第23話女子高校生に数字で説明される俺

「なかなか悪くないみたいですね、おじさん」


 どうやらしかられるパターンではなかったようだ。とりあえず一安心する俺である。


 そんなふうに肩をなでおろしておる俺を見ながら、女子高校生は持ってきていたかばんから筆箱とノートを取り出した。そして筆箱からボールペンを取り出すと、ノートに何やら書き始める。その様子をじっとながめていた俺だったが、何かノートに書き終えた女子高校生に、そのノートを見せられるのだった。そこにはこう書かれている。


 トライ 183 91 92

 クリア  76 30 46

  ミス  23  0 23


 ふむ、左の数字は、いまリザルト画面に表示されている数字だろう。その右にある真ん中の数字は、昨日俺が女子高校生と見たリザルト画面の数字だ。女子高校生は昨日の数字を覚えていたのだろうか。それともどこかにメモっておいたのだろうか。どちらにしろてぎわがいい。少なくとも俺が高校生の頃はこんな気のきいたまねはできなかっただろう。


 で、ノートに書かれた左の数字から真ん中の数字を引いたものが右の数字らしい。左の数字はリザルト画面の数字で、いままで俺が練習モードでプレイした回数全部。そして真ん中の数字は昨日リザルト画面に表示されていた数字だから、二日前俺の部屋を女子高校生が出て行ってから昨日の夕方に俺の部屋に女子高校生が来るまで、俺が練習していた時の回数となる。


 そして左の数字から真ん中の数字を引いた右の数字は、昨日俺の部屋を女子高校生が出て行ってから今まで、俺が練習していた時の回数になるわけか。


「この数字の意味はわかるみたいですね、おじさん。なら話は早いです」


 そう言いながら女子高校生は、自分がノートに書いた数字を指差しながら俺の練習モードの結果を評価しだすのだった。さっきは親みたいだった女子高校生が、今度はノルマと実際の結果を比較する上司に見えてくる。俺もゲームの攻略本でパラメータとかの数字を見るのはけっこう好きなのだが、こうしてゲームのプレイ結果を他人にああだこうだ言われるのは初めてである。どんな気分になるのだろう。


「まず、トライ回数ですね。初回が91回で次が92回。回数としては同じくらいですね。偉いですよ、おじさん。はりきっていたのは最初だけで、次からはちっとも練習しないなんてよくあることですからね。実にりっぱです」


 ほめられるのは悪い気分ではない。なんだか照れ臭くなってくる。


「つぎはクリア回数ですね。順調に増えているじゃあないですか、おじさん。トライ回数が92でクリア回数が46。ちょうど半分ですね。おじさんが見栄をはって言った成功率が半々という言葉通りになったじゃないですか。有言実行とはなかなかにくいことをしますねえ、おじさん」


 こうもほめちぎられると、なんだか裏があるような気がしてくる。そんな俺の内心を知ってか知らずか、女子高校生は俺をほめ続けてくる。


「最後にミスの回数ですね。最初はゼロだったのが23に増えていますね。あたしが一番ほめたいのはこれですね。いいですよ、おじさん」

「ミスの回数が増えたのにほめられるなんて、なんだか不思議な気分だなあ」

「何言ってるんですか、おじさん。ミスの回数が増えたことがどういうことか、自分でもわかっているんでしょう」


 実は女子高校生の言う通りである。昨日あれだけリザルト画面の数字の意味について女子高校生に説明を受けたのだ。ミスがゼロ回と言うことは、輪郭女剣士がスライムにめちゃくちゃにされるありさまを俺が見たくなかったからにほかならないだのなんだのと。


 それで、昨日女子高校生が俺の部屋を掃除して去っていってから、『マジカルアタッカー』の練習をやりだしたのだが……俺の操作する魔法使いと輪郭女剣士が戦闘不能にならないでスライムを倒す時もあった。それはクリアとしてカウントされたからいいとしよう。


 だが、俺の操作する魔法使いのヒットポイントがゼロになった場合は、そのあともリセットボタンを押さずに、輪郭女剣士がひとりきりでスライムと戦っているところを見ていたのだ。すると、輪郭女剣士が一人でスライムを倒してしまうパターンもあった。これもクリアとしてカウントされているのだろう。


 もちろん、さきほど女子高校生が俺の部屋に入ってきた時のように、俺の操作する魔法使いのヒットポイントがゼロになった後に、結局輪郭女剣士がスライムにやられてしまうパターンもあった。このパターンがミスとしてカウントされているのではないか。


 また、さきに輪郭女剣士のヒットポイントがゼロになり、そのあと俺の操作する魔法使いがスライムに倒されてもミスとしてカウントされると昨日女子高校生は言っていた。


 つまり、ミスの回数がゼロでなくなっていることは、魔法使いか輪郭女剣士のどちらかのヒットポイントがゼロになっても、俺がリセットボタンを押さずにゲームオーバーになるまで『マジカルアタッカー』の戦闘を続けていた場合もあることになるのだ。


 女子高校生は、ほとんど同時に魔法使いと輪郭女剣士のヒットポイントがゼロになってもミスとしてカウントされると言っていた。しかし、昨日とトライの回数がほとんど同じなのに、魔法使いと輪郭女剣士のヒットポイントが同時にゼロになるようなことが、昨日はゼロ回で今日は23回と言うのは不自然だろう。


 というわけで、俺がリセットボタンを押さなくなったであろうことは、女子高校生にもリザルト画面の数字から判断できると言うことだ。


 

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