと思いますけど」
「それじゃあ、明日は電話の夕方六時の時報に合わせて俺もタイトル画面で『ニューゲーム』を選択するよ。それでそちらさんが『マジカルアタッカー』の世界に召喚されると考えていいんだね。輪郭女剣士じゃなくて、ちゃんとしたグラフィックの女剣士といっしょに俺の操作する魔法使いがスライムと戦うと」
「そうなると思いますけど、おじさん」
女子高校生に明日の夕方六字きっかりに何をするべきか確認すると、俺はリザルト画面を表示させる。夕飯を食べながら練習の反省会をするとか女子高校生は言っていた。しかし女子高校生は俺が表示させたリザルト画面を、黙ってのぞきこんでくる。何か俺の様子にただならぬものを感じたらしい。そのリザルト画面にはこんな数字が映し出される。
ステージ1
トライ 441
クリア 208
ミス 138
「と言っても、これは今までの合計だからわかりにくいね。昨日の夕方から今までの結果はそのノートに書いてあるから。ええと、正の字を合計すると……」
俺がそう言いながら数字を書き込んだノートに、女子高校生は目を向けた。そのノートにはこう記録されている。
トライ 正正正正正 正正正正正
正正正正正 正正正正正
正正正正一 121
クリア 正正正正正 正正正正正
正正正正正 正下 83
ミス 正正正正正 正正下 38
「へえ、これはこれは。昨日のていたらくがうそのようですねえ、おじさん。成功率が三分の二くらいじゃないですか」
そう感心する女子高校生である。
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