第55話一週間後に向けて

「ナカおじさん。それで、練習してくれるんですか、してくれないんですか」


 俺の質問には答えずに、女子高校生のソトは逆に俺に尋ねてくる。


「俺が練習するかしないかって、まず俺の質問に女子高校生のソトさんが答えてくれないとなんとも……」


 しどろもどろになる俺に対して、女子高校生のソトが詰め寄ってくる。


「ナカおじさんが、あたしは本当に『マジカルアタッカー』の世界に召喚されて女剣士として戦っているのか、それとも本当は『マジカルアタッカー』の世界に召喚されていなくてナカおじさんをかついでいるだけなのかうたがっているのはわかっています。ですけど、そのどちらかだとしてそれがこれから先のナカおじさんの行動に関係あるんですか」

「……」


 俺が答えあぐねていると、女子高校生のソトがくすくす笑いながらこう言ってきた。


「あたしとしては、あたしが『マジカルアタッカー』の世界に実際に召喚されているにせよしないにせよ、ナカおじさんは『マジカルアタッカー』の練習につきあってくれるとにらんでるんですけどねえ。そうだ、ナカおじさんがまた一週間『マジカルアタッカー』の練習をするって言うんだったら、八日目の明日この部屋に来て一万円札を何枚か置いていきますよ。もうあたらしく非常用バッテリーを買う必要はないですけど、どんな使いみちがありますかねえ」

「ゴーストとの戦いの練習をすればいいんだな」


 俺の決心した言葉に、女子高校生のソトはうれしそうに返事をしてくる。


「ナカおじさんならそう言ってくれると思っていましたよ。『ニューゲーム』のところの“2”を選択しても何も起こりませんからね。『ニューゲーム』はあたしが『マジカルアタッカー』の世界に召喚される時じゃないと選択できませんから。練習したいなら、『プラクティス』のところの“2”を選択してくださいね。それにしても、次はゴーストとの戦闘かあ。あたしはまだ戦っていないけど、どんな戦闘になるんだろうなあ。ナカおじさんがゲームで練習するところを見て予習しておかなきゃあ」


 そんなふうに練習のやりかたを説明する女子高校生のソトに、俺はいろいろ質問するのだった。質問というより、ゲームとしての『マジカルアタッカー』の感想かもしれない。


「たださあ、異世界としての『マジカルアタッカー』の世界を俺がこの部屋でのぞいているというならともかく、単純にゲームとしてならちょこちょこ不満なところがあるんだけど」

「へえ、とりあえず聞こうじゃありませんか、ナカおじさん」

「いきなりスライムとの戦闘に突入するのはいいとして、そのあとイベントシーンを挟んだだけでゴーストとの二戦目になるってのはちょっとなあ。ゴーストとの二戦目の前に、王宮を歩きまわって人と話したりするのがゲームのセオリーなんじゃないの」

「それはロールプレイングゲームのセオリーですね、ナカおじさん。ゲームと言っても、ロールプレイングゲームばっかりじゃないんですよ」

「あれっ、『マジカルアタッカー』ってロールプレイングゲームじゃないの。最初にスライムと戦って、王宮で王様となんやかんやなんて典型的なロールプレイングゲームの導入部じゃない」

「ストーリーはよくあるロールプレイングゲームのファンタジーものみたいですけど、システムは違います。格闘ゲームみたいに、ステージを攻略したらデモムービーが流れる仕様とでも思ってください、ナカおじさん。魔法使いを操作できるのは戦闘中だけです」

「えっ、じゃあ、お金をためて装備をそろえたり、他人の家のタンスやつぼをあさったりできないの。俺、そういうの結構楽しみにしてたのに。『マジカルアタッカー』の製作者が手抜きしたんじゃないの」


 そう言って俺は女子高校生のソトをちらりと見た。すると、女子高校生のソトは口をとがらせる。


「なんで『マジカルアタッカー』の製作者の部分であたしに視線を向けるんですか、ナカおじさん。あたしはただ『マジカルアタッカー』の世界に召喚されただけって言ってるじゃないですか。そうですね、製作者への文句と言うのなら、今度『マジカルアタッカー』の世界の神様にあったときに伝えておきましょうかね」

「ついでに装備をそろえたり、他人の家をあさりまわったりしといてよ。実際に『マジカルアタッカー』の世界に召喚されているんだから、それくらいできそうだしね」

「いいですよ、ナカおじさん。あたしは本当に『マジカルアタッカー』の世界に召喚されているんだから。そのくらいおやすいご用です。そもそも、『マジカルアタッカー』はおじさんにとってはゲームであっても、あたしにとってはゲームじゃないんですからゲームとしてのシステム面をどうこう言うのはナンセンスです」


 そんな話を二人でしていると、停電が治って部屋の明かりがついた。


「おっと、停電も治ったみたいですし、祝勝会といきますか、ナカおじさん。昨日作れなかったすき焼き、今から腕をふるってつくってあげますからね」

「そいつは楽しみだね。俺もまだ『マジカルアタッカー』のゲーム性について言い足りないし」

「だからゲームとして話さないでくださいってば、ナカおじさん」


 とりあえずゴーストとの戦闘練習は明日からになりそうだ。今日のところは祝勝会を楽しむとしよう。

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