第35話女子高校生が作った料理を味見する俺

「へええ、そうきましたか、おじさん」


 割り箸でおにぎりケースのふたのほうによそった焼うどんをすすっている俺を、女子高校生は冷ややかな様子で見つめてくる。


「おにぎりケースは容器のほうもふたのほうも茶碗がわりになるから、ふたのほうにあたしの作った焼うどんをよそうのはいいでしょう」


 女子高校生は肩をわなわなとふるわせている。


「ですけど、割り箸を押入れから引っ張り出してくるとは予想外でしたよ、おじさん。そもそも、この部屋に割り箸があるのなら、どうして昨日のうちにそう言ってくれなかったんですか。あたしは昨日台所を調べているときに『お箸もないようですねえ』なんて言ってたんですから、そのときに『箸なら割り箸が押入れにあるよ』と言ってくれてもよかったんじゃあないですか」

「それは……それもそうだね。なにせ俺以外の人間がこの部屋の台所をうろつきまわっているなんて今までなかったから、そんなことまで気が回らなかったんだ。どうもすいませんでした」

「そ、そうだったんですか。それならしょうがないですね」


 俺がそう謝ると、女子高校生はそれ以上俺を責めようとはしなかった。代わりにもくもくと自分が作った焼うどんをすすりながら、俺にぽつりと尋ねてくる。


「ちなみに、どうして押入れに割り箸が用意してあったんです。ずいぶん備えがいいじゃないですか、おじさん」

「それはね、以前コンビニでお弁当買ってきたら店員にお箸をもらうのを忘れちゃってね、部屋に戻ってさあ食べようと思ったらお箸がない。そちらさんも確認したように台所にお箸があるわけでもないからね、どうしたものかとしばらくコンビニ弁当とにらめっこしていたことがあったんだ」

「それでどうしたんですか、おじさん」

「弁当の容器を手で持ち上げて口に近づけて、容器から直接口で食べたんだ。さすがにどうかと思って、使ったあとの割り箸を洗っていくつかとっておくことにしたんだ。それがこんな形で役立つとは思わなかったけど」

「あたしもこんなことになるとは思いませんでしたけども……まあいいでしょう。それじゃあお食事タイムにしましょうか、おじさん。部屋でおじさんの昨日の『マジカルアタッカー』の練習結果を確認しながら食べましょうかね。おじさん、鍋敷きになるようなものありますか」

「鍋敷きねえ」


 そう女子高校生に聞かれるが思い当たるものがない。新聞はとっていないし、最近は雑誌のたぐいも買っていない。いくらなんでも机の上の一万円札を鍋敷きにするわけにはいかないし……そう俺が思い悩んでいると、女子高校生が待っていられないと言った感じで焼うどんが入ったおにぎりケースの容器のほうを持ったまま部屋に向かっていく。


「ないみたいですね。だったら、焼うどんの入ったフライパンはガスコンロに置いたままにしておいて、茶碗がわりのおにぎりケースによそった焼うどんを食べ終わったらそのつど補充しに戻ると言うことにしましょう。いいですね、おじさん。ああ、部屋の明かりつけちゃいますよ」


 そんなことを部屋に向かってあかりをつけながら女子高校生は言ってくるが、特に反対することもない。俺も年だし、それほどたくさん食べることもないだろう。


「うん。それでいいや」


 そう俺が返事をすると、女子高校生が俺の部屋に持ち込んである座布団に座りながらなにやら質問をしてくる。


「それで、おじさん。今はステータス画面になってますけど、これどうします。あたしが部屋に来るまでは練習モードでスライムと戦っていたんでしょう」

「ああ、そう言えばそうだった。なんだかんだで間が空いちゃったからなあ。魔法使いをスライムに突っ込ませてヒットポイントをゼロにさせちゃていいかな」


 そう女子高校生におうかがいをたてる俺である。女子高校生が見てる前で魔法使いを自分からやられさせてしまうのは、なんとなく気が引ける。そう思っていると、女子高校生が俺に確認してくる。


「おじさんが自分から魔法使いのヒットポイントをゼロにするのはともかく、輪郭女剣士はまだスライムと戦っているんですか」


 そう女子高校生に聞かれて俺はハッと気づく。そういえば、さっき女子高校生がこの部屋に来た時は輪郭女剣士のヒットポイントはゼロではなかった。この状態で俺が魔法使いをスライムに突っ込ませてヒットポイントをゼロにさせるということは、輪郭女剣士がスライムと戦っている最中であるにもかかわらず、俺の魔法使いが自分からやられにいくということになる。


 そんなことを女子高校生の目の前でしたら、また輪郭女剣士に一人だけでスライムと戦わせるなんて趣味がマニアックだのなんだのと言われてしまう。だが、リセットボタンを押すか魔法使いと輪郭女剣士のヒットポイントがともにゼロになるかでしか練習モードを終わらせられないこの『マジカルアタッカー』のシステムに問題があるのではないか。


 そう考えて俺はしどろもどろになりながらも必死で弁解するのだった。

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