第29話女子高校生にサンドイッチを勧められる俺
「それでその、今回のリザルト結果なんですが、そちらさんはどうお考えでしょうか」
このようについ下手に出てしまう俺である。『掃除くらいで筋肉痛になったりしない』なんて二日前には言っておいて、今現在はこのありさまなのだから女子高校生にこんな態度になってしまう。すると、女子高校生はこんな答えを返してきた。
「そうですねえ、掃除くらいでちょっと体を動かして筋肉痛になってゲームの操作に支障をきたすようじゃあ、テクニックうんぬん以前の問題ですね。もう少し体力を何とかしてください、おじさん」
「はい、わかりました」
女子高校生に素直に従うしかない俺である。そんな俺に女子高校生がいろいろ言ってくる。
「とりあえず、その筋肉痛を何とかしませんとね、おじさん。しばらくはむやみに体を動かしちゃだめですからね。そうだ、昨日のおじさんのリクエスト通りにサンドイッチ作ってきましたから、食べながら今後の相談といきましょうよ」
そう言って女子高校生は、かばんからがさごそと取り出したサンドイッチケースを机の上に置いた。あいもかわらず机の上に数枚の一万円札が置きっぱなしになっているが、女子高校生は気にする様子もない。そのかわりに、サンドイッチの具の説明をしだした。
「おじさんの具材のリクエストは玉子とツナとトマトでしたね。玉子は特に注文がなかったので、玉子サラダとゆで卵と目玉焼きの三パターン作ってきました。ツナはマヨネーズ少なめと多めの二パターンですね。トマトは、ベーコンレタストマトと、ベーコンレタストマトのベーコン抜きですけど、これでいいですかね、おじさん」
そう説明しながら、自分が作ってきたサンドイッチを俺に見せてくる女子高校生である。これはおいしそうだ。
一応リクエストはしてみたものの、スーパーで売ってるようなサンドイッチ用食パンに缶詰から取り出したツナを挟んだだけといったものでも持ってくるかなあと半分思っていた。そんなものを作ってきたら、ツナのあぶらでパンがギトギトになり、あまり食欲がすすまないであろうサンドイッチになってしまうことうけあいである。
だが、この女子高校生が作ってきたサンドイッチはそんなひどいサンドイッチではない。まさか、これほどのものを作ってこようとは。
「おや、おじさん。何だか意外そうな顔をしていますねえ。そんなにあたしが作ってきたサンドイッチは想像と違いますか。あたしみたいな女子高校生が作るサンドイッチなんて、たいしたものじゃないと思ってましたか」
くやしいが女子高校生の言う通りである。たいして期待はしていなかった分、予想を裏切られなんだかワクワクしてくる。
「まったく、失礼しちゃいますよ、おじさん。昨日のおにぎりを考えていただければ、あたしの料理の腕前はそれなりのものだって見当がつきそうなものなのに。そういえば、その昨日のおにぎり、どうしましたか。ちゃんと全部食べましたか」
そんなことを俺に聞きながら女子高校生は、部屋中をぐるりと見渡し出す。そして、台所の流し場に洗ってほしてあったおにぎりケースに気づくのだった。
「へええ、あたしの作ったおにぎり、全部食べてくれたようですね、おじさん。それにしてもきちっと使ったあとのケースを洗ってほしておくなんて、なかなか気の利いたことをしてくれるじゃありませんか。そもそも、おじさんみたいなひとり身の中年男の部屋の流し場がこんなにきれいなんて意外ですよ。てっきり、食事に使ったあとの食器が洗われもせずに積み上がっているものと思っていました」
「そもそも食事に食器を使わないからね。部屋を掃除したときに見ただろう、カップラーメンやらコンビニ弁当の空きケースを。俺の食事はあんなものばっかりだからね。食事に食器を使わない。だから洗い場だって汚れようがないのさ」
そんなふうに、洗い場のピカピカさを料理をまったくしないがゆえだと俺が説明すると、女子高校生はこう切り返すのだった。
「ふうん、それはそれは。おじさんに普段しないような洗い物をさせてしまってすいませんでした。でも、そんな洗い物をろくにしないおじさんが、よく使ったあとのおにぎりケースを洗うなんて発想に至りましたねえ。それこそ、ついうっかりいつものくせでゴミ箱にポイしちゃいそうなものなのに」
「いくらなんでもそこまで失礼なまねはしないよ」
そう俺が答えると、女子高校生は感心しながら『マジカルアタッカー』に話を関係づけてきた。
「これなら、『マジカルアタッカー』の練習モード中はリセットボタンを押していても、あたしが『マジカルアタッカー』の世界に召喚されて女剣士として戦っているときはリセットボタンを押しちゃったりしないんじゃないですか、おじさん」
「そうかもしれないけどね。やっぱり万が一ということは起こりうるから、安易なリセットボタンの使用はやらないことにするよ」
「そのほうがいいかもしれませんね、おじさん。ささ、あたしの作ってきたサンドイッチ食べちゃってください。あたしもご一緒しますから」
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