第54話二戦目の対策

「ゴーストと戦ってはいないって。女子高校生のソトさんが『マジカルアタッカー』の世界に召喚されていると同じ時に、俺がこの部屋でスペシャルファミコンのコントローラーを操作して魔法使いを動かしているんだよね。練習モードじゃない時は。さっきのゴーストと戦っている女剣士は練習モードの輪郭女剣士じゃなくて、グラフィック表示された女剣士だったぞ。それなのになんで女子高校生のソトさんはゴーストと戦っていないんだ」


 俺はそう追求するが、女子高校生のソトは何食わぬ顔をして答えるのだった。


「それなんですがね、ナカおじさん。どうもあたしが召喚される『マジカルアタッカー』の世界と、おじさんがプレイするゲームの『マジカルアタッカー』の世界の時間の流れが完全に一致するみたいじゃないようですねえ。ほら、ナカおじさんが停電したのに気づかずにゲーム画面で女剣士と魔法使いを跳びはねさせっぱなしにしていましたけど、あたしは『マジカルアタッカー』の世界でずっと跳びはねていたりしませんでしたし。それにナカおじさんが“ナカ”って入力する前にあたしの女剣士は『マジカルアタッカー』の世界で魔法使いに“ナカ”って自己紹介されましたし」


 俺は女子高校生のソトの長ったらしい説明にげんなりした表情をした。だが、そんなことには構わずに女子高校生のソトは説明を続けてくる。


「ええとですね、ナカおじさん。『マジカルアタッカー』の世界でスライムを倒したあと、王宮で女剣士のあたしとナカおじさんの魔法使いが自己紹介しあったらあたしはこの世界にもどってきたんです。で、ナカおじさんの停電した部屋にお邪魔したと。ですから、あたしも続きが気になってナカおじさんをせかしたんです。それで、ナカおじさんがゲームでゴーストと戦うのを見て驚いちゃったんですよ」

「それじゃあ、今すぐにでも女子高校生のソトさんは『マジカルアタッカー』の世界に召喚されてゴーストと戦うかもしれないね」


 女子高校生のソトが『マジカルアタッカー』の世界でまだゴーストと戦っていないというのなら、近いうちにまた『マジカルアタッカー』の世界に召喚されるんじゃないのか。俺はそうツッコミをいれた。少しは女子高校生のソトがあわてふためくかとおもったからだ。しかし、女子高校生のソトはあっけらかんとして答えるのだった。


「そうですねえ、ナカおじさん。今すぐかもしれませんし、一週間後かもしれませんねえ。授業中だったらどうしよう。それに、もう負けるってわかっちゃってるからなあ。スライムにもひどいめにあわされちゃいましたけど、今度はゴーストかあ。何されちゃうんだろうなあ。あたしの女剣士に憑依されて、あたしの意識だけはそのままに体だけ勝手に動いてあれやこれやしちゃうんでしょうか」


 そんなふうにたくましい想像を口にしながら、女子高校生のソトはスペシャルファミコンのコントローラーを操作しだす。


「それで、ナカおじさん。最初の一回はともかく、あたしだって何回もやられたくはないですからね。次の一週間もしっかり練習してくださいよ」


 女子高校生のソトがそう言いながら、『ゲームオーバー』と表示されたゲーム画面をタイトル画面に戻した。すると、『ニューゲーム』と『プラクティス』の選択肢の右横に、それぞれ1と2が表示されている。こんな感じに。


 ニューゲーム 1 2

 プラクティス 1 2

 リザルト


「ほら、ナカおじさん。ステージセレクトができるようになりましたよ。1と2があるでしょう。ナカおじさん、『ニューゲームがあるってことは、セーブ機能があって、そのうちゲーム中でセーブしたところから再開するようになるんだろうな』なんて思っていたんじゃあありませんか。『いちいち最初からプレイしなくてもいいのは助かるけど、そうなるとスライムに好き放題にされる女剣士というシチュエーションを楽しめなくなるなあ。途中でセーブしたのにまたニューゲームを選ぶのもなあ』なんて悩んでいたんじゃあありませんか。ご安心ください。この『マジカルアタッカー』はステージ選択式ですから。おじさんが望むのなら、いつでもスライム戦をあたしがいっしょにやってあげますからね」

「女子高校生のソトさんは、いつ『マジカルアタッカー』の世界に召喚されるかわからないのに『いつでも』なんて言っていいの』


 俺の性癖について妄想を膨らませる女子高校生のソトに、ちくりと注意する俺だった。


「だいたい、『次の一週間もがんばって練習してくださいね』なんて言っていたけど、どうして練習期間が一週間だなんて言えるんだ。一週間後に『マジカルアタッカー』の世界に召喚されるって確信していなきゃあそう決めつけられないぞ。女剣士のソトが『マジカルアタッカー』の世界でスライムを倒したあとに、王宮で魔法使いと自己紹介しあってこの世界に戻ってきたなんて言っていたな。それなら『マジカルアタッカー』の世界の神様に『また一週間後召喚するからね』とは言われていないはずだぞ。さあ、どうなんだ」


 続いてそうたたみかける俺である。

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