三日目

第21話女子高校生に邪推される俺

「はい、おじさん。来てあげましたよ。さぼってはいませんでしたか。昨日久しぶりに体を動かしたんで筋肉痛になったりしていませんか。おや、あいかわらず部屋が真っ暗ですねえ。スイッチオンと」


 俺の部屋に女子高校生がやってきて二日後である。あいもかわらず夕方の六時である。女子高校生が部屋の明かりをつけたので、窓からよく見えていた街灯のあかりが見にくくなってしまった。仕事も首になりやることといえば『マジカルアタッカー』の練習くらい。曜日の感覚がなくなりそうである。


「見ての通りだよ。今もこうして練習しているところだ。とりあえず筋肉痛はないよ」


 俺はスペシャルファミコンのコントローラーを握りながら、部屋に入ってきた女子高校生に振り向いて答える。すると、振り向いた俺に女子高校生がなにやら言ってくる。


「筋肉痛がないのはいいんですけどね、おじさん。プレイ中によそ見しちゃっていいんですか。それとも、画面を見ずにクリアできるまでになったんですか。昔のゲームだと敵の攻撃パターンが決まっていたから操作タイミングが完璧だったらそんな芸当もできるみたいですけど、だとしたらたいした進歩ですねえ」

「とてもじゃないけど、そんなまねは俺にできそうもないよ。今はちょうど俺の操作する魔法使いのヒットポイントがゼロになったんで、輪郭女剣士に一人でスライムと戦ってもらっていたところなの。だから、俺はなにも操作しなくていいの」

「へえ、そうだったんですか、おじさん。とりあえず、となりに座らせてもらいますね。ああ、あたしのマイ座布団使いますよ。おじさん、あたしの座布団で変なことしたりしてませんよね」


 そう俺が今の状況を説明すると、女子高校生がニヤニヤ笑いながら俺の隣に座ってくる。で、『このエロオヤジが』なんて感じで俺に話しかけてくるのだ。


「へええ、おじさんはあたしの女剣士がスライムにされるがままになっているところを一人でじっくり鑑賞していたんですか。それはお楽しみをお邪魔して申し訳ありませんでした」

「この女剣士はオート操作の輪郭女剣士だ。そちらさんが『マジカルアタッカー』の世界に召喚されて戦っているわけじゃない。それに、べつにスライムにされるがままになっているだけじゃないぞ。輪郭女剣士だってスライムを攻撃しているじゃないか。たしかに輪郭女剣士も点滅しているからダメージを受けているだろうが、スライムだって点滅しているぞ。これは輪郭女剣士もスライムにダメージを与えていると言うことじゃないのか」


 俺がゲーム画面をいやらしい思いで見ていたかのような女子高校生の言い草だが、ここは断固として否定しなければならないだろう。


「だいたい、そちらさんが初めて俺の部屋に来た時に、『スライムになすすべもなくやられました』みたいな感じで俺を責め立てたから、俺は魔法使いがやられて女剣士が一人だけになったら、攻撃できなくなると思い込んでしまったんだ。見ろ、輪郭女剣士は立派にスライムと戦っているじゃないか」

「へえ、まるでおおげさに騒ぎ立てたあたしが悪いと言っているみたいですねえ、おじさん。その言い方だと、『マジカルアタッカー』の世界に召喚されたあたしがスライムにひどい目にあわされたことに、おじさんは自分が責任を感じる必要はないと思っているように受け取れるんですが」


 俺は自分がすけべな気持ちにはなっていなかったと言うことを主張したつもりだったのだが、どうも女子高校生のかんにさわったみたいだ。女子高校生が冷ややかな視線で俺を見てくる。


「おじさんは自分の操作する魔法使いを、スライムの攻撃につっこませた。そして、あっという間に魔法使いのヒットポイントをゼロにしてしまった。結果、戦闘直後にひとりきりになった『マジカルアタッカー』の世界に召喚されたばかりのあたしは気が動転して、スライムになすすべもなくやられ放題だった。それでも、おじさんは自分に非がないとおっしゃるんですか」


 女子高校生が冷たい目をしたまま、俺の初めての『マジカルアタッカー』プレイのていたらくを最初から最後まで説明してくる。怒っているのだろうか。『スライムにはずかしい仕打ちをされた。おじさんが責任取るように』なんて言われたらどうしよう。責任といってもどうすれば……


 そんなふうに俺が思い悩んでいると、女子高校生はとたんに雰囲気を明るくして俺に軽口を言ってくる。


「ま、おじさんが見ているのはゲーム画面のドット絵ですからね。具体的にどんなことがされているのかわからないのもしょうがないでしょう。女剣士はいやらしいことをスライムにされているのかもしれないし、されていないのかもしれない」


 なんだ、女子高校生はやっぱり俺をからかっていただけなのか。どうせ冷たい目をしていたのも演技だったんだ。


「女剣士がスライムにダメージを与えていないからって、スライムにいやらしいことをされていたとは言い切れません。ただスライムに攻撃されていただけの可能性もあります。それはそれでおじさんが有罪だと言えなくもないですが、それはともかく。でも、今ゲーム画面で輪郭女剣士とスライムがお互いにダメージを与えあっているからと言って、スライムにいやらしいことをされていないとも言い切れませんよ、おじさん。輪郭女剣士は、スライムに身動きを封じれれ、必死で抵抗するもいやらしいことをされているのかもしれませんよ」


 だんだん説明する女子高校生の様子が興奮してきている。なにをそんなに興奮しているんだ。


「『マジカルアタッカー』の戦闘画面ではダメージ量は表示されてませんからね。スライムに輪郭女剣士が与えているダメージがちょびっとで、輪郭女剣士はスライムに大ダメージを与えられているかもしれないんですよ、おじさん。どうですか、最後の力をふりしぼってスライムに反撃しようとするも、力及ばずスライムにされるがままの女剣士。こういうの好きなんじゃないですかねえ、おじさん」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る