第22話女子高校生にセクハラされる俺

 俺に妙なことを言いながら迫り寄ってくる女子高校生である。そんなことをしていると、ゲーム画面の輪郭女剣士のヒットポイントがゼロになった。


「あーあ、おじさんの魔法使いの操作が下手くそだから、輪郭女剣士ちゃんスライムにやられちゃいましたねえ。『マジカルアタッカー』の世界では、ヒットポイントがゼロというのはどういう状態なんでしょう。死んでたり意識不明だったりなら、ゲームの中の話だから法律的には問題ないでしょう」

「そうじゃなかったら……」


 女子高校生が残念がりながら『マジカルアタッカー』の世界の設定についてああだこうだ言っている。俺はそれについ相づちを打ってしまう。すると、女子高校生が嬉々として応じてくるのだ。


「そうじゃなかったら、戦闘不能だけどイベントシーンでの行動はできるというパターンでしょうねえ、おじさん。意識は当然ある。ですけど戦闘はできない輪郭女剣士。そしてダメージをろくに受けずにピンピンしているスライム。ああ、当然おじさんの操作する魔法使いもヒットポイントはゼロでしょうが意識はあると考えていいでしょうね。少なくとも、輪郭女剣士と魔法使いは同じ『マジカルアタッカー』のキャラクターなんですよ、おじさん。ですからヒットポイントがゼロになって魔法使いは意識不明なのに、輪郭女剣士は意識があるということはないと思います」

「なにが言いたいのかな」


 俺が苦虫をかみつぶしたような表情をしていると、女子高校生はくすくす笑いながら俺に言ってくる。


「ふがいなくもあっさりやられてしまったおじさんの操作する魔法使い。ですけど魔法使いの意識ははっきりしている。その魔法使いのまなざしに映る光景は自分の相棒である女剣士がたった一人でスライムと戦っている姿。しかし善戦むなしくスライムに倒されてしまう女剣士。魔法使い同様に女剣士の意識はしっかりしているものの反撃はできそうにない。あわれ、女剣士の運命やいかに。それを見ていることしかできない魔法使い、ああなんと情けないことなのでしょう」

「俺の操作が下手くそなせいですね。どうもすいませんでした」

「いやあ、おじさん。ゲームの『マジカルアタッカー』だとテレビ画面にゲームオーバーと表示されておしまいですけど、こうして女剣士と魔法使いのヒットポイントがゼロになったらその二人はどうなるのか考えてみるとゾクゾクしませんか」

「たしか、女剣士は『マジカルアタッカー』の世界の神様に会っていたんじゃあなかったんだっけ。そこでスペシャルファミコンでの『マジカルアタッカー』の操作方法を神様にお触った教わったと俺は聞いたけど」

「あたしの女剣士のヒットポイントがゼロになったら、すぐに神様の世界に召喚されたってあたし言いましたっけ、おじさん」


 そう言われても、この女子高校生の話したことを一言一句覚えているわけではない。仮にボイスレコーダーかなにかでこの女子高校生が『スライムにヒットポイントをゼロにされたら、すぐに神様の世界に召喚されていました』なんて言ったところを録音していて、それをいまここでこの女子高校生に聞かせたとしよう。


 だが、『ヒットポイントがゼロにされるまではスライムにいいようにされたんだもん。多少の記憶の混乱はしかたないんだもん。被害者である女剣士、つまりあたしの証言だけでは証拠としては不十分なんだもん。それとも、物的証拠でもあるっていうの、おじさん』なんて女子高校生に言われてもかなわない。ここは話をそらすに限る。


「そんなことよりも、俺にトレーニングしてよ。俺の『マジカルアタッカー』の操作が上達しないと、結局俺が操作する魔法使いがあっさりヒットポイントをゼロにしちゃって、そちらさんはまたスライムにいいようにされちゃうんだよ。それでもいいの」

「それもそうですね、おじさん。コントローラー貸してください」


 俺が話をポルノ方面からそらそうとしたら、あっさりそれに乗ってくる女子高校生である。いいかげん俺へのセクシャルハラスメントに飽きたのかもしれない。


 で、俺が握っていたコントローラーを奪いとった女子高校生は、魔法使いも輪郭女剣士もヒットポイントをゼロにされて『リトライ?』と表示されているテレビの画面から、コントローラーのBボタンを押してタイトル画面に戻した。


「おや、リザルト表示がありませんね。おじさん、今回はリザルト画面見てないんですか。まあ、いちいち成功率だななんだのを気にしすぎるのもよくないでしょうし、気にすることもないでしょう」


 そんなことを言いながら上X下BLYRAと入力してリザルトとタイトル画面に表示させると、そのリザルトを選択してリザルト画面を映し出す女子高校生である。


 そのリザルト画面にはこう表示された。


 ステージ1

 トライ 183

 クリア  76

  ミス  23


 その数字をなにやら難しい顔をして見つめている女子高校生である。なんだかテストの回答用紙を親に見せている小学生のころを思い出す。しかし、この数字がいいのか悪いのかよくわからないのが問題といえば問題であるのだが。

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