第39話練習の成果を女子高校生に見せる俺
「じゃあ、おじさん。トライ回数が半分になるくらいに一回あたりのプレイ時間が長くなる理由となった、その魔法使い一人だけでのスライムの攻撃のよけっぷりをこの目で見せてもらおうじゃありませんか。さぞや長いことよけ続けていられるんでしょうねえ。クリアとミスの比率はだいたい半々で、ミスにも先におじさんの操作する魔法使いがやられて、そのあと輪郭女剣士もやられるパターンがあるでしょうから、ちょっとやそっとよけていられるだけじゃあプレイ時間が同じくらいでもトライ回数が半分になっちゃうとは思えませんけど。ざっと見積もって四回のトライをして一回の魔法使い一人だけでのよけ続けってところでしょうからね」
「見せるのは構わないけど、それには輪郭女剣士のヒットポイントを先にゼロにさせなきゃいけないよ。輪郭女剣士に回復魔法をかけずにほったらかしにしておくのが手っ取り早いと思うけど、横でごちゃごちゃ言わないでよ。『あたしの女剣士に何するのよ』とか、『これがフルボイスだったらえらいことですね』とか」
普通にプレイしていたら、輪郭女剣士のヒットポイントが先にゼロになることは女子高校生が言う通りそうひんぱんに起こることではない。となると、今すぐに魔法使い一人でのよけ続けを女子高校生に見せようと思ったら、輪郭女剣士を見殺しにするようなことになるのだろう。しかし、そんなことをしたらこの女子高校生は俺の隣で何を言ってくるか……
「ふむ、おじさんのいうことにも一理ありますね。いいでしょう、今回だけおじさんが輪郭女剣士に回復魔法をかけずにほうっておくことを許可しましょう。今回だけ、それも輪郭女剣士だから許可するんですからね。あたしが『マジカルアタッカー』の世界に召喚されてスライムと戦っているときにそんなことしたら、承知しませんからね。『つい癖になっちゃって、うっかり回復魔法をかけ忘れちゃったよ』なんて言い訳はダメですからね」
「わかったよ。それじゃあ今回だけってことで。じゃあ始めるからね」
俺はそう言うと、ノートを机の上に置いた。そしてリザルト画面からタイトル画面に戻り、スライムとの戦闘の練習を開始する。と言っても、することと言えば魔法使いにスライムの攻撃をよけさせ続ける事だけなのだが。
ズルズル
俺の耳元でなにか麺類をすすっているような音がする。味方へのダメージ音だとかフルボイスだとか考えなくても、俺の隣で何が行われているかは簡単にわかる。女子高校生が焼うどんをすすっている。たしかに夕飯にしながら俺の練習結果について話そうなんて言っていたが、何も俺が『マジカルアタッカー』を操作しているすぐ隣ですすらなくてもいいだろう。
すすり音が盛大なので、音だけで焼うどんをすすっているとわかり、よそ見をする必要がなかったのはさいわいだが。
そうこうしていると輪郭女剣士のヒットポイントがゼロになった。後はひたすらよけ続けるだけだ。そう思っていると女子高校生が隣から話しかけてくる。
「おっと、輪郭女剣士がやられましたね、おじさん。これからが本番ですね。ところで、おじさんも焼うどん食べますか? おいしいですよ。なんなら食べさせてあげますけど」
「おねがいだから横でみょうなちょっかいかけないでくれ。だいたい、そちらさんが食べさせてくれることを差し引いても、焼うどんがアクションゲームプレイ中の食事に適しているとは思えない」
「つれないですねえ、おじさん。せっかくすりごまとかつおぶしもかけてあげたのに」
「そんなものをゲームプレイ中の人間に食べさせるものじゃあありません」
「なるほど。そのうえでのサンドイッチのリクエストでしたか。それには気付かず、焼うどんなんて作ってしまって配慮が足りませんでした」
「とりあえず、魔法使いの操作に集中させてくれないかな」
女子高校生にちょっかいをかけられて、俺の操作する魔法使いはスライムの攻撃をくらってヒットポイントを減らしていく。急いで回復魔法を使うと、女子高校生が急に立ち上がった。
「われながら焼うどんうまくできたなあ。おかわりしちゃおっと。ああ、おじさんのぶんを食べたりはしていませんよ。おじさんの割りばしを使いたくはありませんからね」
なんだかいやみったらしいことを言って女子高校生は台所に向かっていく。少しはおとなしくしていられないのか。
そう心の中でぐちりながらもスライムの攻撃をよけ続ける俺の操作する魔法使いである。パターンがあるかもしれないとはなんとなく気づいていたが、女子高校生に『パターンがある』と断言されたのでよける動きもパターンで対処できる。これなら、長い時間よけ続けていられそうだ。
「へええ、おじさん。ずいぶん上達しましたねえ。これはいいディナーショーになってきました」
隣でやかましいちゃちゃを入れられなければの話だが。
「でも、おじさん。いいんですか、よけるのが上手くなったことはえらいですけど、いつまでもずっとそうしているとあたしが焼うどん全部食べちゃいますよ」
こんな感じで女子高校生が妨害工作をしてくるのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます