第31話女子高校生と食事の内容を相談する俺
「重しを乗せておく理由はですね、そうしないとパンと具材がなじまないから包丁でカットしづらいんですね。おじさんが一万円札に重しを乗せておく理由は知りませんけど」
「特に理由なんてないよ。あったとしても言いたくない」
「なんとなくそう答えるとは思っていましたけどね、おじさん。それで、どうします。次はどれを食べますか」
そう次のサンドイッチを俺にすすめてくる女子高校生である。その気持ちはうれしいのだが……
「いや、もうおなかいっぱいだよ。たしかにサンドイッチはおいしいけどね、この年になるとあんまりたくさんは食べれないんだ。昨日そちらさんが持ってきてくれたおにぎりもね、そっちは一食分のつもりだったかもしれないけど、俺としてはあれで一日三食ぶんになっちゃうんだ」
「そうなんですか、おじさん。筋肉痛で食欲がないとかじゃなくて?」
俺の食事の量に驚いた様子の女子高校生である。その様子を見ると、やはり昨日のおにぎりは女子高校生にとっては一食分のつもりだったらしい。俺が一日かけて食べる量の食事を一回の食事で食べてしまう女子高校生。別にこの女子高校生が特別大食いということではなく、単純に年の差だろう。
そんなふうに俺が年をとったと実感していると、女子高校生がどういうわけか俺に謝ってくる。
「それは、三食おにぎりとは申し訳ないことをしてしまいましたねえ、おじさん。それで筋肉痛治りますか。もっとタンパク質とかとったほうがいいんじゃないですか、筋肉の回復のために」
「いや、三食おにぎりは別に悪くないよ。むしろそのくらいあっさりの食事でちょうどいい。『タンパク質をたくさんとりなさい』と言われてステーキなんて出されても、俺の年老いた胃袋は受け付けられそうにないから」
俺の食の細さを聞いて女子高校生はなにか考え込んでいるようだ。そして、女子高校生は俺に提案してくる。
「じゃあ、おじさんにはどんな食事がちょうどいいんですか。さすがにこれから先ずっと毎回の食事がおにぎりというのは栄養がかたよるかと思いますが」
これから先……どのくらい先なんだろう。俺がそんなふうに考えていると、女子高校生は台所の方に目を向けながらこんなことを提案してきた。
「しょうがないですね。明日からはあたしがそこのキッチンでおじさんに料理作ってあげます。量とかメニューとかはあたしが料理している横でおじさんが指示してください。全然料理をしないというだけあって調理道具もほとんどないですからね。それもあたしが明日持ってきますよ。ああ、おじさんは荷物運びを手伝わなくていいですからね。そんなことをされて筋肉痛を悪化されたらかなわないですし」
そう言いながら女子高校生は台所に向かっていって、なにがあってなにがないかを確認しに行く。なるほど、明日からはこの部屋の台所で女子高校生が料理するようになるのか。そう考えながら女子高校生が台所を見て回っているのをながめている俺である。
「ガスコンロはありますね。おなべもある。インスタントの袋ラーメンくらいは作ってたりしてたんですか、おじさん。けど、包丁もまな板もない。ラーメンの具をにネギを切ったりはしてないようですね。フライパンは……包み紙におおわれたままのものがありますね。持ってきたはいいけど使わずにしまいっぱなしにしていたってところですか。お箸も見当たりませんねえ。どうせコンビニでもらう割り箸で済ませてたんでしょう。おじさん、炊飯器ってありますか」
「ありません」
台所を観察しながら俺のこれまでの食生活を明らかにしていく女子高校生に炊飯器があるかどうか聞かれるが、そんなものあるはずもない。そう俺が返事すると、女子高校生は困ったもんですねえといった顔をしながら何やら言いつつも冷蔵庫のとびらを開くのだった。たしか初めて女子高校生がこの部屋に来た時も冷蔵庫の中身をのぞかれたような……
「あいかわらず冷蔵庫にろくなもの入っていませんねえ、おじさん。一回見たから期待していませんでしたけど、やっぱりひどいですね。あたしに明日どれだけの荷物を運ばせる気なんですか」
そう文句を言いながら冷蔵庫の扉を閉める女子高校生である。
「それじゃあ、おじさん。あたしの作ってきたサンドイッチ一度に全部とは言いませんけど、明日の夕方にあたしが来るまでには全部食べておいてくださいね。食欲なくてもきちんと食べるんですよ。食べないと筋肉痛も治りませんよ。明日あたしがこの部屋に来た時にサンドイッチが残ってたら、おじさんには『マジカルアタッカー』が上手くなる気がないとみなしますからね」
冷蔵庫の扉を閉めると、女子高校生はそう言いながら俺に近づいてくる。
「おじさんが『マジカルアタッカー』が上手くなりたくないということは、あたしが召喚された『マジカルアタッカー』の世界でスライムに好き放題されてもらいたいとおじさんが思っているってことになるんですからね。おじさんはそんなことを思っているんですか」
女子高校生の質問に俺は首を横に振る。
「それならきちんと筋肉痛を治すよう心がけてくださいね、おじさん。そして『マジカルアタッカー』の練習ですけど、やるなとは言いませんがほどほどにしてくださいね。それじゃあ今日のところはあたしは帰りますから、おじさん、お大事に。でも、あたしへのおやすみとおはようのメールは忘れちゃだめですからね」
そう言って女子高校生は俺の部屋を出て行くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます