第50話レベルアップした魔法使いと女剣士
魔法使いと女剣士が飛び跳ねている勝利画面を見ながら、俺がコントローラーのボタンを適当に押すと、画面に『レベルアップ』とのメッセージが流れる。すると戦闘画面がステータス画面に切り替わり、魔法使いと女剣士の戦闘画面で表示されているものよりはリアルなグラフィックとそれぞれのステータスがこんなふうに表示された。
レベル1→2 HP 20→22 MP 18→21 ちから 3→3 たいりょく 5→5 ちせい 7→8 せいしん 7→9 うん 5→5
魔法使いのステータスの上昇が画面の右半分で確認でき、女剣士のものも同じように画面の左半分で確かめることができる。
レベル1 HP 28→31 MP 5→6 ちから 7→9 たいりょく 8→10 ちせい 3→3 せいしん 3→3 うん 5→6
その上昇したステータスを見て、女子高校生が何やら言ってくる。
「おお、おじさんの魔法使いはちから、たいりょく、うん以外が上がったようですね。どうですか。何か実感はありますか。ですけど、ちからとたいりょくが上がらなかったのはおじさんの年齢のせいでしょうか。うんは……おじさんの器量的な?」
「うんはともかく、魔法使いはちからとたいりょくは上がりにくいものだ。そもそも『マジカルアタッカー』の世界の魔法使いが俺と同じ年代とは限らないだろう。異世界に召喚されたら年齢どころか性別や種族すら変わっていることだってあるんだから。そのあたりどうなんだ。そちらさんは『マジカルアタッカー』の世界で俺の操作する魔法使いといっしょに戦っているんだろう」
俺はそう口をとがらせるが、女子高校生は歯切れが悪い。
「それなんですがね、ほら、魔法使いのグラフィック見てくださいよ、おじさん。顔がフードでかくれているじゃないですか。外見では、年齢はおろかそれこそ性別も種族もわかりにくいんですよねえ。ですから、そのあたりはなんとも……」
「だいたい、『マジカルアタッカー』の世界の魔法使いのステータスが上がったって、現実世界の俺の何かが上昇するわけじゃ……そういや、女剣士のステータスはちせいとせいしんが上がってないな。そちらさんは実際に『マジカルアタッカー』の世界に召喚されているわけだから、これは今俺の目の前にいるそちらさんの何かを反映しているとも考えられるけど……」
俺は現実世界の女子高校生と『マジカルアタッカー』の世界の女剣士のステータスを比較しようとした。そしたら、俺の言葉をさえぎるように女子高校生が隣できゃあきゃあ騒ぎだした。
「うわあ、あたしの女剣士ってこんな感じになるんだ。戦闘画面のデフォルメされたグラフィックとは違って、これはまた……『マジカルアタッカー』の世界で実際にこんなきわどい鎧を着ていた時もどうかと思いましたけど、こうしてリアルなグラフィックとして見せられると……われながら恥ずかしくなってきちゃいましたね。せっかくだから写真撮っちゃおっと。うまい具合に停電で部屋中真っ暗ですからね。いい写真が撮れそうです」
そう言って女子高校生は自分の女剣士のグラフィックを自分のスマホで撮影し出した。恥ずかしいと言いながらなんで撮影するんだ。自撮り写真をSNSにアップするのが最近の中高生の日常らしいが、俺にはよくわからない発想だ。
「ところで、おじさん。あたしの女剣士のグラフィック見たのこれが初めてですか。一週間前のファーストプレイの時もこのグラフィックを見るチャンスはおじさんにあったはずですが」
スマホで自分の女剣士が映ったテレビ画面を撮りながら女子高校生が俺に質問してくる。
「一週間前の俺にそんな余裕はありませんでした。あっという間にスライムの攻撃に突っ込んで魔法使いがやられて、そのあとすぐに女剣士もやられて、そちらさんがこの部屋に怒鳴り込んできたんだから」
「ということは今おじさんは初めて、このリアルな女剣士のグラフィックを見ているわけですね。その感想を、女剣士本人であるあたしに聞かせてくれてもいいのではないでしょうか」
『マジカルアタッカー』をプレイしていた最初の頃は、輪郭女剣士のグラフィックがしっかり全部表示されることがモチベーションになっていたのも事実だ。本当のところ、今だってじっくり見てみたい気持ちはある。隣に女剣士本人である女子高校生がいなければ。いくらなんでも女子高校生本人がみている横で、女子高校生本人のきわどい画像を、女子高校生本人にああだこうだ言われながら鑑賞する気にはなれない。
「いやあ、スペシャルファミコン末期のドット絵は素晴らしいな。三次元コンピューターグラフィックスが発達してしまった現在では失われてしまった芸術と言える」
「へえ、芸術ですか。裸婦像を『芸術だから』と言い訳して見ていてそうですもんね。中学生の頃のおじさんは。で、その芸術的ドット絵ですがいい感じにあたしのスマホで撮れてますよ。部屋が暗いから撮ってるあたしがテレビ画面に映りこみませんしね。知ってましたか、おじさん。部屋が明るいと、テレビ画面を撮影したら撮影した本人が画面に映っちゃうことがあるんですよ」
ネットにいやらしい画像がいくらでもある時代に青春時代を過ごせなかった俺の中学生時代を想像しないでほしい。それにしても、テレビ画面をカメラで撮る時には画面の映り込みなんてものに気を付けなければならなくて、そのことを女子高校生が当たり前のように知っている時代なのか。そう思いながら俺がコントローラーのAボタンを押すと、『魔法使いは“ワイドヒール”を覚えた』と言うメッセージが表示される。
「わ、おじさん。新しい呪文ですね。これは次が楽しみですね」
そう女子高校生ははしゃいでいるが、俺は『やはり次があるのか。また特訓の日々を送るのか』なんて気持ちになる。そういえば、次はいつ女子高校生は『マジカルアタッカー』の世界に召喚されるのだろうか。やっぱり一週間後だろうか。そうなると、一週間は新しい戦闘が始まることはないな。一週間は練習しなくてもいい。さて、何をしよう。
「ほら、おじさん。何をしているんですか。早くストーリー進めてくださいよ」
これから先のことを考えている俺に、ゲームを進めるようせかす女子高校生だ。いいじゃないか。どうせ今からどんなイベントが起きるか知っているくせに。そう思いつつもコントローラーのAボタンを押すと、ステータス画面から戦闘画面に戻った。そして、魔法使いと女剣士が飛び跳ねるのをやめ、トコトコ画面の外に歩いていく。
変だな、俺はコントローラーを操作していないのに。戦闘後のイベントシーンだからだろうか
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