第52話魔法使いの名前
「えっ、だって、女子高校生のソトさん俺のどんなことも知ってたじゃない。俺が仕事を首になっとこととか、部屋に引きこもってゲームばっかりしてることとか」
「おじさんが仕事を首になっとこととか、部屋に引きこもってゲームばっかりしてることとかを知ってるとは言いましたけど、どんなことも知ってるとは言ってませんよ。あたしがおじさんの名前を呼んだことありましたっけ」
そういえば、女子高校生のソトは俺のことを”おじさん”としか呼んでいなかった気がする。だが、俺の部屋の住所まで知っているのに、本名は知らないってどういう事なんだ。
「ほんとに俺の本名知らないの」
「そう言われましてもねえ、おじさん。知らないってことを証明するのは難しいんですよ。おじさんの本名を知ってることを証明したいなら、あたしがおじさんの名前を言えばそれでいいんですけど、知らないことを証明しろと言うのは……あたしが嘘ついている可能性もありますし」
だから、自分で『嘘ついている可能性』とか言っちゃっていいのか。
「とにかく、おじさん。今ここでおじさんが自分の本名を教える教えないはともかくとしてですね、早く魔法使いの名前を入力しちゃってくださいよ。別におじさんの本名を入力する必要はないんですから」
そう言われても、魔法使いの名前をどうするかなんて考えてもいなかった。名前の入力画面を見る限り、なにかデフォルトの名前が魔法使いについている様子もない。さて、どうしようか。女剣士の名前はソトみたいだけど……
「ねえ、女子高校生のソトさんが『マジカルアタッカー』の世界に召喚されて、女剣士のソトと名乗ったってことでいいの」
「ええ、そうですよ、おじさん。そう言っているじゃあないですか」
「つまり、『マジカルアタッカー』の世界で女剣士のソトさんがスライムを倒したあとに、王宮で魔法使いに自己紹介したんだね。なんでソトって名乗ったの」
俺の質問に女子高校生のソトはこう答えた。
「深い意味はないですよ。『マジカルアタッカー』の外の世界であるこの世界から、あたしは召喚されたわけですから“ソト”って魔法使いに名乗っちゃいました。ちなみに、魔法使いはそのあと女剣士のあたしに自分の名前を教えてくれましたよ」
「それで、女子高校生のソトさんがこの世界に戻ってきて、俺といっしょにゲーム画面で女剣士と魔法使いが自己紹介しあうところを見ているのか」
「その通りですよ、おじさん。さあ、今からおじさんが入力する魔法使いの名前と、『マジカルアタッカー』の世界で女剣士のあたしが魔法使いに教えてもらった名前が一致するかどうか楽しみにしています」
女子高校生のソトはすでに『マジカルアタッカー』の世界で魔法使いの名前を聞いたと言った。となると、俺が今ここで魔法使いの名前をなんと入力するかはすでに決まっているような気がする。
もし、俺が『マジカルアタッカー』の世界で女剣士のソトが聞いたと言う魔法使いの名前と違う名前を入力してしまったらどうなるんだろう。俺がスペシャルファミコンでプレイしている『マジカルアタッカー』の世界と、女子高校生のソトが召喚された『マジカルアタッカー』の世界が別物になってしまうのだろうか。
それとも、女子高校生のソトはやっぱりゲームの世界に召喚されてたりはしていなくて、今スペシャルファミコンにささっている『マジカルアタッカー』のソフトも女子高校生のソトが用意したものなのだろうか。だとしたら、女剣士のソトという名前は一週間前にはプログラムされていたことになる。ここで俺がなんと入力しても、それが『マジカルアタッカー』の世界で魔法使いが言ったという名前と同じであるかどうかなんて、女子高校生のソトは気分次第で『はい』とも『いいえ』とも答えることができるし……
あれこれ考えたあげくに、俺は魔法使いの名前を“ナカ”と入力した。するとゲーム画面の女剣士がこうメッセージを表示させた。
『ナカさんとおっしゃられるんですね。これからもよろしくお願いいたします』
そのゲーム画面の女剣士のメッセージを見ながら、女子高校生のソトが俺の隣で俺のネーミングセンスをああだこうだ言ってくる。
「ふうん。“ナカ”ですか、おじさん。女剣士が“ソト”だから魔法使いは“ナカ”ねえ。少し安直すぎやしませんか」
「いいじゃないか。女剣士は『マジカルアタッカー』の世界の外から来たんだから“ソト”なんだろう。だったら、もともと『マジカルアタッカー』の世界にいる魔法使いの名前は“ナカ”しかないじゃないか。それで、どうなんだ。あっているのか、あっていないのか」
「あっているかあっていないかって、どういうことですか、おじさん」
俺が魔法使いの名前を“ナカ”としたことは正解なのかどうか女子高校生のソトに質問するも、女子高校生のソトの答えは要領をえない。
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