第25話女子高校生とメル友になる俺
「ほめてあげると言ったのは取り消します、おじさん。ゲームプレイ時間を長くしたからって、そんなことを言い出すようじゃあダメダメもいいところです」
すっかり御機嫌ななめになってしまった女子高校生だ。
「どうせあれでしょう。仕事を首になったから曜日の感覚がなくなって、そのうえ『マジカルアタッカー』ばっかりやるもんだから時間の感覚までなくなってきたんでしょう。ろくに寝てないんじゃあないですか。それであんなことを言い出す精神状態におじさんはなってしまったんです。このままでは廃人まっしぐらですよ、おじさん」
さっきまでは凄腕コーチっぽかったが、俺の発言を『セクハラです』となじって顔を赤くしているところは年頃の女子高校生らしい。『やっぱりまだまだおさないんだな』と思っている俺を女子高校生はしかりつけてくる。
「なにニヤニヤしているんですか、おじさん。そんなおじさんにはもっと監視を厳しくする必要があります。これからは毎日夕方六時にあたしがくるだけじゃありませんよ。ラインでのあたしへの報告を義務付けます。とりあえず、朝の六時に起床報告を、そして夜の十時に就寝報告をするように。報告だけして朝寝坊とか夜更かしは許しませんからね」
「俺、ラインできないよ」
俺の返事に女子高校生はきょとんとした表情をしている。
「え? じゃあ、グループでの連絡はどうしてるんですか、おじさん」
「グループになんて入ってない」
俺の返事に女子高校生は信じられないといった表情をしている。
「首になる前は仕事してたんですよね。仕事場ではどうしてたんですか、おじさん」
「決まった場所に行って決まったことをするだけだったもん。他の人とコミュニケーションする必要なんてなかったよ」
俺と女子高校生とのあいだには深い溝があるようだ。しかし、これはジェネレーションギャップと言うより、ただ単に俺がぼっちであることが原因なのだろう。今どきのSNSなんて、ソーシャルなネットワークを作ろうとしない俺にとって覚える気にもなれない。
「そういうわけだからさ、ラインなんて勘弁してよ。いまさらそんな最先端のテクノロジーは俺に覚えられないよ。いまだに『スペシャルファミコン』の実機でゲームをやっているのもそのあたりに原因があるんだからさ。メールでなんとかならないかな、メールならかろうじてやったことがあるんだけど」
「メールですか。ツイッターやフェイスブックも無理なんでしょうね、おじさんには」
「そんなものは無理です。最近の高校生はメールしたりするのかな」
俺が今時の高校生の通信手段事情について質問すると、女子高校生はなにやら考え込んでいたが、急にぱあっと明るくほほを赤くして俺のお願いにこたえてくれた。
「いいえ、しません。あたしたち女子高校生にとって、メールなんて過去の遺物です。ですけど、おじさんみたいな古くさい人間にはメールくらいしか通信手段がなさそうですからね。ふつうの今どきの女子高校生ならやらないようなメールを、あたしがしてあげます。どうせ、おじさんだって最近は誰ともメールなんてしてないんでしょう」
「そうだよ。よくわかったね」
「こんなの、推理するまでもありません」
俺の交友関係のなさを言い当ててくる女子高校生である。そんな女子高校生が俺のスマートフォンを手に取り操作しだすのだった。
「で、おじさん。自分のメールアドレス把握してます? どうせ動画サイトのログイン用につくったアドレスを放置してるくらいじゃないんですか」
「いちいち俺のソーシャルネットワークへのつながってなさを言い当ててくるねえ」
そうぼやく俺に、女子高校生は操作し終えた俺のスマートフォンの画面を見せてくる。
「はい、おじさん。全部あたしが設定しておいてあげましたよ。アプリでメールできるようにしておきました。あたしもメールアドレスつくっちゃいますね」
そう言うと女子高校生は、自分のスマートフォンを操作しだす。しばらくすると、俺のスマートフォンが着信音を鳴らしてくる。ここしばらくは使われなかった機能だ。
「ほら、おじさん。あたしがメール送りましたよ。早く読んでください。それとも、メールの読み方もあたしがレクチャーしなきゃだめですか」
そう女子高校生に侮辱まじりにせかされて、俺は俺のスマートフォンを操作して、新しく追加されたメール用のアプリを開く。新着メールの知らせが表示された。その新着メールを開くとこんな内容だった。
『このメールは、このスマホの初めて届いたメールですか?』
ばかにするな。動画サイトにログインした時に仮パスワードを知らせるメールが届いたことがある。そう思って女子高校生をにらみつける俺である。すると、女子高校生が涼しい顔をして返答してくる。
「ほら、さっさと返信してくださいよ、おじさん。メールには返信するのがマナーですよ」
そう女子高校生に言われて返信しようとするが、どうにも文字入力がうまくいかない。そういえば、スマートフォンではネット閲覧するばっかりで、文章を入力するなんてほとんどなかった。何か入力するにしても、検索ワードを入力するくらいしかしてこなかった。
そんなこんなで、女子高校生に見物されながらスマートフォンでの文章入力に悪戦苦闘する俺だったが、なんとかメールを作成し、女子高校生のスマートフォンに送信するのだった。
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