第24話女子高校生に一言付け加えられる俺

 女子高校生が言う通り、ミスの回数が23回と言うのは悪いことではないのだ。そんなことを考えている俺に、女子高校生がささやいてくる。


「おじさん、鼻の穴がふくらんでいますよ。ずいぶん得意げですねえ」


 心の中の興奮が、ついつい顔に出てしまっていたようだ。俺はあわてて鼻をゴシゴシとこする。そんな俺を生暖かい目で見守りながら女子高校生が言ってくる。


「その様子だと、『ミスの回数が23回なのは、リセットボタンを押さなくなったからなんだよ。ゲームの操作がへたになったわけじゃない。むしろゲームに真剣に取り組むようになった証拠なんだ』とでも言いたいようですね、おじさん」


 俺の心情をズバズバ言い当ててくる女子高校生だ。女子高校生の勘が鋭いのか。それとも俺が単純なのか。そう俺はどぎまぎしているが、女子高校生は話を続けてくる。


「たしかにリセットボタンを押さなくなったことはいいことかもしれませんがね、おじさん。たとえば、おじさんの操作する魔法使いのヒットポイントが先にゼロになってしまいました。輪郭女剣士は単身スライムと戦っていますが、おじさんがスペシャルファミコンのコントローラーでできることはありません。そんなおじさんがゲーム画面を見ながら輪郭女剣士を応援していたと言うのなら、それもいいでしょう。ですけども、そのあいだおじさんはなにかほかのことをしていたと言う可能性も否定できませんからねえ」


 そのとおりだ。リザルト画面の数字だけでは、俺がずっとテレビの前でスペシャルファミコンのコントローラーを握っていたことの証明にならない。


「それはそれでかまいませんけどね、おじさん。おじさんだって現実世界で生きている人間なんですから、生理現象の一つや二つあるでしょうし。別にオムツ履いて二十四時間『マジカルアタッカー』の練習をし続けろなんて言いませんよ」


 ことごとく昨夜の俺の行動を言い当ててくる女子高校生だ。事実、俺は先に自分が操作する魔法使いにヒットポイントがゼロになったら、そのあとをオート操作の輪郭女剣士にまかせてトイレに行ったりしたこともあった。全部が全部そうではなく、輪郭女剣士がゲーム画面でスライムと戦っている様子をテレビで見守ってもいた。と言うよりそちらの場合の方が多かったはずだ。


 そんなことを心の中で思ってはいても口には出せないでいた俺を、女子高校生ははげましてくる。


「けれどもですねえ、重要なところはそこじゃあないんですねえ、おじさん。あたし、言いましたよね。ミスが23回と言う点が一番ほめてあげたい点だって。リセットボタンを押さなくなったことが、一番ほめられることだと思いますか。リセットボタンを押していないからって、何か他のことをしていた可能性もあると言うのに」

「いや、思いません」


 女子高校生の言うことも一理ある。ではなにが一番ほめられる点なんだろう。


「いいですか、おじさん。リセットボタンを押さなくなったと言うことは、プレイ時間がその分長くなったと考えられます。途中での中断をしなくなったわけですからね。となると、トライした回数は91回と92回で同じくらいでも、今回の方がそれにかかった時間は長かったと結論できますねえ、おじさん」


 言われてみればそうだ。正直言って、曜日の感覚どころか時間の感覚もあやふやになってきたので、『マジカルアタッカー』のプレイ時間がどのくらいか自覚していなかった。しかし女子高校生の言う通りならば、プレイ時間が長くなっていることはたしかかもしれない。


「当然、プレイ時間が長くなったイコールほめられると言うことではありませんよ、おじさん。だらだら長時間してたって意味はないとも言えますしね。ですけど成功率も半分半分と向上していますしね。特訓の質も悪くないと判断していいでしょう。量が増え、質も維持しているとなれば、これは賞賛に値すると言ってもいいでしょう」


 ノルマに厳しいいやな上司だと思っていた女子高校生が、今度は凄腕のコーチに見えてきた。この女子高校生は何者なんだろう。


「ですが、今回もクリア回数とミスの回数の合計がトライ回数に足りませんねえ。92引く46引く23ですから……23ですね。ミスの回数と同じ回数ですが、これはおじさんがリセットボタンを押した回数と推測できます」


 それもそうか。トライしたのにクリアもミスもしてないとなると、リセットしたことになるなあ。俺がぼんやりそんなことを思っていると、女子高校生が俺を注意してくる。


「おじさん、自分の操作する魔法使いのヒットポイントが輪郭女剣士より先にゼロになってもリセットボタンを押さなくなったみたいですね。ですけど、輪郭女剣士がおじさんの操作する魔法使いより先にスライムに倒されたら、リセットボタンを押していたんじゃあないですか。どうせもうスライムは倒せっこないなんて考えて」


 女子高校生の言う通りである。俺は輪郭女剣士のヒットポイントがゼロになると、さっさとリセットボタンを押してやりなおしていた。


「練習モードならともかく、実際にあたしが『マジカルアタッカー』の世界に召喚されているときに、女剣士のあたしが先にやられちゃったからって、おじさんがこの部屋でリセットボタンを押したらあたしはどうなるんでしょうねえ」


 なるほど、実際に女子高校生が『マジカルアタッカー』の世界に召喚されているときのことも想定しておいた方がいいな。女子高校生が召喚された『マジカルアタッカー』の世界と、この世界の俺がスペシャルファミコンのコントローラーでプレイしている『マジカルアタッカー』は違うようで同じなのだから。


 そういえば、女子高校生に生理現象と言われて気になったことがある。


「ねえ、現実世界の俺に生理現象があるのは当然だけどさ、『マジカルアタッカー』の世界に召喚されたとき、女剣士はそのへんどうなってるの。ゲームだとそのあたりはぼやかされているパターンもけっこうあるよね。食事やらなにやらいっさいしない主人公とか」


 そう言った俺を、女子高校生は冷ややかな目で見つめるのだった。


「おじさん、セクハラです。なんですか、『トイレはどうしてるの。戦闘中はオムツしてる

の。ゲーム世界でもそのあたり再現されているの』みたいなこと聞いちゃって」


 さんざんスライムに無理やり手込めにされる女剣士は俺の性癖のストライクかどうかねちっこく聞いてきたくせに、なにがセクハラなんだろうか。

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