第41話ノートとリザルト画面の数字を見比べる俺
「だけど、さっきも言った通りそちらさんがスライムを倒したことを俺のクリアにするのはなにか違うような気がするし、このままがいいよ」
「おじさんがそれでいいならあたしもそれでいいですけど」
女子高校生も納得してくれたようだ。すると、女子高校生は気をとりなおして帰り支度を始めだした。
「それじゃあ、おじさん。今日はこのくらいであたしは帰りますけどね。おじさんには曜日の感覚がなくなっているかもしれませんから言っておきますけど、あさっての夕方六時はあたしがこの部屋に来てから一週間後で、その時にはあたしは『マジカルアタッカー』の世界に召喚されていますからね。あさってはあたしはおじさんの部屋にはこれませんからね。明日の夕方六時にあたしがこの部屋に来るのが、とりあえずあたしが二回目に『マジカルアタッカー』の世界に召喚されるまでにおじさんにアドバイスできる最後の機会になりますからね」
「そうか。もうそれだけたったのか」
あさってまた女子高校生が『マジカルアタッカー』の世界に召喚されるのか。早いような気もするし、遅いような気もする。そんなふうに俺が思っていると、女子高校生がいたずらっぽく笑ってこう付け足してくる。
「あさっての夕方の六時にあたしが『マジカルアタッカー』の世界に召喚された時、あたしと一緒にスライムと戦っている魔法使いの動きが下手くそだったら、それはおじさんのコントローラーでの操作が下手くそということですが、おじさんはあたしがスライムにやられるところを二回とは言わずに何回でも見たいからわざとあたしの足を引っ張っているとみなしますからね」
「そういう話は、とりあえず明日の練習結果の数字を見てからにしてくれ」
「それじゃあ、明日のおじさんの練習結果を楽しみにしていますよ。それと、明日に調理道具ひとそろえが宅配便で届くことになっていますからね」
そう言いながら、女子高校生は空になったおにぎりケースの容器とふたの両方を台所の流しに持っていく。
「おじさん、台所用洗剤とかスポンジとかも明日届きますから、今日のところは水につけておくだけはしておきますよ。それと、納豆も買っておいてありますから、冷蔵庫に入れておきますけど、これも食べておいてくださいね。納豆を食べるのに使った割りばしは再利用しないほうがいいと思いますけど。ああ、おじさんは座ったままでいいですよ。年なんだからおとなしくしていなさい」
そう言って冷蔵庫に納豆を入れると、女子高校生は部屋から出ていくのだった。
「それじゃあ、おじさん、また明日」
そんな言葉とともに俺の部屋の玄関のドアが閉じられる。それを部屋にいながら見ていた俺は一呼吸ついたと寝転んだ。そして、ふと思い立ちノートをペラペラめくるのだった。
トライ 183 91 92
クリア 76 30 46
ミス 23 0 23
最初の見開きページには女子高校生がこんな数字を書き込んだんだった。二日目にミスがゼロ回ということを不思議がったり、三日目には成功率が半分くらいになったと喜んでいたことが思い出される。
91、25、66。その次のページにはたくさんの正の字とそれを合計した数が書かれている。筋肉痛に苦しんだ結果がこの有様だ。われながらひどい数字である。
46、23、22。さらに次のページにもたくさんの正の字とそれを合計した数。今日女子高校生が部屋に来た時は44、23、21だったはずだ。しかし、女子高校生がスライムを倒したらクリアを一つ、そして女子高校生が焼うどんをすすっていながら俺がスライムの攻撃をよけ続けていたぶんクリアが一つにミスが一つ増えたからこんな数字になっている。
俺はリセットボタンを押していないから、本来ならばクリアとミスの回数を足した数かトライの回数と同じになるはずだが、46と23足す22イコール45で、一つずれている。
今までのクリア回数を足したらどうなるのかと思って、ノートに記録したクリアの回数を全部足すと、76足す25足す23で124。
テレビの画面にはさっき女子高校生の妨害に屈して、俺の操作する魔法使いがスライムにやられて『リトライ?』と表示されたままになっている。その画面からタイトル画面に戻り、リザルトの選択肢を選んでリザルト画面にすると、こう表示される。
ステージ1
トライ 320
クリア 125
ミス 111
たしかにクリアの回数が、ノートの記録を全部足したものが124でリザルト画面に表示されている回数は125。今日、女子高校生にスライムを倒してもらったぶんはノートにクリアとして記録していないから、125から1つ引いた124がノートのクリア回数の総数になっている。
そういえば、女子高校生が初めて俺の部屋に来た時にも鮮やかにスライムを倒してみせたっけ。あの時はノートに正の字でカウントしていなかったから、あれもクリアに数えちゃっているな。今思い直してみるとおかしな話だ。さきほど女子高校生に『俺がスライムを倒したわけじゃないから、クリアとしてノートに記録しない』なんて言った時は、そんなことに気づきもしなかった。
女子高校生はどうだったのだろうか。内心『初日にあたしがスライムを倒してあげたこともう忘れちゃったんですか、おじさん』なんて思っていたのかもしれない。それならすぐその場で口にしていたかな。
ミスが111回かあ。それにしても結構プレイしていたな。最初の方は輪郭女剣士のヒットポイントがゼロになるとリセットボタンを押してたから、それ以上に俺は輪郭女剣士をスライムに倒されたことになる。俺がこの『マジカルアタッカー』の腕前のまま、あさっての夕方六時に女子高校生がゲームの世界に召喚されたら……
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