第28話自分はだめと自覚する俺
そのノートに正の字で記録された練習結果を俺は数え上げる。
「ええと、トライが91回で、クリアが25回、ミスが66回か。ひどいもんだなあ。ええと、初日のクリア回数は何回だったけ。ああ、30回か。だめだなあ、初日よりクリア回数が減っているよ」
数え上げた91、25、66と言う回数を、それぞれトライ、クリア、ミスの欄の右下に書き込むと、俺はたった今数字を記入した部分の前の見開きページを開き、初日の結果と比較する。やはり今回のクリア回数は初日のクリア回数よりも少なくなっている。俺は女子高校生にそう告げながら、床に寝転がるのだった。
そんな俺に女子高校生が部屋の床にしいた座布団に座ったまま質問してくる。
「ねえ、おじさん。25たす66は91ですよね。クリア回数とミスの回数をたしたらぴったりトライの回数になりますね」
「そうなるね。簡単なたし算じゃないか」
俺がそう答えると、女子高校生はさらに質問をしてくる。
「今回はスペシャルファミコンのリセットボタン押さなかったんですか、おじさん。ミスの回数が66回と言うことは、66回おじさんの操作する魔法使いと輪郭女剣士が二人ともスライムにやられたって言うことですよねえ」
「そうだよ。91回トライして66回のミスかあ。だめな成功率だなあ。あんまり怒らないでね、さっきも言った通り筋肉痛がひどいんだ」
女子高校生の質問に答えたあとに泣き言を言う俺だったが、そんな俺に女子高校生は怒るわけではなくけげんそうな顔をするのだった。
「いえ、べつにおじさんに怒ってはいませんよ。それより確認していいですか」
「なんだよ、確認って。部屋の掃除でちょっと体を動かしただけで、二日後に筋肉痛に襲われている俺の体のひ弱さでも確認したいの」
「それは確認しなくても十分わかっています。確認したいのはそんなことじゃなくてですね……」
そう言いつつ、女子高校生は俺が正の字を書きとめたノートをしげしげとながめている。ややあって女子高校生は俺に尋ねてきた。
「その、おじさんが『マジカルアタッカー』の練習中に、先におじさんが操作する魔法使いがやられちゃって輪郭女剣士が一人きりになってもリセットボタンを押さなかったと言うのはいいんですが……」
「そりゃあ、練習モードの輪郭女剣士がスライムと戦っているときならともかく、そちらさんが実際に『マジカルアタッカー』の世界に召喚されてスライムと戦っているときに、俺がこの部屋でリセットボタンを押しちゃったら何が起こるかわからないって昨日さんざんおどかされたからね。練習モードの時からリセットボタンを押さないように心がけとかないとね」
女子高校生が『マジカルアタッカー』の世界に召喚されているときだけリセットボタンを押さないように注意していても、ついうっかりということは考えられる。そんなことにならないようにするためには、普段からリセットボタンを押さないように習慣づけておくのが一番だ。
「それで、おじさん。輪郭女剣士のヒットポイントが先にゼロになったときはどうしていたんですか。リセットボタンを押していなかったってことはわかりますけど、おじさんの操作する魔法使いにはスライムを攻撃する手段がないのに、ただスライムの攻撃をよけつづけるというのはなかなかの苦行だと思うんですが
「うん、それなんだけどね、そうやってスライムの攻撃をよけてる時もあったんだけど、スライムを倒す方法がないからねえ。結局、輪郭女剣士が先にスライムにやられたら、俺も魔法使いをスライムにさっさと突っ込ませてヒットポイントをゼロにさせてたよ」
俺がそう返事をすると、女子高校生は何やら考え込み出した。
「そうですか。それがベストかもしれませんね。スライムを倒せないのに、攻撃をずっとよけていろと言うのもなんですしねえ……」
「そうだろ。練習モード中にリセットボタンを押すことがくせになって、そちらさんが『マジカルアタッカー』の世界に召喚されているときに俺がこの部屋でリセットボタンを押して万が一のことがあったら大変だし。少なくとも、最初のプレイでそちらさんが召喚されているときに、俺の操作する魔法使いと女剣士のヒットポイントが両方ともゼロになったじゃん。そしたら、そちらさんはこっちの世界に戻ってきたし、俺はなんともなかったし。だったら、俺の操作する魔法使いがスライムに自分から突っ込んでいくのは仕方がないと思うんだけど。そちらさんは何度も『マジカルアタッカー』の世界に召喚されてスライムと実際に戦うはめになるから申し訳ないとも思うけども……」
「ああ、それはまあ、おじさんがちゃんと練習した上でスライムを倒せなかった場合は、あたしも納得できますけど」
そう女子高校生に言われて俺はホッとする。『そう言ってこれから先何度も何度も、あたしをゲームの世界に召喚させてスライムにいやらしいことさせるんですね、おじさんは』なんて言われたらどうしようかと思っていたのだ。
「なるほどねえ。クリアとミスの合計回数がトライの回数とぴったり同じになっているのにはそんな理由が……」
なにやらそんなことをぶつぶつ言っている女子高校生であった。
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