第30話女子高校生とサンドイッチを食べる俺

「じゃあ、いただくとしようかな。どれにしよう。じゃあ、玉子サラダのやつを」


 そう言いながら俺は玉子サラダのサンドイッチをつまみ上げる。玉子サラダ以外にも具材にレタスや玉ねぎが入っている。よくもまあこれだけてまひまかけたものだ。そんなことを考えながら俺はサンドイッチを口に入れる。


「ど、どうですか、おじさん」


 そう不安げに女子高校生が感想を求めてくる。


「あ、ああ。おいしいよ。どうもありがとう」


 そんな俺の返事に女子高校生は一瞬うれしそうな表情をするが、何かにハッと気づいたようですぐに俺にダメ出しをしてくる。


「なんですか、おじさん。そのなんのひねりもない感想は。女子高校生の手作りサンドイッチですよ。なにか、こう、あるでしょう。『寿命がのびそうだ、ありがたやありがたや』とか、『これで健康な体に戻れること間違いなしだ。なんてお礼を言えばいいのか』とか」

「そんな、魔法の薬をさずけてもらったみたいな感想を求められても……」


 一瞬でもうれしそうな表情をしたんだから、ずっとそのままでいればいいじゃないか。なんでわざわざ俺に文句をつけてくるのか。厳しいコーチにでもなり切っているのか。


「じゃあ、味の感想をもっと具体的に言うものですよ、おじさん」

「そう言われても、俺はグルメ番組のレポーターとかじゃないし……」


 俺の反応は女子高校生のお気に召さなかったらしい。もっと派手なリアクションを期待していたようだ。ご期待にそえなくて申し訳ない。


「ほら、パンにはバターがぬってあって、具材の水分がしみ込まないようになっているんですよ。『おかしいな』とか思ったりしなかったんですか、おじさん。玉子サラダがパンに挟んであるんですよ。ふつう、パンに水分がしみ込んじゃってベシャベシャになっちゃうところですよ」

「そ、そうだね。本当のところ、缶詰から取り出したあぶらでギトギトのツナをそのままパンで挟んであぶらまみれになってとても素手では掴めないようなサンドイッチを持ってこられたらどうしようかと思っていたんだ。ふうん、バターをパンにぬっておくのかあ。それでパンがベシャベシャしてないんだ」


 俺はそのようにどんなサンドイッチを食べさせられるか心配していたと女子高校生に説明した。すると、女子高校生は俺に食ってかかってくる。


「そう思ったなら、そう言わなきゃダメですよ、おじさん。『このサンドイッチ、パンに水分がしみ込んでないね。なにか工夫がしてあるの』みたいに。そうすれば、あたしだって『そうなんですよ、おじさん。実はパンにバターをぬっておきましてね……』と気分良く会話を弾ませることができるんです」


 そう言いながら女子高校生はベーコンレタストマト のサンドイッチをほおばり出した。そして、そのサンドイッチの具材のレタスやトマトにどんな危険があるかどうかを俺に話して聞かせるのだ。


「ほら、おじさん。野菜というのはですね、水分をたっぷりと含んでいるものなんですよ。そんな野菜のレタスやトマトを、カットしただけでそのままパンに挟んじゃったらどうなると思いますか。いくらバターがぬってあると言っても、限度というものがあるんですよ。サンドイッチケースの中でレタスやトマトから水分が染み出してえらいことになってしまうんですから」

「そのサンドイッチはそんなことになっていないみたいだね。よくできてるじゃない。だけど、どんな魔法を仕掛ければそんなふうにうまくサンドイッチを作れるのかな、女剣士さん」


 俺がそう尋ねると、女子高校生は待ってましたとばかりに説明をしだす。


「そう、それですよ、おじさん。そうやってあたしが作ってきたサンドイッチを褒めつつつくりかたをきいてくれればいいんです。それにしても、『どんな魔法を仕掛ければ……』ときましたかあ。そりゃあおじさんは『マジカルアタッカー』の世界では魔法使いなんですから、女剣士のあたしが魔法を使えるかどうかは気になるところでしょうねえ」

「混ぜっ返さないでくれるかな、なんだか恥ずかしくなってくる」

「まあ、いいでしょう、おじさん。女剣士のあたしがどんな魔法を使ったのか教えてあげましょう」

「それはどうも」


 魔法を使う女剣士なんていう設定を女子高校生はいたく気にいったようだ。恥ずかしがって俺を見ながら、自分が女剣士としてどう魔法でサンドイッチを作ったのかを解説してくる。


「まず、トマトはタネの部分を取り出しておきます。この部分は水気がおおくてサンドイッチの具材には向かないんです。そして、レタスといっしょに塩をふっておくんです。そうして一晩置いておけば、水気がなくなってサンドイッチの具材としていい感じになります。で、そのレタスとトマトをベーコンといっしょにパンに挟んで重しを乗せておくんですね。そこにある一万円札みたいに」


 できればそんなたとえは控えてほしいのだが。どうせそんなことをこの女子高校生に言っても聞いてはくれないだろう。そう考えて、俺は女子高校生のサンドイッチについての説明に黙って耳をかたむけることにする。

 

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