四日目
第27話筋肉痛に苦しむ俺
「はい、おじさん。今日も来てあげましたよ。就寝報告と起床報告のメールをきちんと送ってきたことは評価してあげましょう。ですけど、それ以外にもなにかしら送ってきてくれても罰は当たらないと思いますけどねえ。師弟関係にはそれなりのコミュニケーションが必要ですよ。もちろんあたしが師匠でおじさんが弟子ですけどね。『マジカルアタッカー』の操作にしろ、フィジカルトレーニングにしろ、メールのやり取りのいろはにしろ……おやどうしました、おじさん、なんだか元気がありませんねえ。部屋が暗いからじゃあないですか。あかりもつけないでいると、気がめいるばかりですよ。それピッと」
上から目線で俺に文句を言いながら部屋の明かりをつける女子高校生だが、俺にはそれに反論する元気もない。暗がりの中、急に部屋のあかりをつけられたので、日陰を好んで石の下に隠れていたのに、その隠れていた石を子供に持ち上げられて太陽の光にさらされた虫の気分だ。今日の朝起きたら体中がズキズキしていた。昨日はそんなことなかったのに。部屋を掃除したくらいで筋肉痛になんてなるもんかと思っていたのに。
「全身が痛い。たぶん筋肉痛だ。二日目に来た」
「ああ、そういうことですか。年のせいもあるでしょうし、運動不足のせいでもあるんじゃないですか、おじさん。やっぱりあたしが言った通りでしたね。と言いたいところですが、まさかこんなことになるとは思っていませんでした。おじさんに部屋を掃除させた翌日は平気そうだったのに、今日になってこんなみっともない姿をあたしにさらすとはねえ……」
くやしいが、女子高校生がそんな感想をいだくのももっともだ。
「あれ、でも、そんなふうに筋肉痛に苦しんでるというのに、『マジカルアタッカー』の練習をやっているみたいですね、おじさん」
女子高校生が言う通り、俺はテレビに向かってスペシャルファミコンのコントローラーを握りながら『マジカルアタッカー』をプレイしていた。さぼったりなんかしたら女子高校生に何をされるかわかったものじゃない。
だが、体のふしぶしの痛みのせいで、どうにも操作がおぼつかない。ああ、輪郭女剣士がやられてしまった。一応、俺の操作する魔法使いのヒットポイントはゼロになっていないが、もうコントローラーで魔法使いを動かす気にもなれない。そんな俺は女子高校生に弱音をはくのだった。
「うん、練習はしていたんだけどね、ちっともはかどらないんだ。ほら、今回も輪郭女剣士のヒットポイントがゼロになっちゃったよ。ごめんね。俺が情けないばかりに、今日はそちらさんの女剣士をひどい目にばっかり合わせているんだ」
「まあ、輪郭女剣士はあたしじゃあありませんけども、おじさん」
実際のところ、女子高校生の言うように輪郭女剣士は『マジカルアタッカー』の世界に召喚された女子高校生ではない。それは俺もわかっているし、昨日はそれを根拠に女子高校生の『あっ、おじさん、輪郭女剣士がスライムにやられちゃいましたよ。今まさに女剣士のあたしスライムにされるがままになっちゃうんですよ』なんて発言を否定したりしていた。
しかし、筋肉痛に苦しんでいるとなんだか弱気になってくる。輪郭女剣士がやられることは女子高校生がやられることではないと頭ではわかってはいても、何度も輪郭女剣士がスライムにヒットポイントをゼロにされるゲーム画面を見ていると、女子高校生に申し訳なくなってくる。なんでこんな俺が女子高校生の相棒なんだろう
「元気だしてくださいよ、おじさん。ちょっとリザルト画面を拝見させてくださいね、おじさん」
「いいよ、はい、コントローラー」
そう言って俺はスペシャルファミコンのコントローラーを女子高校生に手渡した。いつのまにか魔法使いのヒットポイントもスライムにゼロにされている。で、女子高校生は『リトライ?』と表示された画面からタイトル画面に戻り、上X下BLYRAと入力してリザルトの選択肢を出現させると、リザルト画面を表示させた。リザルト画面にはこんな数字がしめされた。
ステージ1
トライ 274
クリア 101
ミス 89
「だけど、こっちのほうが見やすいんじゃあないかな。はい、ノート」
俺はそう言いながら女子高校生にノートを見せる。昨日女子高校生に手渡されたリザルト画面の数字を記録したノートだ。昨夜女子高校生が俺の部屋から帰って行いったあとに俺はそのノートをパラパラめくってみた。だが、最初のノートの見開きに、
トライ 183 91 92
クリア 76 30 46
ミス 23 0 23
と記録されている以外は、ノートには何も書かれていなかった。
女子高校生はわざわざ未使用品のノートを用意してきたようだった。そこまでされるとこちらとしても、きちっと練習の結果を記録しておこうという気になる。というわけで、昨日までの俺の特訓の内容が書き込まれた最初の見開きの次の、二つ目の見開きに俺は一回一回練習モードでスライムと戦うたびにその結果を記録していった。
具体的に言うと、まずトライとクリアとミスの欄を左のページに三分割して作っておく。そして、練習の結果を正の字で記録していく。スライムを倒せたらトライとクリアの欄に正の字を一画ずつしるしていく。スライムに倒されたらトライとミスの欄に正の字を一画ずつしるしていく。
こうして、ノートに正の字を書きこんでいったのだ。で、その正の字を書き込んでいった結果がこのノートのページである。ひどい筋肉痛に襲われていたので、正の字はミミズがのたうち回っているようである。
トライ 正正正正正 正正正正正
正正正正正 正正正一
クリア 正正正正正
ミス 正正正正正 正正正正正
正正正一
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