『リトライ？』

　そんなこんなで女子高校生に気を散らされた結果、俺は魔法使いのマジックポイントを使い切ってしまって回復魔法が使えなくなり、そのままスライムに魔法使いを倒されてしまった。

「いやあ、なかなかみごとにスライムの攻撃をよけていらっしゃいましたねえ、おじさん。あれだけ長い間ねばっていられるなら、トライ回数が前回の半分になっているのも納得です。しかも、あたしの妨害工作にじゃまされながら」

　やっぱり、俺の隣で焼うどんをすすったりしていたのは妨害工作だったのか。しかもそれを自分で認めてしまった。いじわるにもほどがあるんじゃあないのか。

「あのさあ……」

　一言文句を言おうとする俺だったが、女子高校生がそれを制して俺に焼うどんを差し出してくる。

「まあまあ、おじさん。言いたいことがあるのはわかりますが、とりあえずあたしの作った焼うどんを食べながら話を聞いてくださいよ。はい、おじさんのおにぎりケースのふたの方。夕飯にしながらおじさんの練習の結果をああだこうだ話すってことになってたじゃないですか。『焼うどんを全部食べちゃうかも』なんて言いましたが、心配しなくてもちゃんとおじさんのぶんは取って置いてありますから」

　女子高校生にそう言われて、差し出されたふたの方のおにぎりケースに入った焼うどんを受け取ると、俺も焼うどんをすすり始める。そんな俺を見て女子高校生は満足そうに話し始めるのだった。

「あたしがおじさんの隣でわちゃわちゃしていたのにはきちんとした理由があるんです。もちろんあわてふためくおじさんを見て楽しむと言う理由もありますが、それ以外にも理由はあるんですね」

　ずずっ

　女子高校生の俺をドギマギさせたいと言う発言に、俺は文句を言う気にもなれずに焼うどんを勢いよくすすりこむ。そんな俺をにやにや見物しつつ話し続ける女子高校生である。

「おじさん、あたしが『マジカルアタッカー』の世界に召喚されてスライムと戦っている時、その時はおじさんも魔法使いを操作しているはずですが、何か想定外の緊急事態が起こらないとも言い切れませんよねえ。急な来客はおじさんには無用の心配かもしれませんけど、勧誘かなにかで呼び鈴を鳴らされたりしないとも限りませんよ。そんな場合に備えて、あたしが隣でごちゃごちゃするくらいでは動じないようになってもらいませんと」

　ずるずる

　まあ、女子高校生が言うことももっともな気がする。そう思うと俺の機嫌もおさまり、焼うどんのすすりかたもおだやかなものになる。

「その様子だとあたしの言い分をわかってくれたようですね、おじさん。でも、トライ回数が減った理由がわかってしまえば、今回のおじさんの練習結果は悪くないんじゃあないですか。トライ、クリア、ミスが４５、２３、２１ですから半々の成功率ってところですね。おじさんの筋肉痛を考慮すれば、これは悪くないんじゃないですか。明日に期待ってところですね。あっ、焼うどん食べ終わったみたいですね。どうですか、おかわりしますか」

「とりあえずは話を最後まで聞かせてよ。続きが気になるから」

　俺の練習結果を悪くないと言う女子高校生に話しの続きを催促する。

「続きはいいんですがね、おじさん。今回もスライムに輪郭女剣士も魔法使いもやられちゃったわけですがノートにはどう記録しますか？　クリアはしてないですけど、ミスにしちゃうのも厳しいといえば厳しいですよ。わざと輪郭女剣士をスライムにやらせさせたんだし」

「それもそうだけど、スライムにやられちゃったことには変わりないからね。ミスにカウントしちゃうよ。ノート貸してくれる」

　俺はそう言って机に置いてあったノートを手に取ると、トライとミスの欄の正の字の所に一本ずつ線を書き足して合計数も一つずつ増やしておいた。これでトライ、クリア、ミスの数字は４５、２３、２１から４６、２３、２２になった。そんな俺の様子を見ながら女子高校生が俺に質問してくる。

「ところでおじさん、あたしがさっきクリアした時、ノートにはクリアの欄にチェックしなかったでしょう。トライの欄に一本正の字の線引いただけで。でも、スライムを倒したことは倒したから、リザルト画面のクリアの数字にはカウントされているはずですよ。だから、ノートのクリアの数字より、リザルト画面のクリアの数字が一つ多くなっているはずですがいいんですか。こういうの、おじさん気になったりしませんか」

　それもそうか。俺が魔法使いにスライムの攻撃をよけさせ続けている前に、女子高校生がスライムを倒したがそれはノートにクリアとして正の字に線を加えなかった。だが、『マジカルアタッカー』のゲーム内ではスライムを倒したイコールクリアだからリザルト画面でもクリアとしてカウントされているはずである。

　たしかにノートのクリアの数字とリザルト画面のクリアの数字にズレが生じていることになるが……